私の霊界紀行

2024年3月24日2024年3月25日

私の霊界紀行 – 驚異の幽体離脱体験記

F.C.スカルソープ著
近藤千雄訳

Excursions to the Spirit World
by Frederick C. Sculthorp
The Greater World Association Trust
London, England

訳者まえがき

スカルソープ氏は地味な霊能者である。経験年数からいうとすでに30年近くになるが、派手な活動をせず、著書も他に本書の続編が1冊あるだけで、コツコツと体験を積み重ねながら、つねに修養を第一に心がけている真摯（しんし）な学徒という印象をうける。

本当はすべての霊能者がそうあらねばならないのである。ところが、これは世界どの国の霊能者にも言えることであるが、霊能が出はじめると何となく偉くなったような錯覚を抱き、まわりの者にもてはやされるとその錯覚を一段とエスカレートさせ、ご大層なことを言い出し、法外な金銭を取りだす霊能者が多すぎるのである。

そうした中でスカルソープ氏は初心を忘れないきわめて貴重な存在であり、そうした性格や生活信条は本書の随所に表れている。私がぜひとも本書を翻訳して紹介したいと思った理由もそこにある。

そうした特質は取りもなおさず守護霊を中心とする背後霊団の霊格が高いことの指標であり、そのことはさらに、シルバーバーチ霊や『ベールの彼方の生活』のアーネル霊、『霊訓』のイムペレーター霊が指摘している地球規模の霊的大事業の一翼を担っていることを想像させる。

その地味なスカルソープ氏が霊界旅行から持ち帰った情報は、しかし、読む者のほとんどが、“まさか！”と思わずにはいられないであろうと想像される驚異的なことばかりである。現実ばなれがしているという意味ではない。逆に、あまりに現実的すぎるのである。霊界での生活ぶりがあまりに地上とよく似すぎているのである。

現実的すぎる – だからおかしい、というのが大方の読者の第一印象であろう。そう思われる気持は私にわからないでもない。しかし、多くの霊界通信を読み、かつ翻訳してきた1人として私は、そうした印象を抱くということ自体が地上人類の意識的レベルの指標であると言いたいのである。

それはちょうどコペルニクスの地動説が当時の人によって信じてもらえず、あまつさえ、その支持を表明したガリレイが神を冒潰する者として宗教裁判にかけられたという歴史的事実が当時の意識的レベルの指標であったのと同じである。

もっとも、現実味あふれる霊界事情を実感をもって理解するというのは多分地上にいるかぎり無理であろう。と言うのは、正直言って私は、われわれが生活している地球が“まるい”こと、しかもそれがくるくると“自転”しながら太陽のまわりを“公転”しているという事実が未だに実感をもって信じることができない。

その地球の公転のスピードが秒速30キロというにいたっては、絶対に信じられない。おそらく轟音をとどろかせながらであろうと想像されるが、それが一向に聞こえず身体に響いてこないのも不思議でならない。

それと同じで、地表にへばりついて生きているわれわれ人間にとって、本書で語られているような霊界体験は、まさか？と思いたくなるようなことが多いことと思われるが、私がこれまで30年余りにわたって調査・研究し体験してきたことから偏見なしに判断して、スカルソープ氏が報告してくれている情報は、宗教的偏見も脚色もない、あるがままの霊界の現実であると断言できる。

そう断言できる根拠を今ここで披瀝する余裕はない。それは1848年の心霊研究の発端にまでさかのぼり、今日までの百数十年のあいだのスピリチュアリズムの歩みをたどらねばならない大仕事となる。その間におびただしい数の霊界通信が入手され、かつ又、A・J・デービスに代表される霊界旅行体験者によっても、信頼に値する知識が持ち帰られている。

では、幽体離脱とはいかなる現象か – これを本格的に論ずれば1冊の書物にもなるが、幸い本書にはカール・ミュラー博士の解説がついている。概略を知る上では十分であり、内容的にもスピリチュアリズムの知識に裏打ちされたオーソドックスなものとなっている。

ご自分でひそかに同種の体験をされてる方は、スカルソープ氏の体験を読まれて、それ決して妄想でも幻覚でもない – したがって自分が異常者でないことを知って安心なさることになるであろう。

また一方には半信半疑ながらも興味をそそられ、次の段階の勉強に進まれる方もいるであろう。願わくばぜひそうあってほしいというのが私の切なる気持であるが、他方にはすべてを他愛ないオトギ話として一蹴される方もいるであろう。

そうした方に一言だけ申し上げておきたいのは、当たり前のように思っているこの地上環境を構成している物質について、現代の最先端を行く科学者ですら、まだ、その本質を捉らえきれずにいるという事実を忘れないでいただきたいということである。

昭和62年
近藤千雄

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1章　不思議な体験の始まり

そもそものきっかけ

20年あまりにわたる私の意識的な体外遊離体験について語る前に、いったいこうした奇妙な体験がどういうきっかけで始まり、そして全開するにいたったかを述べておく必要があろう。その背景の説明はこの種の超能力を信じる者はもとより、懐疑的な態度をとっている人にとっても興味があろうし、大ぜいの人にとって参考になるものと考えるのである。

と言うのも、実は体外遊離体験は想像されているほど珍しいものではないのであるが、予備知識なしに体験した人はびっくりし、さらには、愚かにも自分が精神的におかしくなったのではないかという恐怖心を抱くケースがしばしばあるのである。

たぶん私の場合は好条件が揃っていて、言わば、気がついたらその能力が開発されていたと言える。したがってこれについて合理的な解説は何一つできない。1934年に妻が他界するまで私は大半の人間と同じように”死後の生活”あるいは“霊”についてはまったく無知だった。

幸せな結婚生活を送っていただけに妻の死は大きな打撃だった。妻は2人の子供と店を残していった。が、店は何とか私1人で切り盛りできたし、子供の方もその後私のおばが来てくれたので、十分な世話をしてやることができた。

妻の死後も近くの図書館から巾広い分野の本を借りて思索の糧としていた。私の好きな著者の1人にオリバー・ロッジがいた。科学者であり、当時の英国学術協会の会長でもあり、私は電気および電磁波の実験に興味をもっていた。ところがある日のこと、図書館で同じロッジの著書で『なぜ私は死後の個性存続を信じるか』という題の本を見つけたのである。

私は驚いた。科学的実験法に徹し、1つの事柄について各種の実験をし、その結果がすべて一致しないかぎり満足しないロッジ博士がこんな分野のことについても本を書いていることに驚いたのである。私は博士がいかにして霊魂不滅”をテストしているかに興味を抱いて読んだ。

その結果分かったことは、この問題についても科学者ロッジは永年にわたって証拠を蒐集しており、同時に普通では考えつかないような入念な実験を重ねていたということだった。その実験結果はロッジにとって決定的なものだったし、霊魂不滅は証明されたと信じたのだった。

その決定的証拠は他界した人間の姿を見たり、霊界と地上との連絡を取り次ぎできる“霊媒”と呼ばれる人間を通じて得られていた。私はこの分野についてさらに多くの本を読む決意をした。そして分かったことは、霊魂不滅を扱った文献は実に莫大な量にのぼるということだった。

同時に私は、霊魂の存在を否定し死後の存続や死者との通信をまやかしとする人たちの本も読んでみた。しかし、そうした否定派の著者は肯定派の著者ほどその研究に用意周到さがなく、大ていは他人のしていることについて単なる個人としての意見や批判を述べているにすぎないことが分かった。そこで私は、私独自の研究をして、できることなら自分の手でそのどちらが正しいかの決着をつけたいと考えたのである。

そこでまず出向いたのがS・A・G・Bだった。（訳者注 – Spiritualist Association of Great Britain スピリチュアリストすなわち死後の個性存続を信じる人たちのための総合的施設で、現在も存在し20名ほどの霊媒が常駐して相談にのっている。訳者も1981年に当時のサイキックニューズ社の主筆モーリス・バーバネル氏の紹介で訪れた）

紹介された霊媒はヘレン・スピアーズという女性霊媒で、霊視能力者だった。女史に案内された部屋は小さいが日当たりのいい部屋で、ひじ掛けイスが2つ置いてあった。

2人が腰かけると、まず女史の方から私に、これまでにもこうした体験があるかどうかの質問があった。私が今回が始めてであることを告げると女史は怪訝（けげん）な顔をしながら、「じゃ、いきなり大きい成果は期待なさらない方がいいでしょうね」と言った。

それまでに私が読んだ本の中に、霊媒というのはいかにも他界した身内の霊が語っているかに見せかけるため出席者からうまいこと情報を聞き出すコツを心得ているから用心するように書いたものが何冊かあった。

そこで私は、自分だけは絶対にその手に引っ掛からないように、それらしい質問には牡蠣（かき）のように口を閉ざして答えまいと決心していた。ひとつの予防策として、その場で2人の口から出たものはすべてノートに書き留めることにした。

間もなくスピアーズ夫人が、1人の女性の姿が見えます。あなたの奥さんです、と言ってその容姿を述べはじめた。叙述は正確だった。が、私は黙っていた。夫人はなおも叙述を続け、身体の特徴、表情、それに私の日常生活と妻の死後3か月間の出来ごとを述べた。（訳者注 – 奥さんがテレパシーで伝達したものを夫人が受け取って述べている）

私は黙々と書き留め、時おり確認のための質問をしたが、それも間髪を入れず正確な返事が返ってきた。妻は自分の死後の2人の子供の様子を述べ、私しか知らないはずのその後の家庭内の出来ごとや部屋の模様変えについても語った。あとに残した親戚と、霊界で再会した親戚の話もした。

私にとってそれが妻であることを疑う余地はなかった。妻は自分の存続を示すために私が要求する証拠をすべて用意してくれていた。私は与えられた1時間をフルに使って書き留めた。霊媒はその仲立ちをすることで満足している様子で、私のノートが余白が無くなったあともなお叙述し続けた。そのうち時間切れを告げるノックがした。

その交霊会は私にとってきわめて満足のいくものであり、多くの思索の糧を与えてくれた。そして、いよいよ2人揃って部屋を出る時、スピアーズ夫人が私にこう言ったのである。「あなたもご自分でためしてみられてはいかがですか。私の姿をごらんになるのと同じくらい鮮明に奥さんの姿が見えると思いますよ」

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霊能養成会に参加

私も霊能者になれる – 少なくとも個人的な目的のために – という意味なのだろうか。いつかは私自身の霊視能力で妻を“見る”ことができるようになるのだろうか。実際にはそれ以上に劇的な体験をすることになるのであるが、その霊媒の述べたことはすべて正確だった。

ともかく私はある“霊媒養成会”に参加することになった。週に一度集まって、潜在している霊能を開発するための訓練をするサークル活動である。そうした会で心霊能力を開発している人の数は驚くほど多く、また養成法の指導書も実に多く出版されている。当然のことながら優れた霊能者が指導するサークルに参加するのがいちばん望ましい。

そのサークルにきちんと出席するうちに、これなら今までにも瞬間的に体験したことがあるぞという自覚を覚えて、自分の可能性に自信が湧いてきた。その後さらに、そうしたサークル活動とは別に、自宅でひじ掛けイスでゆっくりと寛いでいる時の方がさらに好い結果を生むことが分かってきた。

それが次第に霊界との自然でしかも素敵なコンタクトへと導いていき、それが私にとって何ものにも代え難い、内的な幸福感と満足感を与えてくれることになった。“幸いなるかな悲しむ者、その人は慰めを得ん”という聖書の言葉が私において現実となったのである。

初期のころはベットに入って完全に寛いでいる時などに私の背後霊の姿を見るようになった。そして寝入ってからまるで実際の体験のように思える鮮明な夢を見るようになった。

私は真剣に求める者はかならず睡眠中に霊的体験を得させてもらえると信じている。日中の物的精神の習性が霊的精神に反映するのである。つまり物的精神の殻を破って霊的真理を求めようとする精神活動が霊的精神にも同じ活動を生むのである。

このことを私の背後霊はのちに“黄金の粒を探し求めるようなもの”と表現したが、まさにその通りである。かくして人間側が真剣に求めようとすることが背後霊の働きかけを容易にするのである。

そのうち、ある日のこと、ひじ掛けイスに座って何かを霊視してみたいと思っているうちに、私の身体が大きな霊の腕に抱かれるような感じがした。私を抱いたその霊は空中高く上昇し、中空に止まってからこう言った –

”あなたはなぜそう霊視したがるのですか。なぜ霊の声を聞きたがるのですか。なぜ物質化現象を見たがるのですか。あなたにはそんなものよりはるかに素敵な能力があるのですよ！”そう言い終わるなり、イスに戻された。

この体験は強烈だった。私の背後にそれほどの溢れんばかりの愛情をもった霊がいてくれていることが私の想像を超えたものだったからである。私は物質化現象よりも素敵な霊的体験とはいったい何がありうるだろうかと考えた。その回答は間もなく与えられることになる。“霊界旅行”が始まったのである。

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ついに肉体を離れる

それから数か月間 – それが私にはずいぶん永く感じられたが – ベッドに入ったあとで思い切り受け身の状態に入る練習をし、ついに私は肉体的感覚が消えたあとの、覚醒状態と睡眠状態とのぎりぎりの接点で少しのあいだ意識を保っておくことができるようにまでなった。時には宙に浮いているように思えることがあったが、その状態では体重が感じられないので、多分、自分の想像にすぎないと考えていた。

ところがある夜のこと、それが現実となった。自分が上昇していくのがはっきり感じられたのである。内心では興奮しながらも、せっかくの体験を台なしにしたくないので、必死に受身の精神状態を保とうと努めているうちに、うれしいことに感覚が極度に鋭敏になり、そばに背後霊の1人が存在するのが感じられるようになった。

私自身は完全に受け身の状態で自分からどうしてみようという意図をもたなかったせいか、その動きは実にゆっくりとしていた。そのうち突如として私の肉体が激しく振動した。それはしばらくして止み、私は少しのあいださらに上昇し続け、そして止まった。

もう受け身の状態を止めてもいい頃と考えて辺りを見渡すと、私はある部屋のテーブルの後ろに立っていた。そのテーブルの前を若者が一列になって歩きながら私に微笑（ほほえ）みかけている。全員が青い服を着ているように見え、私は一瞬、第1次大戦中に私が入院していた陸軍病院で着ていたのと同じ服だと思った。

そのうち私の視力がよくなってくると、その青色は実は薄い霧状のもので、それが1人1人を包んでおり、みなそれぞれの普段着を着ていることが分かった。全員が年の頃23才ほどに見え、肌の色と目の色の完璧な鮮明さは息を呑むほどだった。実に美しかった。

私はもしかしたら自分は単に霊視しているにすぎないのかも知れないと思ってあたりを見回すと、もう1人の青年がすぐ側に立っているのが分かった。笑顔を浮かべており、その人のオーラから友愛の情を感じ取ることができた。

そして、これは霊視しているのではなく、私も同じ霊的次元にいること、したがって私は今は霊的身体に宿っているに相違ないと思った。そう思うとわくわくしてきて、その状態で霊的なことをもっと知りたいという願望が最高潮に達してきた。

霊に触ったら”固い”のだろうか。霊が自分の身体に触ったらどうだろうか。そんなことを知りたいと思ったが、はたしてどうすればよかろうか。

まさかその青年たちのところへ近づいて触ってみるのは失礼であろう。そこで私は一計を案じた。私のすぐ側に立っている霊の後ろをわざと身体に触（ふ）れるように歩いて“あ、すみません”と、さりげなく言えばいいと思った。

そしてさっそく行動に移り、その霊に触れようとした瞬間、その霊の方が私の両手をつかまえて大声で笑い出した。私もつられて笑い出した。と言うのは、2人のオーラが交錯してお互いの心で考えていることが分かったからである。

これが事実上、霊界の事情についての勉強の始まりであった。同じ次元ないし同じ波長の状態にあればお互いに“固い”と感じられること、心に思ったことが本を読むように読み取れるということがまず分かった。

2人で笑っているうちに私は自分の身体が後退していくような感じを覚えはじめた。私の気持は行きたくなかった。楽しかったからである。が身体の方が自分以外の力（背後霊）で肉体の方へ引き戻されているなと感じて、私は抵抗せず成り行きにまかせた。

その動きは穏やかで優しかった。しかも、実に“自然”に思えたのである。思うにこれは私と背後霊団との関係の親和性のせいであろう。動きが止まっている感じのまま何の感覚もなしに肉体の中へ入った。それから除々に体重と寝具の軽い圧迫感を感じはじめた。

その体験を思い返しながら部屋の暗闇を見つめているうちに、私の真上に、美しいデザインをした大きな黄金の線条細工が現れた。それはしばらくの間その位置に留まっていて、やがて薄れながら消滅していった。

その線条細工は天井全体をおおうほどの大きさで、これは体験がうまくいった時の、言わば成功のシンボルだった。と言うのは、その後の霊界旅行のたびに、うまくいった時はかならずそれが現れたからである。シンボルは白い大理石に彫（ほ）られた浅浮き彫りであることがよくあった。私はそれをしみじみと観賞し、これは霊界で技術を磨きあげたかつての大彫刻家が彫ったのではなかろうかと考えたりした。

遊離状態から戻ってきてしばらくは、その間の霊的感覚が残っていて霊視能力がひじょうに強烈である。そのため肉体に戻ってからは、そのデザインが暗闇の中でも肉眼で鮮明に見えたのである。

それが消えたすぐあと、もう私は、これから先さらにどんなものが見られるかと楽しみでしかたがなく、時にはその晩もう一度旅行できないものかと思ったりした。が、間もなく普段の眠りに落ちていた。

その最初の霊界旅行は、短かさのせいでもあるが、私が肉体から離れて1時間、すなわち幽体離脱ないし体外遊離現象の最初から終わりまで完全に通常意識を維持できた唯一の体験である。

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2度目の体験

それ以後私は毎晩のように床に入ってから受け身の精神状態になるように努めた。すると数日後に身体が静かに浮き上がるのを感じた。こんどは、どうなるのだろうかという不安の念は起きなかった。すでに一度体験がある。私は楽しい期待をもって次の変化を待った。今回は振動は起きなかった。多分、背後霊が身体からの反応を遮断するコツをマスターしてくれたのだろうと考えた。

上昇する感じはなおも続き、次第にスピードを増していき、ついに意識が維持できなくなった。そして次に意識が戻った時は私は白い石段を上がりつつあった。私のすぐ右を10歳前後の少女がいっしょに歩いており、その子の右肩に私の右手を置いている。

そうしたまわりの状況が意識されると同時に私は、妻はどうしているのだろうという考えがふと湧いた。すると、まるで受話器を耳に当てて聞いているような響きで妻が私は大丈夫よ、フレッド。あとでお会いしましょうね”という声がした。

その瞬間私は何かの本で読んだ“霊的には本当の別れはない”という言葉が事実であることを理解して、それまでの懐疑の念が拭い去られた。たぶんテレパシーのようなものだったのであろう。

その頃はもう私は自分の置かれている情況に注意を向ける余裕ができていた。少女のオーラと接触するのは楽しい体験で、私は子供らしい屈託のない愉快な気持を感じ取ったが、同時にその少女にはもっと年上の子供のもつ落着きと成熟感も具わっているように思えた。

2人が石段のいちばん上まで来たとき私はその少女の肩を抱きしめて、骨格があるかどうかを確かめてみた。なんと、ちゃんと骨格があったのである！当時の私は霊的なことにまったく無知だったのである。

石段を上がりきるとホールになっていた。2人で中へ入ると、そこは最近他界したばかりの者 – たぶん身体上の病気が原因で – が霊界生活での意識に十分目覚めるまで養生するところであるような感じを受けた。

ホールいっぱいにそういう人がいて、その1人1人に縁故のある人やヘルパーが付き添い、意識が回復するのを根気よく待ちながら介抱している。中をぐるっと回ってみた感じでは、まるで午睡を楽しんでいる人たちみたいで、目をうっすらと開けている者もいた。

ホールのいちばん奥まで来て私は黒のコートと縞のズボンの、がっちりとした体格の男性の前で足を止めた。するとその男はゆっくりと目を開けて私を見つめた。その時である。

その男の背後にオルガンの鍵盤が現れ、はっきりした形体を整えたあと、すぐまた消えていった。私はその半睡状態の人間から強い想念体が出たことにびっくりした。そして多分この男性は地上でオルガン奏者で、オルガンが最大の関心事だったのだと推測した。

その位置からずっと先に身体が奇妙な動きをしている女性がいた。あたかも水面に映った映像が波で歪（ゆが）むように、形体が変化しているのである。見ていて私は気味が悪くなって、少女といっしょにその側を急いで通りすぎた。しかし実際は少しも心配するには及ばなかった。本人はとても穏やかな心の持主だったのである。

その近くの通路を通って私たち2人は控え室に入った。そこは照明も明るく、ヘルパーたちが大勢いた。すると私の前に1人の若者が連れてこられた。私はすぐにそれが22年前にガリポリ半島で戦死した戦友の1人であることが分かった。

顔は青ざめ、やつれ果て、目を閉じたままだった。私には何をしろというのか分からなかったが、ともかくその男を私に合わせることで（彼を目覚めさせる上で）何かの手掛りが得られるのではないかとの期待があったものと思われる。残念ながらその思惑は外れた。故意なのか、それとも不可能だったのかは知らないが、彼は目を閉じたままだった。

2人は控え室を出て再びホールに入った。が、すぐにホールを出て例の白い石段を下りていった。私のいつものクセで、下りながら一段一段足もとに注意していて始めて気づいたのは、その女の子が素足だったことである。

長いドレスを着ていたので、それまで気づかなかったのである。私が驚いて
「オヤ、何もはいてないじゃないの！」と言うと「いいの」と言う。「いいことはないよ。何かはかなきゃ」と私が言うと彼女はうろたえた表情で「いいえ、これでいいの」と繰り返して言った。

次の瞬間私は自分がいけないことをしたことに気づいた。と言うのは、地上的感覚で言えば大した問題ではないにしても、そのことが私とその子との間の思念の衝突を生んだのである。思念がすべてである霊の世界においては、それは避けられないことだった。

階段を下り切ってから私はそろそろ今回の霊界探訪も終わりに近いことを感じ取った。私は女の子に地上ではどこに住んでいたかを尋ねると、カナダのオンタリオだという。それを尋ねたのは、その子が私の家系と関係のある子かどうかを知りたかったからである。その直後からその子はスタスタと私から離れていき、反対に私はそのシーンから後退して肉体の方へ戻っていった。

いつもそうであるが、肉体に戻る時は、意識は残っていても霊視力は消えており、従ってその途中は何も見えていない。私は安心して受け身の気持を保ち、あたりで背後霊が立ち働いているのを穏やかに、そして心地よく感じ取っていた。

やがて私の動きが止まり、少しの間じっとしていた。するとベッドに横たわっている身体の感覚が徐々に戻ってきて、それとともに、それまでの体験が一気に思い出されてきた。

もっとも、それですべてが終了したわけではない。例によって天井いっぱいに黄金のデザインが現れたのである。その日はことのほか美しく見えた。私は心の中で背後霊の心遣いに感謝した。背後霊はかなりの数ではないかと推測した。というのは、離脱のタイミングといい、少女が案内してくれたホールでの用意周到さといい、1人のしわざとは思えなかったのである。

その時になって私はヘルパーの控え室に連れてこられた戦友に何もしてあげられなかったことを残念に思った。名前まで覚えていたのである。が、あの状態はそう永く続くものではないという確信がある。というのは、あたりの様子がとても“いい感じ”だったし、部屋の照明が輝きに満ちていたからである。

この2度目の長い旅行は申し分ないもので、うまくまとまっていたので、心の奥の高揚感と感謝の気持が終日消えなかった。ただひとつ妻のことが気がかりで、私は霊界の生活について実感をもって知りたい気持が残っていた。それまで心霊書でいろいろと読み交霊会に出席して霊言でも聞かされてはいたが、矛盾したところや曖昧なところがあった。

私にとってこの就寝時刻（ベッドタイム）が1日のうちでいちばん大切な部分を占めることになった。

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霊的法則を知らなかったための失敗

期待をこめて床に着きながら何ごともないまま数日が過ぎた。そしてやっと3回目の霊界旅行を体験することになった。

この時は同じように受け身の姿勢を保っていたが、屋根と樹木の薄ぼけた輪郭が私の身体の下を通り抜けていくのを見ているような感じだった。そこで私は意志を働かせてその映像から注意を外らせた。

私の考えではそれは地上的映像であり、それに気を取られるということは地上へ意識を戻すことであり、霊界旅行の妨げになると思ったのである。私にしてみれば、たった1度の旅行でも無駄にしたくないという気持だった – それほど興味津々（しんしん）だったのである。

間もなく動作の感覚が消えた。あたりを見渡すと、私の目に映ったかぎりではたった1人きりで明るい片田舎に立っていた。そこへ突然妻が近づいてくるのが目に入った。30メートルほど先である。私に見覚えのある足取りで笑顔を浮かべながら近づいて来る。

その時の私の気持は“ああ、やっと再会できた”という思いでいっぱいだったと述べる以外に言い表しようがない。その時の光景はそれまで何度か霊視していたものよりはるかに鮮明だった。妻は自宅に置いてある肖像写真と同じコートと思えるものを着ていた。

その写真のことを思ったことが間違いの発端だった。いつもそれを眺めては心に抱いていた哀惜の念が湧いたのである。すると突然私はそのシーンから後退し、薄い闇の中を肉体へ向けてぐんぐん引っぱられていくのを感じた。

その瞬間、私は間違ったことをしたことに気づいた。ベッドに戻ってから、肉体の感覚の中で私は残念無念に思った。が私が一方的に悪いのである。哀惜の念は地上的無知の産物である。つまり死を永遠の別れとして悲しむ情である。それは真実を完全に無視した情であり、霊的法則に反し、波長を下げることになる。

私はまだ霊界の住民ではない以上、その低い波長は肉体には適切である。結局私は地上に生活するような具合に無知のままで霊界に暮らすことは許されなかったのである。間違ったことをして一体どうして神の法則に特別の計らいを期待できようか。果たせるかな、その夜は天井に例の成功のシンボルは見られなかった。

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霊界の妻との再会

こうした体験を通じて私は、神の摂理の完璧さを学びはじめたといえる。最初の離脱体験で2つの霊のオーラが融合したときの以心伝心のすばらしさを思い出して、私はこうした教訓はすべて目に見えない1人の指導霊によって伝えられていることを覚（さと）りはじめ、さらにその後、私の理解力の成長に応じて、その後のすべての霊界旅行が教訓を目標として計画されていたことを知った。

私は、背後霊団はいずれ妻との再会のチャンスを案配してくれるものと確信していたが、それが間もなく実現した。3日後に離脱現象がおき、気がつくとこのたびは田舎の小道に立っていた。

離脱現象の特徴のひとつとして私が気がつきはじめたのは、霊的身体は霊界のある一定範囲を超えると自然にスピードが増すということである。そのときもそれを意識することができた。その感覚、ないしはバイブレーションは心地よいものだった。

私はまた妻が現れるものと期待していたが、なかなか姿を見せてくれない。そこで私の方から意志を妻に集中して、ひとこと“おいで！”と言ってみた。すると少し間をおいて妻が同じ小道に姿を現し、私の方へ歩み寄ってきた。私は自分のテレパシーによる呼びかけが成功したことがうれしかった。実に簡単でしかも自然に思えた。多分それはその後の数々の体験のためのひとつの練習だったのであろう。

妻もうれしそうだった。近づいてくるのを見て、妻の容貌が生前そのままであることを確認した。やがて2人のオーラが融合するとある種の変化が生じ、妻の容貌がずっと進歩した霊のそれに変わっていた。

それまでに高級霊を何度か見たことがあるが、妻は完成された高級霊の容貌をしていた。間違いなく私のかつての妻である。が今はすっかり違っている。にもかかわらず私は、地上にいた時よりその時の方がより一層、本当の妻を理解していた。

地上の全人生と個性とがオーラの中に記録されており、オーラが融合しあうと、私とともに過した永年の生活が甦ってくるほどで、たとえ目を閉じていても妻の容貌を正確に叙述することができたであろう。妻の方も私を地上時代以上に深く理解してくれていることも分かった。

2人の間にすばらしい一体関係ができていることは、2人が“同じ”挨拶の言葉と“同じ”祝福の言葉とを“同時に”述べあったことから分かった。そうなってからは口を使ってしゃべる手間がはぶけた。言葉ではじれったいほど表現が遅くなった。2人が味わう幸福感がバイブレーションを高めているように思え、霊的一体感の中で信じられない速さで思念をやり取りすることができた。

むろんこうした体験は私にとっては一時的なものにすぎないのに、それがきわめて自然に感じられた。ところが、のちになって私はその間の会話のすべてを肉体の脳へ持ち帰ることができないことを知った。

その理由についてはあとで述べることにする。とにかくわれわれ夫婦は、最初の出会いの時の失敗のことと、その時の出会いのうれしさについて語り合ったことは確かである。

2人でどのくらいの時間をともに過ごしたかは知らないが、そのうちその界層のバイブレーションの高さが私に心地よい睡気を誘いはじめた。私はそろそろ時間がきたと感じた。すると身体がおだやかに漂いはじめた。このたびの別れはいささかの寂しさもなかった – われわれ夫婦はもうひとつの霊的法則を体験したのである。

肉体へ戻り、部屋の暗さと置時計のカチカチという音を意識しながら、私はその妻との再会と、私が目にした言語に絶した完全さへの驚嘆の気持に満たされた。その完全さを説明するかのように、その時、私の精神にあるものが印象づけられた。

それは“神の面影（イメージ）”という言葉で、それとともに天井が真珠のごとき純白の大理石でできた巨大な浅浮き彫りでおおわれた。どうやら霊の名匠が宇宙の最高の名匠（神）をたたえているようであった。

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中国人の指導霊

これまで私は、私の初期の体験を順を追って説明してきた。これで私の霊界旅行がどのようにして始まったかがおわかりいただけると思うが、その後の旅行はそれとはまったく性格の異なるものとなっていった。

その後、指導霊はどうやら私の霊的身体を肉体から離す要領を会得したようだった。それは私にとっては有難いことだった。というのは、精神統一を永く続け、その間ずっと意識を保ち続けるということは根気のいることであり、精神的にも疲れることだからである。

ベッドに入ると私はただ気持を落着け、今夜も新しい体験があることを祈念するだけである。どうやら私は毎晩のようにそれを期待していたのではないかと思う。それは望むべくもないことなのである。あとで思い知らされたのであるが、かずかずの条件が整わなければならなかったのである。

しかも、いざ離脱が起きるとなると、背骨を下から上へ強烈な電流が波うつように上昇してきて、首すじのあたりで絶頂に達するか、あるいはミゾオチのあたりに衝激を感じ、ベッドを揺するほどに全身がはげしく揺れるかの、いずれかの現象がおきる。

そのころ、ある霊視能力者を訪ねたところ、年輩の中国人の姿が見えると言い、さらに、「その中国人があなたをマグネタイズ（磁気を帯びさせる、磁気化する等の意味がある – 訳者）していると言っています。その意味はともかくとして…」と述べた。私にはそのマグネタイズされた時はそれと確認できた。

その中国人は最初の離脱の時に部屋の中で見かけた背後霊団の1人である。その時の感じはシワが多く笑顔がチャーミングということだった。地上では薬草店を開いていたという。

肉体から離れている時間が次第に長くなっていった。そのあいだ必ずしも意識が持続されているわけではない。というのも、一晩のうちに次元の異なる界層を3つから4つも往復することがあり、波長を環境に合わせている間は無意識で、次に意識が戻った時は別の界層にいるのだった。

また離脱中の意識はある種のエネルギーを補充されているかのように、弱ってきたなと思っていると強くなってくる。そのエネルギーが“魂の緒（たまのお）”（肉体と霊体とをつなぐ銀色をした紐 – 訳者）を通じて肉体から送られてくるのか、それとも指導霊が直接注入してくれるのか、そのへんのことはよく分からない。

指導霊は私の離脱中の体験のすべてに通じているともかぎらないようである。というのは、プロの霊視家を訪れて霊界での体験を私の指導霊と確認し合うと、知らないことが驚くほど多いのである。

霊媒の中には、霊界を訪れると地上生活に嫌気がさすおそれがあるので訪れないことにしている – よくよくのことがある時しか訪れないと言う人がいる。私にはその気持はよく分かるが、私の場合は妻に会い“われわれ2人”の子供たちのために地上に帰ってくるとい生活ができて有難いと思っている。

初めのうちは体験のメモを取っていたが、間もなく止めた。というのは、思い出そうと思えば、書き記したもの以上のことを鮮明に、しかも残らず全部を思い出すことができることが分かったからである。霊界で意識的に目撃したことは地上の出来ごとよりはるかに鮮明に、精神に印象づけられている。実に際立った形で思い出され、地上の記憶のように、他の記憶とごっちゃになることがない。

そこで私は、霊界の事情や霊の生活についての霊側からの通信はとかく混乱しているので、地上の人間である自分が見聞きしたことをそっくりそのまま持ち帰れば、いい霊界物語ができあがると考えた。

ところが実際にやってみると、そう簡単にいかないことが分かった。というのは、霊界の事情についての質問には“イエスでもありノーでもある”と答えざるを得ないものが非常に多いのである。正解はその霊が所属する界層によって異なってくる。同じ問題を扱っても、ある霊にとって“イエス”であることが他の霊にとっては“ノー”であることもあるということである。

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幻覚でないことの証（あかし）

心霊能力をお持ちでない方が私の体験は果たして本当か、幻覚ではないのかと質問されるのも無理からぬことであろう。そこで私は、ここで2、3の体験を紹介して、その関連性から私の霊界体験が想像上のものでないことを証明しようと思う。もっとも、本当の確信はご自分で体験される以外にないことを一応強調しておきたい。

さて私は、離脱中に地上を見物したいと思ったことはない。霊界の方がはるかに面白いからである。が、1度だけ例外がある。1939年のことであるが、2人の娘が休暇でワイト島へ遊びに行ったときのことである。

距離にして90マイルほど離れている。ある日、“昼食を終えてから”、2人がいないのを寂しく思いながら椅子に腰かけて、心の中で娘ところへ連れて行ってほしいと念じてみた。

やがて気がつくと私は2人の娘が歩いているすぐうしろを歩いていた。あたりの景色は見えなかったが、2人は2、3ヤード離れて何やらをキャッチボールのように投げ合いながら歩いている。

するとそのうしろから他の1人の女性が“私を通過して”（その時の私は地上の人間であっても言わば幽霊と同じ存在である）娘たちの中間を通り抜けた。そのことに気づいていない長女が妹に向って投げたものが、その婦人の背中に当たった。私はその娘の無礼さにオロオロした。

するとその念が一気に肉体へと私を引き戻してしまった – 霊的法則にしたがって。私はすぐさまその日時をメモしておいた。

ワイト島から肉体へ戻るのは3秒ほどだったらしい。1秒に30マイルの計算になる。そうでなくても“のろま”の私が、帰りたくもないのに無理やりに帰らされたことを思うと、これは大変なスピードというべきであろう。

その後娘たちが休暇から帰ってきて楽しい話に興じているとき、私がいきなり長女に、何かを婦人に投げはしなかったかと聞いてみた。すると長女は顔を赤らめ、一方妹の方はクスクス笑いながら“姉さんたらボールを婦人の背中にぶっつけちゃったの！”と言った。

姉の説明によると、私がメモを取った日の“昼食後”、2人が海岸へ行く道の両側にわかれてキャッチボールをしながら歩いていた時に、うしろから婦人が追い越していくのに気がつかずに投げたボールが背中に当たったのだという。

もう1つの体験は交霊会に出席中のことで、1回きりの体験である。その時の椅子がひどく坐り心地が悪いのでまさかと思っていたのであるが、指導霊が私を熱帯地方へ連れていって、ある樹木の下に降ろされた。そこで指導霊がエクトプラズムの詰まったメガホンを私に見せてくれた。それがいわゆる霊力の源であることを示してくれたのである。

そのときは時間はほんのわずかで、私はすぐに交霊会の部屋へ戻り、わざと目を開かず、身動き1つしないでおいたのであるが、私の正面にいた年輩の婦人が大変な霊視能力の持ち主で、“私はいまあなたが身体から脱け出して戻ってこられるのを目撃しましたよ”と言われた。

夜中に霊界を旅行すると、まだ生きているはずの人々をよく見かけることがある。もっとも魂の緒（たまのお）は見えない。地球から離れてひじょうに稀薄になっているので、よほどの高級霊にしか見えないのだと考えている。

次のような興味ぶかい例がある。ある夜肉体を出て霊界の何かの記念パーティに出席していた。そこには昔と今の親戚が大勢いて、その中に現在いっしょに暮らしている“おば”と、数マイル離れたところで暮らしている“おい”の姿を見た。

翌朝そのおばが私を見て“昨晩はすてきなパーティに出席したんだけど、あなたもいらしてたわね”と言う。おいの方もそれを確認してくれるかと期待して尋ねてみたが、何ひとつ思い出してくれなかった。

睡眠中はほとんどすべての人が霊的な体験としているようである。それはいわゆる“夢”とは簡単に見わけがつく。霊的体験はきわめて鮮明で、はっきり区別ができる。

私はそうした体験を霊媒に確認してもらうことがよくある。そのうちの幾つかをあとで紹介するが、あるとき霊界の私の店（あとで詳しく説明する）に立っていると突然、強い腕に抱きつかれた。振り返ってみると、霊界の友人の1人のアフリカ人だった。

彼の腕から温かい友情が伝わってくる。私もうれしくて彼のモジャモジャの縮れ毛を掻きまわした。そして店の中にいる他の友人たちに「おーい、こいつが来たぞ」と大声で言った。

残念なことに、その瞬間に私はその場から引き戻されるのを感じた。必死に抵抗したが肉体に戻されてしまった。それは真昼の離脱で、交通の騒音が原因だった。こうした突然の中止は何回か体験しているが、その原因は必ずしもそうした外的原因ではなく、魂の緒（たまのお）を通じてのエネルギーの補給不足が原因である場合もある。

そのことがあって間もなく、ある女性霊媒のところへ行ったところ、「ここにアフリカ人が来ています。霊界でお会いしたと言ってますよ。それに、何か妙なことを言っています。あなたが地上に誕生する以前からあなたを知っていたとか…」と言われた。

実はこのアフリカ人は私が心霊学を始めたころからずっと私についてくれて、何人かの霊能者によって目撃されている。私自身も霊視したことがあるが、霊界で会ったのはそのときが最初だった。

同じく真昼に離脱したときのことであるが、今ごろ絶対に寝ているはずがないと思われる人を霊界で見かけることがある。どういうことだろうと思っていたら Bilocation （バイロケーション）という単語がうかんだ。

これは“1度に2個所に存在する”という意味である。そういえばスエーデンボルグも同じような体験を述べている。ある町を歩いていた同じ時刻に霊界で別の体験をしていたという。

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その他の体験

1日のうちの“いつ”ということなしに体験しはじめた霊的交信は、初心者の私にとってびっくりさせられることが多かった。背後霊たちは私をありとあらゆる手段を使ってその存在を自覚させ、援助し、教育しようとしているようであった。大体において座り心地のいい椅子にでも腰かけている比較的静かな時をねらって霊視や霊聴の形をとることが多かった。

が、ふつうの日常行動をしている最中でも突如として背後霊の存在を認識させ、難題を解いてみせることをすることもあった。そうしたことは霊能養成会に参加しているスピリチュアリストには珍らしくないことであるが、ご存知ない読者もおられることであろうから、2、3例をあげてみよう。

私の家にコンクリートで池をこしらえたときのことである。出来あがった日の夕方それに水を満たしておいたところ、翌朝みるとすっかり水が抜けている。コンクリートは厚目にしたつもりだったので、私の落胆はひと通りでなかった。

家に入って腰を下ろし、頭の中で背後霊にどこが悪いのか教えてほしいと頼んでみた。すると目の前に池が霊視され、その片隅から水が漏れているのが見えた。

私はさっそく外へ出て、その霊視された片隅を点検したが、他の隅と少しも変わったところはない。その時ふと、ポケットナイフで突いてみよう、という考えが浮かんだ。さっそく試してみるとナイフが簡単に突きささった。

コンクリートを塗るときに空気を含んで、そこのところが卵形に薄くなっていたことがわかった。塗りなおすことで簡単に修復できたが、背後霊の助けがなかったら恐らく欠陥は見つからなかったと思われる。

年も押しつまったある日のこと、冬に備えて庭の手入れをしたあと道具を点検すると、移植用のコテが行方不明であることがわかった。深く掘りおこした時いっしょに埋めてしまったらしい。やむなくそのままにして、翌年の春になり苗床を手入れしようとしてコテがないのに気づいた。

その瞬間である。いつもの指導霊の存在を感じ、そのコテの埋められている場所がピンときた。苗床の1つの片隅へ一直線に歩いて行き、少し掘りおこすと出てきた。

私の人生でもとくに忙しく立ち働いた時期のことであるが、私への警告の手段として自動車の排気音のような大きな騒音の中でもはっきりと聞き取れるほどの声を聞かせてくれた。

たとえばオイルパイプが外れているとか、道具箱が開けっぱなしになっていて今にも盗まれそうになっているとか、テールライトが外れかかっているとか、死角になっているコーナーから車がやって来ているといったことだった。

あるときその警告を無視したことがあった。どこをどう点検しても落度が見当たらないのである。車は調子よく走っていた。そして素晴らしい直線の幹線道路へ出たときに、もう1度警告があった。が、なおも無視して2、3マイルも突っ走ったところでエンジンが弱くなり、ついに止まってしまった。調べてみるとオイルタンクが空（から）になっていた！

予言もよくあった。イスに腰かけて寛（くつろ）いでいる時によくあった。あまりひんぱんに起きるのでノートにメモしたことがある。

ある夜そのうちの1つが実現した。妻と近所の人と私の3人が玄関で立ち話をしていたときのことである。数軒さきの家が火事になった。私はその近所の人が私の予言について何も知らないことを忘れて、うっかりこう言ってしまった – 「やっぱり私が見た部屋から出火しましたね」

それを聞いて、それはどういう意味かと尋ねるので、やむを得ず説明した。するとその人は軽蔑の笑みをうかべたが、ノートを持ち出してきて書き込んである火事とその出火場所のメモを見せた。それを見た瞬間その人の表情が変わった。

そんなことがあって私は、同じく近所で起きる次の出来ごとの予言をその人に見せざるを得なくなった。2日後その人の奥さんがやって来て、興奮しながら「やはり起きました！」と言う。一瞬なんのことか分からずに私は「何が起きたんですか？」と聞くと、「せんだって見せていただいたメモのことですよ」と答えた。

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幽体離脱のコツ

そうした地上生活での指導とは別に、私の背後霊は霊視力によっていろいろと教訓を授けてくれており、それが私の人生のあらゆる面でよきアドバイスとなり、なるほどと思わせられることが多い。

その背後霊たちの容貌や霊格の程度については他の霊視能力者を通じて納得のいく叙述を得ており、私は“はたして神のものか否か、霊を試せよ”との聖書の忠告をいながらにして実行しているわけである。

背後霊が私を首尾よく霊界旅行へ案内できている原因は、1つにはその背後霊に対する私の全幅の信頼感があると信じている。むろんその信頼感は表面的なものであってはならず、絶対的なものでなければならない。なぜなら、物的精神に印象づけられたものは自動的に霊的精神にまで印象づけられるからである。

霊界における思念の影響の大きさを考えれば、万一心の奥に不信の念を宿すと意識的離脱はどうなるか、とても保証はできない。霊界でも自由意志が大原則であり、幽体はその念のために肉体に縛りつけられるのである。

書物を探すときでも指導してくれたことがある。あるとき世界の宗教について研究していて図書館へ行ってみたとき、何となく霊感を得て、ふつうなら気がつきそうにない場所から1冊の本を取り出した。

それは特別どの宗教を取り扱ったものでもなく、古い中国の本の英訳本で、霊的発達について師が弟子に与えた教訓だった。その教訓が現代のスピリチュアリズムの教訓と完全に一致していることに非常に興味を覚えた。

その中に“霊的旅行（スピリットトラベル）”と題するイラストがあった。修行僧が結跏趺坐（けっかふざ）し、その上方に同じ人物の小さな像が画かれ、両者が細い紐でつながっている。私の背後に中国人の霊がいることは知っていたが、そのイラストはこれといって私に格別の意味のあるものではなかった。

第一、両脚を交差させて座るという姿勢はおよそ私には真似のできるものではない。私はベッドに横になるか、居心地よいイスに腰かけるかして、完全に“ラクな姿勢”でなければならない。

なぜかというと、離脱に際して私は肉体感覚をすっかり失うように努めるので、少しでも不快な感覚があるとその状態が達成できないのである。さきに交霊会の席で座り心地の悪いイスの中で離脱した話をしたが、あのようなことはあれ1度きりで、私も驚いたほどである。今思うとあれは1つの証拠として、前の席にいた霊視能力者に見せるためだったようである。いずれにせよ長続きはしなかった。

さきに私は、多くの人が睡眠中に霊界旅行を体験していてそれを思い出せないだけだと述べたが、次のような訓練をすればそれを思い出す糸口になることが、私自身の体験でわかった。それは、朝目を覚ますと同時に精神を統一して記憶をさかのぼってみることである。

難しいのは精神を統一することである。私の場合、それがうまくいくと睡眠中の体験を包みこんだオーラが身体を取り囲んでいるのを感じる。物的精神によっても感触が得られるほどである。

物的精神と霊的精神との間はゴースのような繊細な糸で結ばれており、ちょっとした精神の乱れでそれが切れてしまう。いったん切れてしまうと、もはや回想不可能となってしまうので厄介である。

もう1つのちょっとした訓練も、私自身がやってみてとても効果的であることが分かっている。それは、日中に何か変わった出来ごとが起きたり、あるいは変わった光景を見たりした時はたとえばトラックが得体の知れないものを積んでいるといったことでもよい – いま見た光景は地上のことだろうか、それとも霊界のことだろうか、いったい自分は本当にそこに居合わせたのだろうかと自問してみることである。

こうした訓練が“内部へ向けての意識”を開発するのである。これは根気よく続けて1つの習慣にしてしまわないといけない。そうなると霊界へ入った際にその意識が表面へ出てくるのである。

ご承知のとおり私の最大の願望は妻と会っていっしょに霊界を探訪することである。そしてそれが2つとも叶えられた。私の場合、肉体から脱け出る際に自分の肉体や魂の緒（たまのお）を1度も見たことがない。

それは脱け出る際に極度に受け身の精神となって雑念やあたりの光景を故意に無視しているからである。旅行中も同じ精神状態を保ちつづける。その状態は背後霊が私を各地へ連れてまわる上で都合がよいはずである。

というのは、霊的活動はすべてが思念と同じ作用であり、私の雑念によって離脱が邪魔されたくないのである。そのせいか、本格的に霊界旅行をするようになってまだ1度も途中で中止されたことがない。

予定した目的地にもきちんと到着し、すぐに指導霊がそこの特殊な霊的状態について教えてくれた。背後霊団には私の霊界研究に関してきちんとした予定表が出来ていたようで、当然のことながら私に見せられるのは、地上の教育でも同じだが、その特徴をよく示している、言わば極端な例が多かった。

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睡眠と死の共通点と相違点

私の父は他界後「なぜ人間は死を怖がるのだろうか。寝るのは少しも怖がらないくせに」と私に言ったことがある。大ていの人間は睡眠と死とは何の共通点もないかに考えているが、実際には似通ったところがあるのである。

睡眠中、幽体は肉体の少し上あたりに位置しているが、両者は魂の緒（たまのお）でつながっている。この“紐”は電圧の実験で見られる2つの電極をつなぐ長い連続的な閃光とどこか似ており、銀色の輝きをしているので、“銀の紐（シルバーコード）”と呼ばれることがある。あさ目が覚めたときに幽体が肉体と合体する。

死に際しても幽体が上昇するが、肉体機能の停止によってシルバーコードが自然に切れ、幽体はその本性にふさわしい場所へ赴くことになる。その際、大てい指導霊が付き添い、死後の環境条件に適応の手助けする。

よく寝入りばなに“落下する”感じ、あるいは“ベッドを突き抜けて落ちる”ような感じを体験する人が多い。これは、今のべた幽体が上昇しつつあるときに何かの邪魔 – たとえば大きな音などが入って急に肉体に引き戻される。それが落下の感じを覚えさせるのである。

これでお分かりの通り、地上の人間が意識的に幽体離脱している間は死者の霊とよく似た状態にあると考えてよい。その間の肉体はごくふつうの睡眠状態にある。あとで叙述する私の体験が証明するように、少なくとも私の場合はそうである。

こうしたことが一般の常識となってしまえば、私の父と同じように「なぜ人間は死を怖がるのだろうか」という疑問が、真実味をもって感じられる。

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2章　幽界の下層界

記憶がこしらえる世界

初めのころの私の訪問先は低級界がほとんどで面白味のない世界だったが、それでも、いよいよ肉体に戻る前はかならずといってよいほど明るい境涯ないし界層へ連れていってくれた。これには理由があり、低級界の大気には執着性があってそれが不快な後遺症を生むことがあるからである。

1つの界層へ到着すると私にはすぐにその界の本性が知れる。というのも、幽体はきわめて鋭敏で、その界の住民の思念を直接的に感じ取ってしまうのである。低級界の場合はそれが吐き気を催すほどと表現する以外に言いようがないほどの不快感を覚える。

地上で味わういかなる不愉快さもそれとは比較にならない。というのも、地上ではさまざまな思念が1度に襲ってくることはないが、霊界ではその界の特殊な思念が1つにまとまって1度に迫ってくるのである。

しかし、やむを得ずしばらく滞在するときは指導霊がその低級な波長を何らかの方法で中和してくれていた。幽界のほとんどの下層界においては、私の幽体はそこの住民には見えていない。

下層界は地上とそっくりである。都会あり、町あり、村ありで、いずれも地上の現在のその地域の写しであるように思える。幽体がその界層と同じ波長を整えれば、そこの存在物はすべて地上と同じく“固く感じられる”。

そうした地域性はその地域で他界した住民の精神の働きによって形成される – だから見覚えのある環境となっているのだということを、何かの本で読んだことがあるが、それは事実のようである。同時に、精神というものは細かい点まで再現する“写真的”ともいうべき記憶性を有していることも事実である。

一例をあげれば、ある町の通りに街灯を見かけたことがあるが、これなどは夜のない世界では不要のはずである。が、地上で見ていたその記憶が自動的に再現するのである。

この無意識の創造力についてあるとき霊界の教師と話をしていた時に“その衣服はどこで仕入れられましたか”と聞かれたので、私はまじめに受けとめて地上の洋服店の名前を思い出そうとしたが思い出せなかった。実はその先生はそんなことを聞いたのではなかった。

そのあとで私の衣服を指さしてよく見てごらんなさい”と言われて改めて見ると、いつもの普段着を着ており、驚いたことに、チューブを強く押さえすぎて飛び散った歯みがきが全部取り切れずにシミになって残っているところまで再生されていた。

下層界の住民は大なり小なり霊的真理について無知である。自分が死んだことに気づかない者すらいるほどである。生活環境が変わったことにうすうす気づいてはいても、夢幻の境にいるようで、はっきりとした自覚はない。こうした種類の人間は地上時代そのままの常識をたずさえてきており、彼らにとって“霊”はあい変わらず曖昧な存在である。環境が地上と少しも変わらないからである。

これだけ体験と知識とを得た私ですら、霊界のどこかに到着したときは自覚がはっきりせず、まだ地上にいるような錯覚を抱いていることがある。そのうち前もっての知識が表面に出てきて、やっとそこが霊界であることを認識する。

見かけたところ大ていの住民が満足している様子である。体調はいいし疲れを感じることもないからである。が、知識欲も好奇心も持たない。どうやら向上心というものは内部から湧き出るしかないというのが法則であるらしい。

いつかはその時期がくるであろうが、地上時代に染み込んだ観念がそのまま霊界生活となっている人が多く、習慣がそのまま持続されているのである。そのため下層界では地上と同じ仕事が見られる – 道路工事、工場での仕事、橋の建設、等々。炭工夫が例の運搬車に乗って機嫌よさそうに鼻歌をうたっているのを見かけたことがある。

ある工場では溶接工が仕事をしているのを見物したことがある。火花といってもごく小さなもので、マスクもいらないほどであるが、本人は大まじめで溶接しているつもりだった。見つめている私を見上げて“あんたもここで働いてるのか？”と聞くので“いや、いや、ちょっと見物してまわっているだけだ”答えたことだった。

霊の世界では思念が“具体化”するようである。それで“物”が存在するように思える。進化するとその一種の創造力が別の形で活用されることになる。有名な心霊学者のF.W.H.マイヤースが死後送ってきた通信『永遠の大道』（浅野和三郎訳・潮文社）の中でこの下層界のことを“夢幻界”と呼んでいるが、至言である。

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無知の報い

霊界旅行は次から次へと不思議なことや奇妙なことが見られるのでさぞ興奮に満ちたものであるかのように想像する人が多いが、事実はけっしてそんなものではない。初めのころは私の連れて行かれたところは低級な、あるいは未発達の境涯が多かった。

そして今も述べたように、そこは地球にそっくりであり住民もそこを地球とばかり考えているので、そこでの生活は陳腐で退屈きわまるものが多く見うけられるが、しかしそこから私は何かを学ばねばならなかったのである。

そうした旅行を体験していると私は死後の世界について地上にいるうちに知っておく必要性をしばしば痛感させられる。たとえば誰1人見当たらない学校の校庭のまん中で2人の掃除婦がおしゃべりをしているのを側で聞いているのは不愉快きわまるものである（私の姿は波長の違いで二人には見えない）。2人はもう1人の掃除婦が自分たちが掃除することになっている校舎を掃除していることに対して、ひどい口調で文句を言い合っているのである。

そこは“夢幻界”である。子供の霊がそんな学校へ通うわけがないのである。が掃除婦たちはその誰1人いない校舎が少しも変だとは思わないのである。

私がのぞいた工場は従業員でごった返しており、規律も流れ作業もない。みんなてんでに好きなこと得意なことをやっているようであり、また、同じことを何度でもくり返して行っている。

面白いのは、そうした記憶に焼きついた仕事の思念がそのまま死後に持ちこされている一方で、“さぼる”習慣も持ちこされていることで、ベンチで大ぜいの者がたむろしているのを見かけた。見張りのいない工場はまさに労働者の天国であろう。

クリスマスが近づいたころに案内された工場では、子供のオモチャに色を塗っているところだった。やはり幼いころのお祭りの季節の記憶がそのまま死後に反映しているようだった。

その工場の外には大きな運動場があり、その中央に大きくてがっしりとしたステージが組み立てられているところだった。いったい何に使うのだろうと思っていると私の指導霊が静かな口調で“従業員の娯楽のためです”と教えてくれた。

これまでに2度、霊界で“肉屋さん”を見たことがある。動物を屠殺することがありえないはずの世界でそんなものを見かけるのは、霊的知識をかじりかけた人には驚きであろうけど、これも純粋に記憶から生まれる思念の作用の結果であり、立派に実質があるように思えるのである。思念がすべての世界では地上の人間の常識を超えたことがいくらでもあるのである。

肉屋の場合も、お客さんの要望にお応えできる立派なお店を、という地上時代の強い願望が具現化しているだけである。私が見かけた2つの店は比較的小さいものだったが、店先にはちゃんと肉がぶら下げてあった。輝くような美しい赤味をした肉を見かけたが、それはさしずめ“極上”なのであろう。

こうした夢幻界に何10年、何100年と暮らしている霊が多いということが不思議に思える方が多かろうと思うが、そういう霊を目覚めさせるために交霊会を開いて招霊してみるとも地上を去って霊界で生活している事実をいくら説いて聞かせても、断固として否定してかかるというケースがよくあるのである。スピリチュアリストがよく交霊会を開くのもそのためである。

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哀れな同胞たち

こうした夢幻の境に生きている霊に関連した興味ある体験としては、あるとき気がついてみると19世紀の帆船のデッキにいた時の話がある。正確に言うと大きなマストの近くで、少しずつあたりの様子が分かってみると、帆から垂れ下がっているロープの数の多さにまず驚いた。

“コツを知る”ということを“ロープの扱い方を知る”と表現することの意味がなるほどと得心がいった。それから甲板室の近くまで歩いてきた。その中に数人の者がいて、その部屋のひどさに文句を言い合っていた。

私の直感では彼らは港を出て間がないと思われるのに、当てがわれた甲板室がひどすぎると考えているのである。私は中をのぞき寝室を見て、大して悪くはないじゃないかと言ってみたが、それくらいのことで気の済む連中ではなく、これから襲ってくるであろう嵐のことを心配していた。

嵐に遭ったのがいつのことなのか、夜番をしたことがあるのかを聞いてみるのも一興であったろうが、どうしてもその気になれなかった。多分そういう質問をどこかでして何の効果もなかったことがあるのであろう。

たしかに彼らが文句を言うのも無理はなかった。チーク材で出来た本格的なものではなく、船大工のにわか造りの感じで、とても嵐には耐えきれそうになかった。しかしそうした連中にすでに死んで“霊”となっている事実を説得することは、地上の平凡な人間をつかまえて死後の世界の話を聞かせるのと同じで、とても無理である。

初期のころ私はしばしば、これからある事が起きる直前にその場へ連れて行かれることがあった。背後霊にはあらかじめその出来ごとが察知できるらしかった。気がつくと私はある建物の外に待たされていて、指導霊はどうやらその中で“指南”をうけているらしかった。それが終わって出てくると、私はまた無意識状態にさせられて、それから予定の地点へ連れて行ってくれた。

あるとき下層界の町で、ふだん着ではあるが身なりのきちんとした男性を何人か見かけたことがある。容貌と目つきに輝きがあり、円満そのもので、その辺の地域ではひじょうに目立った。一見して私は、高級霊が使命を帯びて下りてきているのだと察した。そして、たまたまその人たちの有する霊力の威力を見せつけられたことがあった。

あるとき下層界の町へ連れて行かれ、マーケットの真ん中に置かれた。見るとアフリカ人の男性が台の上に立って群集に向って何やらしゃべりかけていた。ジョークを言ったりおどけてみせたりして、みんなを笑わせて悦に入っていた。そこへ上級界からの使者の1人が通りかかり、チラリとその男の方へ目を向けた。するとその男の顔が憎しみに満ちた顔に一変し、荒々しい言葉を吐いた。

するとその使者は足を止め、厳粛な眼差しをその男へ向けて一言こう述べた – “私を侮辱するでない”、すると驚くべきことが起きた。男はまるで力を抜き取られたようにその場に崩れ、そして群集の視界から消えた。

使者は先を急がれ、角を曲って姿が見えなくなった。すると間もなく男が必死にもがいて立ち上がり、もう大丈夫とみて、さらにひどい侮辱の言葉を一言吐いてから、再び群集を相手におどけてみせていた。

あるときは19世紀のロンドンの貧民街を思わせる通りに連れて行かれた。そこで1人の憂うつそうな顔をした行商人がカバンを下げて家から家へと歩きまわっており、それを、もう1人の長い頬ひげをたくわえた怒りっぽそうな顔をしたビクトリア朝風のダンディな男が見つめていた。

そう見ているうちに突然、そのダンディな男が大またで行商人に近づき、わざと片方の足を思い切り踏みつけた。行商人は痛みで悲鳴を上げ、足を抱えた。その瞬間に靴が消えて素足になっており、しかもその足から血が流れていた。
私はその男の前に立ちはだかって“何ということをするのですか！”と言った。

すると“こいつが気に食わんのでな”とつぶやくように言いながら去って行った。行商人に目をやると、すでに興奮もさめて、足には元どおり靴をはいていた。やがてカバンを取り上げて、また行商をはじめた。

私にはその行商人が“痛がった”ことと“出血”とが驚きだった。それについての指導霊の説明はこうだった。

あの出来ごとでは強い精神が弱い精神を圧倒し、痛みを与えてやろうと望んだ。それで行商人は傷つけられたという“観念を抱いた”。そこでつま先を握ろうとする“意志が働き”、それが自動的に靴を脱がせた。しかも傷つけられたという観念の強さから本人は“出血を連想し”、それで血が出た。そこへ私が立ちはだかったことで、痛みを与えてやろうという観念が行商人からそれた。それでたちまちのうちに回復した。

この“観念を抱く”作用と、その観念が“具体化する”作用は実に不思議である。あるときは、前にも出たある建物の前で待っているように指導霊に言われて立っていた。他にも数人の者が待っていた。その時私はうっかり霊界に来ていることを忘れて、何げなくポケットに手を突っこんでタバコを取り出し、火をつけ、一服吸った。

その味のひどさといったら、まるで布切れが燃えた時の煙のようで、思わずタバコを捨てた。その様子を見ていた若い男が“もう1度やってみていただけませんか”と言う。私は答えた。“いや、あれはただの地上のクセですよ”

このことで不思議なのは、もしもタバコが私の観念によって具体化したものならば、なぜその時いつもの“味”がしなかったのかという点である。指導霊がわざとそうしたのであろうか。

あとで気がついたことであるが、タバコに火をつけたときライターに炎が見えなかった。霊界ではものを燃やす炎を見かけたことがないのであるが、私の推測では、多分、霊質の成分が物質の基本成分であるから、それ以上には崩壊しないのであろう。このことは霊界の植物が萎（しお）れない理由と共通しているのかも知れない。

下層界の別の地域へ連れて行かれた時のことである。長い小屋の入口の外で一団が待っていた。指導霊が私を案内して“その一団の人々を突き抜け”、さらに“入口のドアも”突き抜けて中へ入った。これはいつもながら私が下層界でびっくりすることで、そこの住民からは章どんな時に私の姿が見えているのかが“自分では分からない”のである。

中に入ってみると長いテーブルがいくつか置いてあり、その上に皿がズラリと並べられている。その皿の上にはわずかばかりのパンが置いてあり、さらにそのパンの上にほんのわずかばかりのジャムがのっている。

指導霊の説明によると、ここに来る人たちは霊界へ来てかなりの期間になるが、そのことが未だに理解できなくて、そこで食べることへの欲求を少しずつ捨てさせるために分量を少しずつ減らしているのだった。

あるときは小さい箱の上に腰を下ろしている私のところへ少年がにじり寄ってきた。近づくとドブの中でも歩いてきたのかと思いたくなるような、ひどい悪臭がする。その子が私に話しかけようとするので、私は思わず“今ちょっと急いでいるのでね”と言ってその場から逃げた。そのときふと顔を見ると、それは子供ではなくて、萎縮した幽体をした、しわだらけの老人だった。

何年も前のことであるが、とても重々しい雰囲気の場所へ連れて行かれたことがある。まるで夕闇のような暗いところだったが、そこにはみすぼらしい倉庫のような建物が立ち並んでいて、その1つをのぞくと一団の兵士が軍隊用具を畳んで積み重ねているところだった。

指導霊の話によると、彼らは1つ上の界層へ行くところだという。私はその中に顔見知りの兵士を見つけて、近づいて“まだほかに吾々の隊の者はいるんですか”と聞いてみた。

その兵士は驚いてあたりを見回した。それで私は彼には私の姿が見えていないことを知った。ただ声だけが聞こえるのである。そのように私は下層界では姿が見えないので、ずいぶん多くの者が“私の幽体を通過して歩いている”。私には何の反応も感じられないのである。

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ケンカばかりしている霊

前にも述べたが、下層界では地上時代の記憶や先入観の似通った者が親和力の作用で同じ境涯に集まって暮らしている。その境涯に身を置いてみると“支配的観念”というものがいかに強烈で顕著であるかがよく分かる。

私がこれまでに訪れた中でいちばん不快な思いをしたのは、いがみ合う習性が魂にこびりついてしまった気の毒な人間ばかりが住む町だった。その町の通りの1つに連れて行かれると私はいつものようにその土地の性質をすぐに感じ取った。それは、ただただ怖いという感じだった。

見まわすと – 例によって私の姿はその土地の者には見えない – そこらじゅうで罵（ののし）りあっている。私の幽体の感覚がその土地の波長に近づくにつれて、彼らの思念が伝わってきた。邪悪で、無慈悲で、残忍そのものだった。

どうしようもない土地である。その地域全体の雰囲気が個々の人間の性質をますます悪化させている。私は耐え切れなくて、思わず背後霊に“連れ出してください”と言った。するとすぐに連れ出してくれて、こんどは町はずれの砂利だらけの土地へ連れてこられた。

そこにはネズミやウサギなどのペット類の檻がたくさん置いてあった。何のためかと尋ねると、指導霊の答えは、その辺りの人間は同胞に対してはまったく愛情を持っていなくて、時おりこうしたペット類を可愛がることがあるということだった。と言ってもそれは、愛というものを悟らせるために、せめてペットでも飼うように、各自の背後霊が印象づけているのだった。

そこの状態は、“人間はかくあるべき”というものを全て否定した状態である。死後そのような状態、言いかえれば、そのような波長の界層に赴（おもむ）くにふさわしい生活を送っている人間の宿命を考えてみられるがよい。わずかながらも残っていた愛すら奪い去られ、全体の殺伐たる雰囲気の中に呑み込まれてしまう。聖書の次の言葉がぴったりである。

“すべて、持てる者は与えられて、ますます豊かにならん。しかれど、持たぬ者はその持てるものをも奪わるるべし”（マタイ25・29）

思念はすぐに幽体に感応する。そしてその思念が強ければ強いほど、その影響も大となる。たとえば、まじめな知人どうしが楽しい界層で出会えば、互いに楽しい思念を出し合って、それを互いの身体が吸収し合う。

受ける側の楽しさが倍加され、それを返す楽しい思念もまた倍加されるわけである。こうした幸福感の倍増過程が電光石火のスピードで行われる界層があることを思えば、同じ法則が今のべた絶望的境涯においても働き、憎しみの念が倍加され、その結果として現出されていく地獄的状態は、およその想像がつくことであろう。

あるときは肉体から出たあと気がついてみると小さな家の外に腰かけていた。その時はそこがどういう環境なのか、私の身体に何も感じられなかった。背後霊によって絶縁状態にされているらしかった。

そのうち突如として私の身体が持ち上げられ、2人の背後霊が腕を交叉させたその上に座らされた。そしてその2人の背後霊がおかしそうに笑う声が聞こえるので、私も思わず笑い出してしまった。顔は見えないが、腕だけは見えていた。それから2人は私を腕に乗せたままその家のまわりを走って1周し、それから玄関のところに下ろした。

いったい何のことかわけが分からずにいると、その家から背後霊の1人が出てきた。こんどは姿が見えた。さっそく私がここは一体どこなのかと尋ねると“低級思念の土地”と答えてくれた。それから私を案内してくれたのは、えんえんと続く陰気な湿地帯だった。その時は絶縁状態も切れていた。下水処理場のような悪臭がしてきた。

あちらこちらに哀れな姿をした人たちがトボトボと元気なく歩きまわっていたり、じっと立ちつくしていたりしている。その土地の波長は実に陰湿である。背後霊が私を連れてくる前にあのようにふざけてみせて明るい雰囲気にしてくれたのもそのためであることが理解された。それでもなお私は長くは滞在できず、いつものように、ひとまず明るい境涯へ案内してもらってから肉体に戻ったのだった。

これは是非とも必要なことだった。と言うのは、私の身体はそれほど低劣な波長にさらされていて、テープレコーダーのような性質のために、そのままではその低劣な波長がいつまでも残るのである。肉体に戻ってから記憶をたどってその境涯の体験を思い出すと、程度こそ弱いが、その悪影響を同じ波長で感じ取ることができる。

幽界の下層界にはそうした劣悪な波長の境涯がいくつもあり、そこでの体験を述べることすら気が滅入る思いがするが、事実は事実として知っておく必要があることを考えて述べているのである。

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冷酷な指導者の末路

あるとき気がついたら夏用の軍服を着て走っていた。私の人生の記憶の中でも最も強烈な部分がそんなものを選び出していたらしい。

そこはどうやらそれまでに私が連れて行かれた場所の中でもいちばん低級な境涯らしく、波長は雑多で、いたたまれない気分にさせられる。実はそこへ到達するまでに私はどんどん深みへ沈み込んでいくのを感じて、あたりを見ても見すぼらしい家々が立ち並んでいて、全体が薄気味わるかった。

途中で2度も指導霊に呼び止められて、住民をよく観察するように言われた。見ると口ぎたなく罵（ののし）り合っている。そのうちの1人は地上で私を知っていた男であるが、私の身体を通過していった。

その男がそのような境涯にいることは別に驚きではなかった。確かにそういう人間だったからである。私は彼の目に私の姿が見えないことを知って安心した。下降の速度が少しずつ遅くなってきた。どうやらその境涯でも最も低い淵に近づきつつあるらしく、もはや誰の姿も見当たらない。

そのうち煤（すす）けた倉庫のような家屋の前で指導霊に呼び止められた。そしてドアが開けられ私は否応なしに中へ入らされた。とたんに私の身体は恐ろしい波長を受けて足を止めた。見ると多くの人影、たぶん100人ばかりの人間が、ただのそりのそりと歩きまわっている。

着ているものは何とも呼びようのない、まるでクモの巣でもまぶしたような汚らしい姿をしている。顔は沈みきった青白い色をしている。酷い光景ではあるが、私の身体に感じられる波長の方がもっと酷かった。

どの人間もうなだれ、あたりのことには何の関心も見せず、ただのそりのそりと歩きまわるだけである。心の中に巣くう考えも姿と同じく絶望的である。“永遠にここでこうしているしかない。もう救われる望みはない” – そう思っている。

たしかにその通りに思える。一縷（る）の望みも見当たらない。彼らにとっては永遠の時の中で1000年が昨日であり、明日もまた1000年であるかに思える。

そこで受けた波長はかつてなく低いもので、やがて指導霊がそこから私を引き出してくれてほっとした。そこの人間はまわりの人間のことにはいっさい関心がない。ただ当てもなく歩きまわるだけである。

言うなれば、陰電気を帯びた分子のようなもので、互いに避け合って動いている…と言えば理解しやすい方もおられるであろう。

こうした数々の霊界旅行で明らかになってきたことは、地上時代の無知が霊界におけるそれ相当の境涯に位置づけているにすぎないということである。

すなわち地上生活によって一定の波長の幽体が形成され、死後その波長に合った境涯へと自然に引きつけられていくということで、そこに何1つ誤りはない。神の法則は絶対に公平である。自分で自分を裁いていく以上、誰に文句を言う資格があろうか。

神の特別の寵愛者もいないし特権階級もいない。地上で偉いと思われている人が必ずしも死後も偉いとはかぎらない。何ごとにおいても動機が優先される。

これまでの人類の歴史において、一部の者が同胞の生涯をみじめなものにした精神的苦悶から肉体的拷問にいたるやり口や悪辣さの程度は、歴史を繙（ひもと）けば一目瞭然であろう。それを見てわれわれ人間はその罪悪性を責めたくなるが、高級霊は哀れみの情をもって眺める。

さて、そのあと私は例によっていったん明るい境涯へ連れて行かれてから肉体へ戻った。その翌朝のことである。店を開ける前に荷をほどくのに忙しくしていると、突然、やさしくではあるが強い力で椅子に腰かけさせられた。

そして膝に両ひじを置き両手で頭をかかえる恰好で、私はある人のことで悲しみの情を覚えた。それほど強烈にして深い情を覚えたのは私としては初めてのことで、涙があふれ出るのを禁じ得なかった。

そのある人とは、ある国の独裁者だった。どうにか落着きを取り戻し、近くに高級霊の存在を感じて私は心の中で尋ねた – “いったいなぜ今ごろ私はこれほどの哀れを感じなくてはいけないのですか”と。するとこういう答えが返ってきた – “貴殿がいま行ってきたところは、その独裁者がいずれ赴くところです”と。

これは1937年のことで、そのころは戦争の脅威といえるほどのものは見当たらなかった。独裁者のためにこの種の情を覚えるのは、ふつうの私の人間性には似つかわしくないことは言うまでもない。まだ店を開ける前のことだったのは幸いだった。

私を包み込むようなその霊は明らかに高級界からの霊で、そういう運命を（そうとは知らずに）たどりつつある地上の一独裁者に対する愛と深い哀れみの情に、その日1日じゅう私はいろいろと考えさせられた。活発に動きまわっている私を圧倒するその偉大にして優しい力は、霊界旅行中は別として、かつて地上では体験したことがないだけに、驚きであった。

前の晩に見た最下層の霊たちのあの絶望的状態は、霊的身体をもって体験する以外には味わえない、身の毛もよだつほどの、みじめなものだった。言葉ではとても表現できない。願わくばその霊たちにもいつしか折返し点が到来することを祈らずにはいられない。“永遠”では永すぎる。

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スキをねらう邪霊たち

私の指導霊が、ある霊媒を通じて、霊界旅行を面白半分にやってはいけない – つまり背後霊の付き添いなしで勝手にやってはならないと忠告してきた。これにはそれなりの理由があった。幽体離脱を予感し、準備がなされつつあることを感じ取っているうちに突如中止されたことが何度かあった。

あるときは、いよいよ離脱の状態に入り、間違いなく離脱しているのであるが、どこかしら不安がつきまとい、霊界へ行かずに寝室の中を漂っていた。やがて階下の店へ下り、カウンターのうしろに立った。なぜか辺りの波長が低く陰気で、全体が薄ぼんやりとした感じがする。かつてそのような雰囲気を体験したことがなかったので、もしかして離脱の手順を間違えたのかと思っていた。

すると突然、邪悪で復讐心に満ちた念に襲われたような気がした。その実感は霊的身体をもって感じるしかない種類のもので、言葉ではとても表現できない。とにかく胸の悪くなるような、そして神経がマヒしそうな感じがした。

その念が襲ってくる方角を察して目をやると、20ヤードほど離れたところに毒々しい、煤けたオレンジ色の明かりが見えた。その輝きの中に、ニタニタと笑っている霊、憎しみを顔いっぱい表している霊が見える。

そして私が存在に気づいたことを知ると、とっさに思念活動を転換した。すると代って私の目に入ったのは骸骨、朽ちはてた人骨、墓地などが、幽霊や食屍鬼（しょくしき）、吸血鬼、そのほか地上的無知とフィクションの産物と入り乱れている光景だった。

言ってみれば“パートタイムの幽霊”である私は、その光景をばかばかしい気持で見つめていた。すると急に蛇口を止められたみたいに思念の流れがストップして、その光景が視界から消滅した。そのあとしばらくカウンターのそばに立っていたが、そのとき受けた憎悪の念がつきまとい、不快でならないので、その夜はそのまま肉体に戻った。

戻ったベッドの中で私は、今のは霊界のナラズ者の集団であると判断した。そこが死後の世界であることを知っており、その上で、何百年も何千年もそこにたむろして、これからも自分のやっていることの無意味さに気づくまで、そんなことばかりしていることであろう。

こういう集団がいったんできてしまうと、そこから脱け出て進歩していくということはきわめて困難である。仲間の憎しみの念がそれを阻止するのである。

それにしても、その邪霊集団が演出してみせた古めかしいオバケ屋敷の現象にはいささか驚かされた。何度もくり返してやっているらしく、地上の無知な作家が幽霊話の中におきまりのように使用しているアイディアが全部その中にあった。

愚かしい概念も何世紀にもわたって受け継がれてくると、各国の人民の精神に深く刻み込まれていく。“未知なるもの”への恐怖心もその影響もその1つである。暗闇を好み地上の適当な場所を選んで、そうした低級霊がたむろして、潜在的な心霊能力でもって地上の人間に影響を及ぼす。

彼らが集団を形成した時の思念は実に強烈で、幽霊話に出てくるあらゆる効果を演出することができる。未知なるものへの恐怖心も手伝って、そうした現象は血も凍るような恐怖心を起こさせる。

さきのナラズ者の集団は実は下層界のチンピラ程度のもので、ほかにもっと強烈な攻撃手段で襲ってくる邪霊集団がいる。背後霊から勝手な旅行をいましめられて間もない頃、私はそうした強力な邪霊集団に取り囲まれたことがある。

幸い背後霊団が間に入ってくれて事なきをえたが、一時はまるで電気にふれたように私の幽体がしびれを感じたほどだった。はじめ私はその一団の中に少年の霊がいるように思ったが、そのうち顔をよく見ると小人の霊だった。

その矮小（わいしょう）な身体は精神構造のせいである。その集団の親分は紫がかった深いシワのある肌をした面長のふつうの大きさの身体をしていた。やがて別の霊的波長を受けて私はその男が地上で実業家だったことを直感した。

そうやってナラズ者に囲まれているうちに突然、まるで巨人の手のようなものが私の身体をつまみ上げてくれた。ところが敵もさるもので、そうはさせまいと私の身体にしがみついてきた。

その時はすでにしびれも取れていたので必死にもがいて抵抗した。そしていささか狂暴になっていた私は、ちょうど私の顔のところにきた腕に噛みついた。けっこう固さがあり、まるでゴムを噛んだような感触がした。

こうして私を中心にして争っている一団は、実はダンゴ状になって弾力性のある1本の紐に乗って私の肉体へ向けて運ばれているのだった。そしてついに肉体と接触したとき、まるで爆発したように火花が散るのが見えた。私も驚いたが、同時に助かったと思った。

そして結局私の2つの身体がいきなり合体したときに生命力が強化され、それによって保護力ないし反発力をもった“場”がまわりに出来あがったのだという印象をもった。同じようなことを霊界での“事故”に関連して体験しているので、あとでそれも述べるつもりでいる。

その日の恐ろしい体験の回想も天井に大きな青銅（プロンズ）の盾が出現したことで止まった。途方もなく頑丈で固い感じがした。それまでの美しい浅浮き彫りも有難かったが、この特殊な顕現も異常な体験のあとだっただけに有難かった。それも私にとって霊的教訓の1つだった。

こうした低級霊たちは集団を形成するとその波長の次元での威力を発揮し、いろいろと知恵もついてくる。私が強い力で引き上げられた時も、彼らは飛び上がる術を心得ていて、私にしがみついたのだった。

私の怒りと“死にもの狂い”の奮闘の刺戟で玉の緒が幽体を肉体へ引き戻したことは疑いの余地がない。合体した時の火花または爆発の現象は奇妙であるが、私にしがみついてきた低級霊が“電位”の高い身体と急に接触したための自然な反応だったのかも知れない。

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波長の調整がカギ

ある日の真昼に椅子に腰かけている最中に離脱して、ひじょうに暗い土地へ連れて行かれたことがある。が、なぜか意識がはっきりしない。まるで夢幻界にいるみたいだった – 事実私は地上にいるとばかり思い込んでいた。

しばらく歩いているうちに幾つかの家にはさまれた広い中庭のようなところへ来た。私は道に迷ったと思い、ある人が家に入るのを見かけたので走り寄って、ここはどこかと聞こうとして家の中まで付いて入った。

私が呼びかけると、振り向いて私を見るなり、まるで地上の人間が幽霊を見たように仰天して腰を抜かしそうになった。多分私の姿が十分にその界層の波長になり切っておらず、ほんとうに幽霊のように見えたのであろう。

不愉快そうな陰気な笑い方をしながら、その人は“おどかさないでくださいよ”と喘ぎながらつぶやいた。あまりに狼狽しているのを見かねて私はすぐにその家を出た。

家を出てはじめて私は、もしかしたら幽体離脱をしているのかも知れないと思い、あたりの環境を注意ぶかく観察した。が、地上と少しも変わったところはない。

そこでふと霊界の土地は乾燥していてザラザラしており、手で握ると砂のように指の間からこぼれ落ちるほどであることを思い出した。そこでしゃがみ込んで土を握ってみようとしたが、その中庭は石で舗装してあって土が見当たらなかった。

しかしその石にさわったことで急に意識がはっきりしてきた。その土地の波長に調整されたからである。それに気をよくした私は、これから待ちうける新しい体験に期待した。

ところが数歩も行かないうちに地上の隣り合わせの家の台所で大きな音がしたために椅子に引き戻されてしまった。時計を見ると離脱していた時間は1時間半ほどで、たしかに霊界を歩きまわった時間とほぼ一致していた。

1時間半も霊界にいて明瞭な意識はわずかの間しかなかったというのは要領を得ない話であるが、その後私は霊視現象や交霊会と同じく幽体離脱現象においても、1つ1つの体験が新しい実験であり、こうすればこうなるという保証された結果は1つもないことを悟らされた。

いついかなる時も背後霊の指導を受けているが、その体験をどう自覚するかは背後霊の関与するところではなく、本人の内部から生まれ出てこなければならない。

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界と界との境界

死後の世界について多くの本を読まれた方なら、界と界との境界が山脈だったり地面に掘られた穴を通って行ったりする話を読まれたことがあるであろう。実は私もその両方のケースを実際に見ている。とくに後者の場合は奇妙である。

まず前者のケースであるが、1938年ごろのこと、霊界の空港へ連れて行かれたことがある。飛行士は若者ばかりで、みな陽気な連中だった。ちょうどその時は近くの山脈を越えてみせると言った若い飛行士をからかっているところで、他の連中もそれを試みてどうしても出来なかったのである。

いよいよその若者が乗り込み離陸した。そして山脈の頂上のところまで行って急にスピードが落ち、やむなく戻って来た。いったん戻ってからもう1度試みたが、やはりダメで、戻ってくると仲間から一段と大きな声で笑われていた。

私はその飛行機の中を点検してみたが、どうみても地上の飛行機の模作ではなく、霊界でこしらえたものだった。プロペラが地上では役に立たないほど小さくできていることからもそれが分かった。

次に後者のケースであるが、ある日の旅行中に1914年に始まった第1次大戦中に知り合った兵士と出会った。私はその兵士をもっと“ましな境涯”へ連れて行ってやろうと思って説得し、いっしょに歩いていった。

しばらく行くと景色がだんだん良くなってきた。私にはそう思えた。ところが突然その男が走って引き返しはじめた。私は後を追ったが、彼は半狂乱状態で走りまくって、最後は大きな穴に飛び込んでそれ切り姿が見えなくなった。穴は直径が5メートル近くあった。

私は彼とはよく知り合った仲だったので、その様子に少なからず驚いた。霊界通信によると界層は玉ねぎのように幾つもの層をなして地球を取り囲んでいると述べているのがあるが、その時の体験で私は、“少なくとも下層界では”そうなっていることを確証づけられたように思える。

さらに次の例のように、2つの次元の異なる界、すなわち波長の違う界層が重なり合っていて、しかもお互いに見えていないというケースもある。

初期の頃のことであるが、離脱してひとまず事務所のようなところへ案内され、そこで指導霊だけが中へ入って指示を受けているあいだ外で待たされるということがたびたびなので、私もいい加減その場所と波長にうんざりしはじめていた。

そんな時にまた同じ場所へ連れて行かれたので、つい心の中で“ちぇっ、またここか！”とつぶやいた。すると一瞬のうちに場面が一変し、退屈な風景から明るく楽しい田園風景の中に立っていた。

その変わりようは驚異的だった。指導霊の私への支配力が増し、私の波長がその楽しい場所の波長に高められていたのであるが、私の身体は少しも動いていなかった。

どうやら背後霊は私がその霊界の“待合所”にうんざりしているのを察してくれたようで、それ以来、下層界へ行くことはあっても、その待合所へ連れて行かれたことは1度もない。

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人を騙してよろこぶ霊たち

あるとき沈んだ雰囲気の場所へ連れてこられた時、少し離れたところを1人の男性が通りかかった。そして私の方を向いてきさくな笑顔を見せて手を振るので、私もつい手を振って挨拶した。

するとその男は1人の女性といっしょに私の方へ近づいてきて“あんたはこの女に用があったんじゃないかな？”と言う。

私はその女性とは何の縁もないので首を横に振った。が、男は“いや、用があるはずだ”と言い張るので、私はおかしいと思って男の魂胆をさぐり、すぐにピンときたので、“いや、申しわけないが、そんな女には会った覚えはないな”ときっぱり言った。すると男は肩をすぼめる仕草をして2人で去っていった。

しばらくは煙に巻かれたような気持だったが、そのうち指導霊が、あの男は地上で売春婦斡旋業者だった者で、連れの女のかせぎで暮らしていたことを聞かされた。なるほどと思った。彼らは霊界の“海千山千”で、本心をたくみに隠す術を心得ている連中である。私ももう少しでまんまとひっかかるところだった。

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3章　幽界の上層界

地上とよく似た世界

前章では幽界でも面白味に欠ける下層界での体験を紹介したが、それより少し上層へ行くと、地上とそっくりで、しかも肉体から解放されて比較的自由な活動と霊的可能性を楽しんでいる境涯が存在する。

退嬰的でもなく、さりとて進化しているとも言えない。言ってみれば“気楽な境涯”で、これを適確に紹介するのは容易ではない。一般的に言って霊は地上時代の思考のクセや生活習慣にしばらくのあいだ固執するものである。

田舎で生活した者は広々とした地域を好み、都会で生活した者は市街地を好むといった具合である。私が見た市街地は地上と同じように住民が大勢いて、ショッピングセンターのあるところなどは特ににぎわっていた。

道路にはさまざまな交通機関が見られるが、そこは想像の世界であるから、それを利用するのは地上でそういう機関を利用していた人たちが主である。地上のさまざまな時代に生活した人たちが集まっているために、道路を走っている交通機関もさまざまな時代のものが見られ、結構楽しくもあり時には滑稽でもある。

たとえば近代的な車に混じってカーマニアによる手づくりの車を見たこともある。どんな気まぐれな思いつきでも、地上のような費用も労力もなしに楽しめるので、珍妙な格好をした3輪や4輪の車が見られる。それが結構製作者が思った通りに“進む”のである。

あるときはノーフォークジャケット（ベルトの付いたシングルの上衣）と1906年頃のニッカーボッカーズ（ヒザの下にギャザーを寄せ、すそをしぼりカフスを付けた半ズボン）の男が自転車に乗り、サドルの横に張り出しの座席をつけて、そこに子供を乗せているのを見かけた。

私は永久“運動機関”（注）を発明しようとして実現できなかった研究家たちは、霊界ではさぞ満足していることであろうと思う。なぜなら、ここではアイディアがすべて実現するからである（注・永久運動機関 – エネルギーを消費しないで永久に動く機関のことで、一時これを求めて研究が行われたが、実現不可能という結論に達した – 訳者）

これまでの体験で私は身体的な疲労を覚えたことは1度もないが、精神的に退屈感を覚えて気分転換を必要とする場合があるにはある。例えば、ある時ひじょうに巾の広い自動車道をバスで走ったことがある。大へんな長い距離で、その帰路で精神的に疲労を覚えはじめた。

往路で見た沿道の景色をいくつか覚えていたことが却ってまだまだ先があると思わせる結果となり、気分的に果てしないように思えてきた。多分このときの遠乗りはそうした精神状態を体験させるためだったに違いない。

この境涯にはさまざまなタイプの家屋が見られる。あい変わらず地上時代に住んでいた住居の感覚から脱け切れない者がいて、そのまわりに明らかに無用の付属物が見られる。

が、一方には可能性に目覚めて、地上とはまったく異質のものをこしらえている者もいる。かつての親戚や友人との接触もはじまり、当然その結果として交友関係が広大なものとなっていく。

そうした人たちが1つのグループをこしらえて、勉強のためにさまざまなところへ見学に行くということが行われる。最近私もその1つに加わった – というよりは私の背後霊によって体験させられたので、それを紹介しておきたい。

私が加わったグループは12人から成り、そのリーダー格をしている女性はかつて地上で私の家族と知り合いだった人である。母性的風格の備わった、しっかりとした女性で、地上時代も旅行好きだった。

すでに他界している兄と義兄との間にはさまれた形で歩いていくと、超モダンな建物が見えてきた。全員が中へ入り、少し見学して他の者は出ていったが、私は全体をもっと見たかったので居残った。

そこへ別のグループが通りかかり窓からのぞき込んで私を見つめていた。やがてそのグループも中へ入ってきて、その中の1人が私に「ここで何をなさっているのですか」と聞くので

「アダ・メイのグループといっしょに来たのですが、みんな先へ行っております。私だけ残って見学しているところですが、あなたたちこそ、ここで何をなさっているのです？」と言い返した。

これには一同が哄笑したが、その中の何人かの女性たちが「ほんと。たしかにあの人だわ」とささやき合っているのが聞こえた。それを聞いて私は、私の親戚の者を通じてすでに私のうわさを耳にしていることを知った。間もなくそのグループも去って行った。

このことに関して興味ぶかいのは、さきほどアダ・メイという姓名を口にしたとき、メイという姓がすぐに出てこなかったことである。

地上へ戻ってきてメッセージを伝える霊が妙に記憶喪失のような態度を見せ、とくに地上時代の姓を思い出せないことがあるが、これは置かれた環境条件が本来のものでないためであることが、これで分かる。

多分私の場合は肉体から脱け出る際に生命力の一部を肉体に残していくことになるので、記憶も一部が残るのではないかと思う。

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妻とともに

初期の体験であるが、妻と田舎の散歩を楽しんだことがある。お互いにとても楽しい思いをし、同時にそれがきわめて地上的色彩を帯びていたので印象に残った。ひじょうに長距離を歩いたということがその1つであるが、もう1つは、地上的習慣から私が途中で紅茶を飲みたい気分になったことである。

しかし私はそのことを口に出さずにおいた。ところが気がついてみると妻が茶店のある公園の方へ足を向けていた。その公園の中にバラの花に囲まれた大きな“あずまや”があった。

そのあずまやに入ってみると、中にもう1組のカップルが休んでいた。私たちも一息入れていると、やがて目の前に1杯の紅茶が現れた。それはすぐに消えたが、それでも私には気分転換になった気がした。

幻影ではあったが、格好が完全に整っており、私にはあたかも実際に飲みほしたときの“味”と“気分”がしたように思えた。

その体験で霊体が養分を摂取する方法はこれだなと思ったが、その考え方は間違っていた。私の場合は単に背後霊が私の紅茶を飲みたいという願望を満たし、妻との“外出”をそれで終わりにするための演出だったのである。

私の霊的身体は訪れる界の思念やバイブレーションに感応するが、感応しないものもある。ある界でマヨネーズを口にしてみたことがあるが、まったく風味がなく、まるでチョークと水を混ぜたようなものに感じられた。

また娘と散歩している時に飲料用の噴水を見つけて近づいてみた。するとすぐそばに氷の入ったグラスが置いてあったのでその氷にさわってみたが、冷たさはまったく感じられなかった。多分その界のすべての感覚を味わうには、“その界の住民”とならねばならないのであろう。

私自身はまだ離脱中に地上的な食事風景は見たことがないが、お茶を飲みながらの雑談の風景はよく見かける。精神的なくつろぎを味わうのであり、私自身、妻とともにそれを体験している。

離脱中の体験をどこまで回想できるかは背後霊にもかならずしも分かっていないと述べたことがあるが、あるとき、ふと気がつくと妻と歩いているところだった。そして、われわれ2人のほかに、妻が霊界で面倒を見ている2人の子供もいっしょだった。

実はその時に4人で、ロンドンでよく開かれる“理想的ホームの展示会”のようなものを見学に行っての帰りであったが、私はその会場の中での記憶がまったく無く、会場の建物を振り返ったときに、ただひじょうに明るくて興味ぶかいものだったという印象だけが残っていた。

どうやら、その時点で繊細なバイブレーションが働いているかいないかの違いであるように思える。きっと妻の方では私が展示会のすべてを見て記憶してくれていると思っていたに相違ない。どうやら地上的意識のあるなしにかかわらず、霊的身体の繊細なバイブレーションが働けばすべてを回想できるようである。

そのあとで妻の意図を察して“どこかで喫茶店に入ってお茶でも飲もうか”と言うと、妻は“混んでると思うけど…”と言った。が、ともかく一軒の喫茶店に入ってテーブルに席を取ると、2人の子供のうちの1人が隣のテーブルにいる幼児と隣り合わせに座った。

するととたんにその幼児がはしゃぎ出して、ガタガタと音を立ててよろこんでいる。私が内心“しまった。反対側に座らせればよかった”と思うと、その瞬間その子供が立ちあがって私の思った席のところへ来た。これはテレパシーの作用だったと思われる。

喫茶店を出たあと妻が私を一軒の家に案内した。その家の一室の壁にすばらしい綴織（タペストリ）が飾ってあった。手でさわってみると絹のような感触がした。

すると妻が“それを手に入れられるのに苦労なさったのよ”と言った。どんな苦労なのか分からなかったが、その本人が見つめていたので聞く気になれなかった。

同じ部屋に置いてあるサイドボードの上に何ともいえない色合いのピンクとブルーの花を生けた花びんがいくつか置いてあった。花の名前は確認できなかったが、スイセンに似た形をしており、ほんの少し花弁を開きかけていて、その芯のところに黄金がかぶせてあり、あたかも本物の黄金でできているみたいな輝きを見せていた。

同じく初期のころの体験の中で妻と会ったとき、いっしょに公園を歩いていると少し先を2人の女性が歩いていて、どうやら私たち2人のうわさをしていることが分かってきた。

そして最後に一方が“そうなの。奥さんが地上のご主人と2人のお子さんの面倒をみてらっしゃるのよ”と言った。この2人は、霊界ではある人のうわさをするとその思念がテレパシーで当人に伝わるということを知らないらしかった。

さきほども述べたように、体外旅行をしている間は地名や人名が思い出しにくい。英国西部のグロスターという都市に娘がいて、時おり車で訪ねることがある。

あるとき体外旅行中に妻と話をしていると、4頭のポニーに引かれた小さな馬車が通りかかった。私は妻の方を向いて“あんなのでグロスターまで行ったら、ずいぶん時間が掛かるだろうな”と“言おうとしたが”、グロスターという地名が出てこない。

とっさに私は南西部の地図を思いうかべて妻が直感してくれればと思った。が、実際はもうそんな必要はなかった。妻には私が伝えようと思ったことは何でもすぐに伝わっており、それでこの時もごくふつうに会話が進んだ。

霊と霊との会話は実にすばらしい。いちいち言葉を選ばなくてもいいので、伝えたいことがいくらでも伝えられる。きわめて自然であり、自発的なので、言葉はめったに使わなくてすむ。もしも口で言うことと本心とを使い分けようと思えば、これは大へんな精神的曲芸を必要とすることであろう。

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霊界の私の家と店

本書のはじめのところで私は、こうした体験を公表する私の意図は、現代まだ地上に生活している人間が持ち帰った死後の世界のありのままの姿を紹介することにあると述べた。

私の霊界旅行の範囲は実に広くかつ次元が異なるので、その叙述の内容がさまざまとならざるを得ない。が、これで従来の霊界通信の内容が一定のパターンでないことを理解する上での一助となるであろうことを期待している。そうした差異が地上の人間にとって霊の世界についてのイメージをまとめるのを困難にしてきているのである。

この20年間の霊界旅行で私が訪れた境涯のバラエティの豊かさは、私自身があらためて何度も驚かされてきている。同じ場所に2度訪れたことはめったにない。1つ1つの環境が異なったバイブレーションを発しており、それが霊的身体にすぐさま感応する。

私が定期的に訪れている場所は霊界の私の住居、庭、店といった私個人にかかわりのあるところだけである。そして当然そのあたりの地域も入る。霊的身体の感受性はすばらしいもので、あたかも“触手”のように自然に働くようである。

私の霊界の家に入ったときなどは瞬間的にその場の私個有のバイブレーションを感知する。目で見て我が家であることを確認するのではない。時には無意識のうちに我が家に連れてこられていることがあるが、意識が目覚めた瞬間に我が家だと感じる。

地上で飼っているネコを時おり霊界の我が家で見かけることがあるのも、やはり同じ原因、つまり私のバイブレーションがそこに充満しているからだと思われる。

ネコはあまり変化しないようである。霊界へ来てもあい変わらず冷静であり、つねに自分というものを守って超然としており、私に対しても“あなたはあなた”といった態度が見られる。

私の店がある境涯は、現実の英国の町と較べてもきわめて自然（ノーマル）と言えると思っている。大体において霊界へ来てまだあまり長くない者が集まっている。どれくらいの長さかと言われても、1人1人進化の度合が違うので断言できない。

死後の睡眠状態からようやく目覚めて、さし当たってそこで過ごしているという段階の人たちである。そして結構、生活を楽しんでいる様子である。それは地上生活のような煩わしさがないし、生活費を稼ぐ必要もないからである。死後の世界をバラ色の天国のように伝えてくることが多いのも、そうした事情による。

霊界の私の店は地上の店の複製ではない。地上の店よりずっと大きく、つくりも違う。が、店に並べてあるのは同じ種類のもので、書籍類と文房具、絵はがきなどである。

時り店番として若い女性が2、3人きてくれてるが、いずれも地上では知らなかった人たちである。売買はおカネによるのではなく、何らかの形でお返しをするという形式で行われる。

あるとき何気なく店の雑誌を眺めていたところ、The Popular という文字が印象に残った。地上に戻ってからそれが1926年の発行であることを思い出した。少年向けの本で、これで霊界の本には地上の本の複製もあることが明らかとなった。

私の店はまた気楽な集いの場でもある。数か月前に、夜中にそこへ訪れ、客を奥の部屋へ案内したことがある。その客の中には、地上では会っていないが古い親戚の人だと分かる人もいた。

そういう人を格別しげしげと見つめることはしなかったが、1人だけ顔をそむけて過ぎ去ろうとする者がいた。そしてそれが実の父であることを直感した。

私は興奮ぎみに“おや、父さんじゃないの。はじめ気がつかなかったなあ”と言った。すると父は笑って返した。そのそきの容貌から父がすでに相当進化していることを見てとった。

背丈も、地上では私より低かったが、その時は私と同じだった。以前会ったときはきまって地上的外見を具えていたが、この店は私を試すために本来の霊界での姿を見せたことは明らかである。繊細さを増した私の霊的身体がその策謀にひっかからなかったというわけである。父の笑いはその笑いだった。

私が田園風景を好むことを知っている背後霊は、時おり、低級界からの帰りに休息と回復のために森の中の泉へ連れて行ってくれた。はじめての時、夢遊状態で繁みの中の曲りくねった道をたどっていくと、泉が湧き出て大きな水溜りとなっているところへ出た。

意識状態のままで行けるようになってからは、どこでどっちへ曲り、次に何がある、ということまで分かるようになった。以来たびたび連れて行ってもらっているが、どうやら、その土地にも季節があるらしく、泉を取り囲む繁みが高い時と低いときがある。

もっとも地上の暦とは無関係で、まだ冬のような季節を見かけたことはない。すでにそこへ数え切れないほどたびたび訪れていて、まるで“私の庭”のように、どこに何の繁みがあるといったことがみな分かるほどになっている。

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娘とともに

私には10年ほど前に他界した娘がいる。あるときその娘といっしょに素敵な草原を散歩していた。のどかな田園風景が広がり、そこここに羊がいて、花も咲き乱れている。

娘が立ち止まってそのうちの1本をつみ取ったのを見るとクローバーだった。が、私の見慣れた赤や白ではなかった。柔らかく淡いパステルの陰影があり、それが美しい虹のような印象を与え、近づくと、美しいものを見たときに湧き出る感動と違って、花そのものが与えてくれるある種のうれしさを感じた。

草原の一角に目をやると1頭の羊がしゃがみ込んで頭を上げ、視力のない目を大きく開けて虚空を見つめていた。完全に毛を刈り取られており、あたりに湿っぽい霞が漂っている。

すぐ近くの草の上に白っぽいもの（刈り取られた毛）が輪になって横たわっている。そしてさらにそれを囲むように羊の群れが輪になってしゃがみ込んでいる。

私はすぐに、これは死んで地上から運ばれてきた羊で、まわりの羊は、羊の類魂を支配している守護霊が、その羊が目を覚ました時の慰め役としてそこへ連れて来たのだと直感した。その光景に私は何となく哀れさを感じた。死んだ原因を想像するからであろうが、私はその事実は知りたくない心境だった。

娘は地上でも動物が大好きで、今その愛情を存分に発揮できて幸せそうだった。いつだったか、霊媒をしている私の友人がその娘からの通信を受け取ってくれていた時に“パパは私が the porcine といっしょにいるところを見たわね”と言った。

私にはその意味がよく分からないので説明を求めると、霊媒が“お嬢さんは何も言おうとせず、ただ笑っていらっしゃいます”と言う。私はやむなく辞書を引いてみると、豚の一種であることが分かって得心がいった。たしかに1度霊界で娘と会った時に小豚がいっしょにいた。それが娘のわきをうれしそうにチョコチョコ歩いていたのである。

うれしいことに動物にも平和と幸せの境涯がある。人間からのちょっとした情愛にすぐに反応してくれるのもうれしいことである。これは愛に相関関係があるからで、以前にも説明したことがあるように、与えた愛は何倍にもなって自分に戻ってくるものである。

反対に動物を虐待した者は、死後、一種の“自己検診”のようなものをさせられて、辛い思いをすることになる。地上生活での出来ごとは細大もらさず魂に刻み込まれているので、絶対に逃れることは不可能なのである。そこから生まれる自己嫌悪感は実に強烈で、それが進歩を遅らせることになる。

他界後間もなく娘は私に、地上のさまざまな国を訪れ、動物が受けている可哀そうな恐ろしい取り扱いぶりを見て、身の毛のよだつ思いをさせられたと語っていた。

そのことに関連して私の指導霊が“彼女は今では地上にいた時よりも人間に対する同情心が強くなっている。なぜ？それは人間および動物に対する酷い扱いぶりを目（ま）のあたりにしたことで、慈悲の心が大きくかつ深くなったからです。強烈な体験をへてはじめて本当の慈悲心が芽生えるものです。娘さんは大いに心を痛められ、そして大いなる教訓を学ばれた”と語ってくれた。

私はよく“進歩”という言葉を使用するので、もしかしたら霊界というところがまるで受験勉強のように必死に向上進化を目指して頑張っているかの印象を与えるかも知れないが、実際はそうではない。

私がこれまでに述べてきたかぎりの境涯においては“楽しさ”にあふれており、新しい驚異や自分に内在する能力を発見して、それを思いも寄らなかったおみやげをいただいた時のように喜ぶということの中に進歩が得られていることを理解していただきたい。

たとえば娘が他界後すぐ語ったところによると、あちらでも絵を描くには絵の具と絵筆を使用するのが普通であるが、進歩してくると意念の操作によって色彩を直接カンバスに投射することができるようになる – 今では自分もそれができるようになった、という。

さらに最近では色彩光線を使用して子供を治療することを研究しているグループに加わっているという。霊体そのものに別に痛みはないのであるが、他界直後は地上の精神的習性のために、死に際（ぎわ）にうけた傷が残っている時があり、色彩光線がその治療に効果を発揮するという。

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霊界の博物館

明るい界層へくると霊体が低い界層にいた時よりはるかに良い影響を受けるのが分かる。雰囲気にのどけさが増し、住民の生活ぶりに悠長さが見られる。考えることが常に明るく、また、ちょうど観光旅行や行楽へ行く時のような、全体に和気あいあいとした楽しい雰囲気がよく感知される。

すでに夢まぼろしを求める段階を過ぎて、新たな驚異と興味の対象に胸おどらせて、霊としての真のよろこびを味わいはじめている。

あるときはリゾート地へ連れて行かれたことがある。大ぜいの人がきれいな浜辺に腰を下ろし、バンドの演奏も聞こえる。波乗りを楽しんでいる者もいれば、沖の方にはヨットも見える。

そこは高級霊の監視のもとに、ありとあらゆる望みが叶えられるところらしく、地上でその楽しみを味わう機会のなかったものを満喫することができる。

博物館や展示会もたくさんあり、私は格別に興味をそそられた。品物はガラスケースに入れられておらず、すべてのものが“むきだし”のまま展示されている。それもそのはずで、こちらでは朽ちたりホコリをかぶったりすることがないのである。自由に手にとって見ることができる。

あるホールには、ありとあらゆる種類の器具、道具、機械類が納めてあった。その中には計器や私に理解のできないものが布で内張りをしたケースの中に納められており、どうやらその種のものとしては特別のものらしく、大ぜいの人が見入っていた。そのホールの中央にはプレス機、ポンプ類、発電機等の大型の機械類が置いてあった。

発明品の歴史を展示してある博物館で私は古いレコードに興味をもった。ワックスのシリンダーが輪切りにしてあり、サウンドトラック（音の出るミゾ）の深さが分かるようにしてある。

驚いたのは、それに触れただけで内容が伝わってきたことである。その内容は、主人の入れ歯をくわえて逃げた犬の話をこっけいに物語ったもので、たぶん、まだ入れ歯そのものが珍しく、それを口にすることすら笑いを誘った時代のものであろう。

こうした霊的身体による反射的なサイコメトリは実に不思議で、私が理解するところによれば、霊界の物体の多くはある程度まで地上の物体が対になっていて、同じバイブレーションと印象を留めているものと考えられる。

あるとき小さな図書室に案内された。そしてその中に入ったとたん、何とも言えない安らぎと静けさを感じた。部厚いカーペットが敷いてあり、その上に4つないし5つの肘か椅子が置いてあり、書棚には実に美しい装丁の書物が並べてあった。

そのそばに近づくと霊的真理の内容から出る強烈な放射物を感じた。手にとってみたかったが、すでに2人の人が読書中だったので遠慮して引き下がった。

模型の製作者は死後も同じ興味を持ち続けている。霊界では意念が素材であるから、その扱い方を会得したあとは、地上にいたときよりはるかに容易に仕事がはかどることであろう。

ある模型製作者の仕事場を見せてもらったところ、たまたまブランコやメリーゴーラウンドなどの模型の展示会が催されていた。どれも私の手のひらに乗るほどの小さなものばかりであるが、ぜんぶ本物と同じように動くのである。

数人の少年が池でいろんな種類のボートの模型で遊んでいるところを見かけたことがある。見事なものばかりで、あらゆる部品が完全な縮尺で再現されていた。その中に1つだけ奇妙なものが目についたので、よく見てみようと思って近づいて、うっかり水の中に入ってしまった。

その瞬間に地上のクセで、ズボンを濡らしてしまったという観念が脳裏を走った。が、そのまま構わず近づいてそれが“中世”の型であることを確かめてから岸へ戻ってみると、靴もズボンもまったく濡れていなかった。

霊界の水をよく調べてみようと思いながら、つい忘れてしまう。水中に入ったときに濡れたように感じたのは地上の先入観念のせいだと考えている。

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母の来訪

遠い親戚に当たる女性が他界したあと私はその女性のためにあらかじめ用意されていた家に連れて行かれた（人間は例外なくその地上生活にふさわしい住居を用意されている – 訳者）その家の1つの部屋で私の父が待っていた。

2人で話をしているうちに父が“ほら、見なさい”と言って壁の方を指さした。私は壁紙のことを言っているものと思って見つめていると、その壁の前に1個の像の輪郭が見えはじめ、やがて姿が整ったのを見ると母だった。

母は私たちに映じる波長の姿をこしらえるのに必要な精神統一をしているために緊張し、真剣な表情をしていた。すっかり整うとようやくにっこりとして近寄り、挨拶をした。

ひじょうに若く見えた。他界したのは74歳の時だったが、今は20～25歳くらいに見える。かなり高い界層に所属し、それでそういう出現の手間を掛けなければならないのだと理解できた。

私はひと通りその家を案内してもらったあと、もう1度別の部屋で母と会った。母は明るく幸せそうだった。そして、そろそろ帰らなくては、と言った。それから寝椅子に横になり“さようなら”と言った。

私は母の頭部の横に立って見ていると、すーっと姿が薄れて消えていった。母とはいつでもコンタクトが取れるので、その光景を見て私は少しも悲しさは感じなかった。

その後の霊界旅行で子供たちが野原で遊んでいるのを見ていた時に、再び母が姿を見せた。この時は前の時よりも地上的雰囲気に近かった。そして最近他界してきた例の親戚の女性が地上の家のことで悩んでいると告げた。

私はその人があとに残した家にとても執着していることは聞いて知っていた。そこで地上に戻ってから聞き合わせをしてみたところ、息子さんたちがその家を売る考えでいることがわかった。

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スピリチュアリストの集会所

あるとき霊界の素敵な住宅地区とおぼしきところを訪れたとき、そのうちの1軒へ案内された。門をくぐってドアに近づくと、中から2人の男性が出てきた。すれ違うときにかるく会釈をした。

2人の顔に見覚えはなかったが、直感的にそこがかつて地上でスピリチュアリストだった人たちの出入りする集会所のようなところであることを察した。部屋の1つをのぞいてみると何人かが集まっており、1人を除いて顔見知りの人は見当たらなかった。

その1人というのが、私が交霊会で離脱するところを前の席から霊視していた年輩の女性だった。（1章“幻覚でないことの証”参照）

この女性は霊視能力が強く、霊姿を細かく叙述できた。あるときは私のそばにいる霊を叙述して、この人はアラブ人の服装をしているが、どうやらアラブ人ではなく、アラビアのロレンスですと言った。

それからそのロレンスからのメッセージを伝えてくれた。内容はその夫人には何のことか解読できなかったようであるが、私にとっては紛れもなくアラビアのロレンスであることを立証するものだった。

その老夫人を私が霊界で見かけたのは夫人が他界してまだ1年ばかりしか経っていない時期であったが、さすがに落着き払い、安らぎを見せていた。この夫人にとっては“夢幻界”は存在していなかった。

私を見かけると“ようこそ、スカルソープさん”と、地上のときと同じ態度で挨拶した。私はゆっくりと話がしたかったが、まわりに見知らぬ人が大勢いて、いつもの私の引っ込み思案のクセが出て、黙っていた。

この“遠慮”ないし“はにかみ”は高い界層へ行くと消えてしまう。以心伝心の関係が緊密となるからであり、私の体験でも、1度も固苦しい挨拶をした記憶がない。誰に会っても、あるいはどんな集団の中に入っても、自然にお互いが知れてしまい、あたかも兄弟姉妹に会った時のように、改まった紹介が不要なのである。

私はそれから家中を見学したあと外へ出て地域全体を見てみた。見たところ英国の町はずれの住宅地区とそっくりで、すぐ近くにショッピングセンターもあった。ま新しい白いコンクリートの商店街が立ち並び、上の方に赤色の大文字で ROSEWAY（バラ通り）と書いてあった。私は同じものが地上にもあれば面白いが、と思った。

その通りを歩いていると東洋風の男を見かけた。その男が私に気づくと一瞬とまどいの表情を見せた。たぶん私の姿が“その界層での”“固体性”を十分に備えていなかったからであろう。

私は例のスピチュアリストの集会所へ向かったのであるが、たしかにこの辺りだったと思うところへ来ても、その建物が見当たらない。そこで私はたんねんに1軒1軒の門柱の表札を確かめながら歩いた。

そのとき面白いことを発見した。表札によってはその家の前の居住者の姓名がうっすらとその下に残っているのである。うっすらというのは、ペンキが薄くなっているというのではない。ペンキはもう完全に消えている。結局その姓名を書いた人の意念が残っていて、それを霊的感覚によってサイコメトリ的に読み取っていたのである。

それにしても、私が探している家がなかなか見つからないでいると、例の少女が現れて教えてくれた。この少女は時おりこうして私が困っていると現れては謎のような消え方でいつの間にかいなくなってしまう。

さて私はその建物の中へ入ったのであるが、その時点で意識が途切れてしまった。肉体へ戻されたのではない。これはたぶん背後霊の仕業で、私の地上的な“はにかみ”のクセを捨てさせて、そこに集まっていたスピリチュアリストたち、とくに例の夫人と心おきなく話をさせるための配慮だったと信じている。

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グレンジャー通り

地上とそっくりの場所に関連した初期のことの体験に次のようなものがある。あるとき気がついたらロンドンとおぼしき通りにいた。直感的に妻に会えるような感じがすると同時に、その通りの端にある家に妻がいそうな気がした。

すると意識がはっきりしてきて、うれしさを覚えて、そこの光景が透き通るように鮮明に見えてきた。建物は1850年代のスタイルで、この通りの端に“グレンジャー通り”と記したプレートが見えた。

いよいよその家の入口までくると妻の方からドアを開けてくれた。再会をよろこびあい、応接間でしばらく語り合っていると、妻が真剣な顔で“あなた、もう時間だわ”と言った。私はもう少しいたかったので妻の手を取って“まだいいよ”と言ったが、いつものように、どうしようもない法則でベッドへ連れ戻されてしまった。

それから2、3日して私はある交霊会に出席したところ、正面の席にいた霊媒にある霊が憑（かか）ってきて、からだを前かがみにして“私はあなたが奥さんにお会いになったときに同じ通りにいた者です”と私に言った。

交霊会が終わってから私は霊媒に、あの霊は何者ですかと尋ねると“あの霊はよく私に憑ってくるのです。ロンドンのオールドケントロード附近に住んでいた方で、誰かの結婚式で酔ってしまい、道路を横切ろうとしているところを消防自動車にはねられたのです”と語ってくれた。

家に帰ってからロンドンの市街帳を開いてみたら、確かにオールドケントロードの近くにグレンジャー通りというのがあった。私はいささか興奮を覚えた。その通りと、妻と会った家はきっと地上にもあるはずだと確信していたからである。

同時に私はプレートに記された通りの名の“字体”も覚えていたので、次の日曜日に車でその通りへ行ってみた。が、来てみるとグレンジャー通りというのは見当たらず、だだっ広（ぴろ）い土地があるだけで、その中に新しいレンガや建築用材が積み込まれていた。

近くの店へ行って尋ねてみたところ、“それならその空地にありましたよ。新しくアパートを建てるために、少し前に取り壊されたんです”と言う。私は“霊界にはまだその通りがありますよ”と言うわけにはいかなかった。

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霊界でのドライブ

こうした地上と霊界の2重生活が滑稽な錯覚を生んだことがある。ある日オートバイで当てもなくドライブをしていたとき、ふと“家のプールのようすを見てこよう”という考えが過（よぎ）り、さらに“今日は日曜日で交通規制がないから思い切り飛ばしてやろう”と思った。が、あとでプールは霊界の家にしかないことに気づいた。

心理学の専門家に言わせれば、これは一種の“精神分裂”であろう。そして事実、人間には物的精神と霊的精神の2つが同居しているのである。私はむしろこの両者が分裂しないで死後もなお物的精神のみ – つまり死んだことに気づかず地上的意識のみで延々と何十年何百年と地上と同じ場所で暮らしている人を数え切れないほど見ている。

この種の人はいつの日か、もう1つの自我、すなわち霊的側面が目を覚まして、それまで無視してきた指導霊の導きに耳を傾けるようになるまで、かたつむりにも似た進化の歩みを続けるほかはない。

私はよく霊界でもオートバイに乗るが、“あちら”では決して故障することがない。前に飛行機で山を越えようとしている光景を紹介したことがあるが、あれと同じで、オートバイが“走る”と思い込むだけで走るのである。

霊界に置いてある私のオートバイに背後霊がよくイタズラをすることがある。あるときは、まっ黄色に塗ったバスぐらいの大きさの見苦しいサイドカーがそのオートバイに取り付けてあった。

実は当時私は地上で小型のオートバイを乗りまわしていたので、それとあまりに対照的なので滑稽に思えた。私としてはサイドカーを付けることによってスピードが落ちることだけはご免こうむりたい心境だった。が、それは一種の予言でもあった。その年のうちに私はサイドカーを取り付けることになったのである。

霊界でのドライブは意念操作であるが、私の場合は操縦の手順を一通り行わないとダメである。前に紹介した飛行機の操縦も地上の習慣で“こうすれば飛ぶ”という期待、つまり一種の信念で飛ばしていた。もしも自分の身体を飛ばしてみろと言ったら、バカを言うなと言い返したことであろう。

が、高級霊になるとそうした操作は一切不要である。私はあるとき霊界の“運転の名手”のドライブに同行したことがあるが、まさに電光石火のスピードを出すことができた。

私にとって新たな勉強になったが、気分のいいものではなかった。言ってみればフィルムを早送りするようなものである。あたりの景色は何も見えず、曲り角も弾丸の勢いで蛇行し、目まいがして不快さえもよおした。

こうした高く速い波長は私の遅い波長の身体にとって“スリル”を味わうという段階を超えた体験で、終わったときはホッとした。どうやらその間その“名手”は自分のオーラで車と私を包んでしまうらしい。だから低い波長の環境でもそれほどのスピードが出せるのである。それがその体験の教訓だったと信じている。

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霊界でのショッピング

この、いわば中間層ともいうべき境涯においては、地上の楽しみや興味の対象がことごとく存在し、しかも時間も経費もかからないので、生活全体にのびのびとした気らくさが見うけられる。

気らくに訪問し合い、気らくに観光を楽しみ、気らくにショッピングができる。店の種類も家具、衣服、金物等々の専門店もあれば大きなデパートもある。デザイナーや製作者は経費も手間もかからないので次から次へとアイディア商品を開発している。

あるとき娘といっしょに大きなデパートに入ったことがある。大きな入口を入りかけたとき、地上の学校の制服を着た女の子といっしょになった。娘の学校友達だなと直感した。そして案の定、小学校時代に他界した子だった。

デパートにはすてきな品物がいろいろと置いてあったが、私がとくに興味をもったのはカラーの花の模写を載せたページの大きな本で、生きた花そのままに描かれていた。

あるコーナーでは14インチの長さのアラバスターの小箱に興を引かれた。内側に金細工が施してあり、まるでアラジンの洞窟から持ち出してきたものみたいで、地上だったら、さしずめ収集マニアの垂涎（すいぜん）の的となるところであろうと思った。

地上に戻ってからのことであるが、知人の霊媒を通じて娘が、デパートの入口でいっしょになった女の子について、いつもいっしょに暮らしているわけではない – 興味が同じでないから、といった意味の通信を送ってきた。

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霊界での憑依現象

これまでの体験を読まれてお分かりのように、私の存在は徹頭徹尾、背後霊の手中にあるので、思いも寄らないユーモアのある事柄で私が“憑依された”ことが何度かある。

意識が残ったままのこともあるし、無意識のうちにさせられることもあるが、ともかく強制的にある役割を演じさせられるのである。

あるときは大勢の聴集のいるどこかの大きな会場へ連れて行かれ“これからあなたが演説することになっている”と告げられた。私は演説などしたことがないので、いささか不安になった。

が、演壇に上がったところから無意識となり、次に意識が戻った時は演説が終わって演壇から下りているところだった。聴集が私の演説の内容のことでしきりに語り合っていた。ともかく終わったらしいので私はほっとしたことだった。

この境涯になると何かにつけてユーモアがあり、背後霊によるイタズラにもそれが窺われるようになる。あるときラジオでオーケストラの演奏を聞いていた。何曲か演奏されたが、私の感じとしてはドラムが少しやかましすぎて曲全体を台なしにしているように思えた。

そんなことがあった数日後のことである。離脱中にあるオーケストラのところへ連れていかれた。団員は私の背後霊によく似た若い人たちばかりで、みんな変にニコニコしているので、私は何か企（たくら）んでいるなと感じた。

そう思っているうちに背後霊の1人が私に憑依し、ドラムのところへ連れていった。意識は残っていた。同時にオーケストラが演奏を開し、私は無理やりにドラマーをさせられた。

自分で自分がやっていることが滑稽でならないので私は終始笑い続けていたが、演奏そのものは実に見事だった。曲は短くてすぐに終わった。終わったあと全員がゲラゲラ愉快そうに笑っていたが、私はそれでも“やはり私はドラムは好きになれません”と大きな声で言ったことだった。

別の体験では、気がついてみると聖歌隊のような少年の一団が並んで讃美歌を歌っているところだった。私の知らない曲だったが、不思議に歌詞が次々と口をついて出るのだった。多分その少年たちからのテレパシーだったのであろう。

そのすぐ目の前に立派な校舎があった。“解散！”の声とともに少年たちは正面玄関から一目散にかけ込んでいくので、いったい何があるのだろうと思って私も入ってみた。なんと、そこには食料品を用意した部屋があって、ジンジャービヤとかレモネードとおぼしきものを“らっぱ飲み”していた。

私は離脱中に食べたいとか飲みたいとか思ったことは1度もない。ところが、あるとき、そのことを我ながら大したものだと思ったところ、すぐそのあとの離脱が終わってもうすぐ肉体に戻る直前に、突然、少年時代のシーンに引き戻された。

お菓子屋さんがあって、私の大好きだったピンクと白のアイスクリームが山と積まれている。私は思わずそれに手を出しかけたそのとたんに肉体に引き戻された。それで私への教訓が終わった。

ささいな笑い話のようで、実はこれには私に対する強烈な戒めで、背後霊団のもつ次元の高いテクニックと強力な霊力を見せつけたのである。つまり私の過去の中から1つのバイブレーションを選び出し、時間をさかのぼり、当時と同じ幼稚な甘いものへの願望を注ぎ込み、そうしておいて穏やかに私の自惚れを諫めた、というわけである。

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“死”のバイブレーション

1、2年前に何度か続けざまに、他界したばかりでまだ目覚めていない霊に関わる体験をした。死後の目覚めに要する時間は個人によって不思議なほど異なるもので、すぐに目覚める人と信じられないほど長期間かかる人とがいる。

あるとき、離脱して意識が戻ってみたら妻といっしょにベンチに腰かけていた。2人で話をしているうちに私は何とはなしに“死”のバイブレーションを感じた。ひじょうに不快な感じだった。

それを身近に感じるので何となく振返ってみると、すぐうしろに男性が横たわっている。見つめているうちに身動きが始まり、やがて目を開いた。私はすぐさま立ち上がって近づき、手を取って立たせてあげた。

そして2、3歩あるかせてあげたところへ、近くで待機していた指導霊がきていずこかへ連れて行った。私は内心よろこびと満足感を覚えた。

別の日の体験で、やはり妻とともに数人の無意識状態の子供をある部屋へ運んだことがある。衣服は大人の場合と同じく“ふだん着”だった。どうやら幽体は地上時代に精神に焼きついた記憶のうちの最も強烈なものを自動的にまとうようである。

その中の1人はくる病のように頭と首が胴にめり込んでいた。が、そういう子の場合でも幽体は正常に復して意識もちゃんと戻る。

その子供たちからも、さきの男性と同じ放射物、いわゆる“死のバイブレーション”を感じた。そのうちの1人の女の子を抱いて運んでいる途中で、私の腕の中で動きを見せた。思わず妻に“おい、この子が動いたよ”と叫んだ。

とっさに私はその子を私の肩まで持ち上げ、片方の手で背中をさすってやった。するとすぐに意識を取り戻し、“お水をちょうだい”と私に言った。

こうした、いかにも子供らしい自然な目覚め方をしたのを見て私は、魂の奥底からのよろこびを感じた。そしてその子を部屋で介抱に当たっている女性に手渡した。私はこの子を“お亡くなりになりました”と宣告したのはいったいどこのどんな医者だろうと思い、同時に、この子を失ってさぞかし悲嘆に暮れているであろう両親のことを思いやった。

こうした仕事にたずさわっている霊界の人たちは、子供たちが自分たちの介抱で目を覚まし、地上よりはるかに恵まれた状態で新しい生活をはじめるのを見て、言いようのない幸福感を味わっている。

が、その一方では、地上の両親がそうした死後のわが子の身の上について何も知らずに、ただただ気も狂わんばかりに取り乱していることを思いやって、私は悲しさを禁じ得ない。

というのも、彼らにはどうしてあげることもできない – 両親がみずからの力で求め、そして見出していくしかないからである。

幼い子の世話をするのは子供好きの人たちである。世話をしながら折を見て地上の両親や兄弟、姉妹のところへ連れて行って地上的情緒を味わわせることもする。地上的なよろこびも悲しみも魂の成長にとって必要だからである。すべてに“埋め合わせの原理”が働く。短い人生にもそれなりの埋め合わせが必要なのである。

以上のような体験を、霊媒をしている友人を通じて確認したことがある。他界してくる人間の世話をしている人がその霊媒を通じて次のようなメッセージを送ってきた。

“あなたは霊界の施設（ホーム）へよく来られて、霊波による介抱のようすをご覧になっておられますね。霊波を当てていると幽体が落着かなくなり、やがて動きはじめ、そして目を覚まします”

目覚めるときのようすはその通りなのだが、私は霊波を当てていることには気づかなかった。さらにその霊が言うには、私が妻とともに仕事をしていることには、陽の効果と陰の効果とがあるという。私にはよく理解できないが、電気的な作用があるらしいことは分かっている。

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“常夏の国（サマーランド）”のハイカラ族

私はさきにこの辺の境涯を“正常”と呼んだが、その正常さの中にもさまざまなバリエーションがあることを付け加えておかなければならない。観念が支配する世界であり、さまざまな性格の人間が混み合っていても、地上時代の習性があい変わらず残っていて、こればかりは“いつまで”という線を引くわけにはいかないのである。

この俗にいう“常夏の国（サマーランド）”はキリスト教で“天国”と呼んでいる漠然とした世界とは似ても似つかぬところである。何の不自由もない世界なのであるが、そういう世界の存在を知ったからといって、それがただちに魂に大きな影響を与えるわけでもない。

地上で霊的なことにまったく関心のなかった者は、こちらへ来てもそう簡単に精神的革命はおこらない。精神構造の中にその要素がひとかけらもないからである。

その意味では、死後の世界は地上時代に培（つちか）われた精神がむき出しになる世界ともいえる。内部にあったもの、支配的に働いていた観念が表面に出てくるのである。時には慣習として引き継がれてきたものが固定化し、霊界での進歩の妨げになることもある。

たとえば、あるとき私はごくふつうの明るさの界へ連れて行かれた。見るとそこは公園で、一見したところなかなか快適で、立派な石造りの門、石庭、観賞池、木製のベンチ等が揃っている。が、池をのぞいてみてがっかりした。魚が1匹もいない。

さらに気がついてみると植物が1本も見当たらない。おまけに人影がまばらである。歩いている者もいればベンチに腰かけている者もいる。そのどれ1人を見ても身なりは実に立派である。がその態度には特権階級特有の排他性からくる勿体ぶった威儀とエレガンスの極みを見る思いがする。

ベンチに腰かけている姿も威儀を正し、どこから写真を撮られてもよいようにと緊張した顔をしている。女性はそれぞれの時代の最高のファッションの帽子をさらに大げさに飾り立てたものをかぶっているが、地上時代の人間味に欠けた生活習慣からくる思考形式が表面に出て、何か冷淡な味気なさを感じさせる。

そう見ているうちに公園の門をくぐって1人の男性が入ってきた。距離は遠かったが、私の幽体の望遠鏡的視力が働いて、上層界からの指導者であることがすぐに分かった。その公園の人たちに説教するために訪れたのである。

が、その人が説教を始め、この界より上にもはるかに進んだ境涯があることに言及しはじめると、近くにいた人の中から2人の男性がやってきて、その説教者を門の外へ連れ出してしまった。

が、間もなくその説教者がまた入ってきた。そして再び説教を開始すると、また同じ2人が連れ出してしまった。連れ出すといっても、決して乱暴には扱わない。

見栄を第一に重んじる習性が人に対する態度をイヤにいんぎんにさせ、さも“これはこれは牧師さま。有難いお言葉ではございますが、私どもの階級におきましては公園でのスピーチはどうも肌に合いませぬ。どうかお引き取りを”と言わんばかりなのである。

実に不思議な境涯である。他人に対する態度はまことに丁重である。けっして迷惑は及ぼさない。その辺に環境の明るさの原因があるのであるが、不自然な気取りの固い殻から脱け出ることがいかに難しいことであるかを見せつけられる思いがした。霊的摂理は完全であり、そして単純なのである。が、それを悟るには単純な正直さが要求されるのである。

同じ界で、地上時代にただ食べて飲んで生きること以外に何も考えたことのない人たちの住んでいる境涯へ何度か行ってみたことがある。これといった興味を持たなかった – というよりは、興味をもつ精神的ゆとりを持たなかったのである。

死後そうした精神構造の者ばかりが集まっているこの境涯に親和力の作用で引き寄せられてきた。生きるために働く必要がなくなった今、まったく何もすることがなく、精神活動が完全にストップしてしまっている。

求めればいくらでも興味あることがあるのに、無関心の習癖のついた精神が活動を阻止しているのである。えんえんと住居が立ち並ぶ通りにもまったく活気がなく、見つめている私の幽体に極度の倦怠感と“ものうさ”のバイブレーションが伝わってきた。

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霊界の病院

妻とのつながりのせいと思われるが、私は妻の勤める病院へたびたび連れて行かれている。病院といっても地上から霊界入りしたばかりの人を介抱する施設である。

あるときその施設をあらためて見学に訪れたことがあった。事務所に行ってみると女性が出て来た。たぶん理解してくれるだろうと思って単刀直入に私がまだ地上の人間で一時的に肉体から離れてやって来たことを説明し、妻に会うのが目的であると告げた。

すると、その女性自身もまだ霊界入りして間がないらしく、私の言っていることが理解できないで、しきりに私の頭上につながっているもの（玉の緒）に目をやっていた。

私のような訪問者は初めてらしいことを知った私は時間が勿体ないので、いま地上は夜で私は睡眠中の肉体から脱け出てきたことなどを説明した。が、なおも怪訝（けげん）な顔をし、“少しお待ちください”と言って奥へ入った。

間もなく代わって男性が笑顔で出てきた。一見して霊格の高い人であることが分かった。そして私の事情をすぐに理解して“結構です。そこの廊下でお待ちになってください”と言って外へ出ていった。待つほどもなく妻がその廊下を歩いてきた。

妻の案内で見学したのであるが、そこは若い女性ばかりの患者を介抱する施設だった。食堂へ入ってみると、ちょうど食事中で、私も妙な食欲を覚えた。

テーブルの間を通り抜けながら患者のオーラとコンタクトしてみたが、死因となった事故のショックや恐怖、病床での苦しみや不安の念が根強く残っていた。

中には地上の病院での消毒液の臭いが漂っている者もいた。事故死した者の腕や首や顔に傷当ての赤いばんそうこうの跡がうっすらと残っている人もいた。精神に焼きついた映像がまだ消えていないのである。

しかし、ホール全体に穏やかな雰囲気が漂い、1人として病人くさい感じを見せていなかった。これは高級界から間断なく送られてくる生命力のせいで、こうした特殊な患者に必要なのである。

見学を終えて施設を去るとき、事務所の入口のところにスタッフ一同が立って見送ってくれた。敬意を表したというよりは、地上からの珍客が物めずらしかったようである。

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霊界の動物たち

動物は霊の世界へ来ても落着くべきところにすぐに落着かない。獲物を狙う本能はすぐには消えないからで、獲物を捕らえてもムダであることをくり返し思い知らされるうちに徐々に消えていく。明らかに自然の摂理は“食う側”よりも“食われる側”に味方しているようである。が、本来の性質がどう猛な動物を私は見たことがない。

あるとき1頭の牛が仔牛をつれて歩いているのを見かけた。仔牛が極端に小さいので私はその母牛のお腹（なか）にいる間に母牛が屠殺されたものと直感した。そこへ1匹の犬が近づいてくると仔牛が逃げだし、犬が追いかけ始めた。

ところが犬は足が速いはずのグレイハウンドなのに、仔牛の方がどんどん引き離していった。霊の世界では地上的な“機能”よりも逃げようとする“意志”の方が霊的な力をよりいっそう強く引き出すからである。

けっきょく仔牛は大まわりして母牛のところへ戻ってきた。私がその仔牛を抱き上げると満足そうな顔でおとなしく抱かれていた。私の同情心を感じ取って、大丈夫、という安心感をもったらしい。

またあるときは霊界の友人の家にいたとき、窓越しに庭を見ていると1匹のリスが大急ぎで木によじ登った。庭へ出てみると、そのリスは温室へ入ろうとして通りかかった小さなサルから逃げてきたらしい。

私はサルが温室へ入らないようにしようとしたが、入ってしまったので大声で“こら、出ろ！”と言ったら、すぐに出て行った。するとその行先に寝そべっていた3匹のネコがびっくりして一目散に小屋の屋根へ上がった。

サルはその小屋とは別の小屋のまわりをうろつきはじめた。すると中でバタバタとあばれる音がするので、のぞいてみると1羽のニワトリが羽根を広げておびえていた。

そのうちサルの行方がわからなくなったが、以上のことから私は、小さなサルは霊界でもしばらくの間は“小さい”ままであることを知った。また、リスもネコもニワトリも、そうしてこの私も、サルというものが“イタズラ好き”であるという観念を持ち続けていることを興味ぶかく感じた。

“温室”が出てきたが、もちろん霊界に温室はまったく不要である。が、その持ち主が、この種の植物は温室でなければダメ、という観念を抱いていれば、そこに温室が存在することになる。

その友人の家の庭にはウサギがたくさんいて、私の足のまわりで遊ぶので踏みつけないように気をつけなければならないほどだったが、同じ庭に小さなクマもいたので私はウサギは大丈夫なのかなと心配だったが、みんな愉快そうに戯（たわむ）れていた。

霊界の海は地上の海と感じは変わらないが、川は太陽の反射がないので、泳いでいる魚がよく見える。金魚とかカワカマスのように色彩の目立つものを私は見たことがある。小さな人工池で熱帯魚を見たこともあるが、色が実に生き生きとしていて、大きさも地上のものより大きいようである。

私は犬を飼ったことがないが、霊界で印象ぶかい体験をしたことがある。あるとき土手に座っているところへ、やや大き目の犬がやって来て私のそばに座った。その身体に手を置いたとたん、人間に近い情愛と親しみが伝わってきた。芝生にしゃがんでウサギと戯れていた時にも、可愛がってほしがる情愛に圧倒されたことがある。

ひじょうに明るく美しい境涯でそこの住民を見つめていた時に、エジプト人とおぼしき男性が通りかかった。容姿端麗で顔が輝いて見えた。その人が毛の長いグレイハウンドを連れていたが、鼻が短くて、私が見慣れているグレイハウンドとは違うように感じ、もしかしたらこれが原種なのかも知れないと思ったりした。

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戦争による中断

長年にわたる離脱体験の中で自分の幽体が霊界旅行から帰ってきて再び肉体に“入り込む”ところを私自身は見たことがない。が、“両手”が入り込むところは1度だけ見ている。

第2次大戦の中のことであるが、日曜日の真昼に私の店にいて離脱した。気がつくと明るい界で、ある儀式が取り行われるのを見ていた。実にきれいな芝生の上に色あざやかな衣装をした人が大ぜい集まっていた。

その時いきなりバン、バン、という音がして、私は肉体に引き戻された。私はてっきり爆弾が破裂したと思っていたが、肉体に戻ってよく聞いてみると、店のすぐそばを貨物用トラックがエンジン不調でしきりに爆発音を出しているのだった。

私はさきほどの儀式がぜひ見たかったので、そのままの姿勢で背後霊に“どうかもう一度連れて行ってください”と心の中で念じた。すると間もなく離脱して同じ場所に来ていた。

ふたたび明るい境涯での幸せそうな人々を見て、その体験の意味が分かりはじめた。戦争で疲弊しきった、苦しみと悲しみと不安の地上世界から来てみて私は、地上人類に対する哀れみの情を強烈に感じた。同時に、言わば2つの世界の中間にいて、妙な孤独感を覚えた。

つまり私はそこに見ている幸せそうな人々の仲間でもなければ、さりとて、地上の仲間にそういうすばらしい世界の存在を知らしめることも容易にはできない。私が霊界にいて寂しい気持を味わったのはその時がはじめてで、しかもその寂しさはさらに増幅されることになった。

というのは、指導霊が“今回をもって当分のあいだ離脱は中止する。戦争の影響で危険になってきたからである。今回もこれにて帰る方がよい”と言い渡されたからである。

これは私にとって大きな衝撃で、慰めと教訓の体験が中止されることに絶望感さえ感じた。指導霊が姿を現わして私のそばに立ったことにも意義があった。色彩あざやかな衣装に身を包んだ背の高い霊で、その表情には私の落胆した心境を察しているのが窺えた。

その時ほど霊界の環境の“実質性”と澄みきった美しさを印象ぶかく感じたことはない。同時に、私には“むなしさ”も禁じ得なかった。何か記念になるものを持ち帰れないものかと考えたりした。

そんなものがあろうはずはない。しかも時は刻々と過ぎていく。私は思わずしゃがみ込んで両手で土をしっかりと掴んで、よしこれを持って帰ろうと決意した（その時さぞ指導霊は笑って見ていたことであろう！）。

そうした決意をよそに、私の幽体は肉体へと戻され、やがて椅子の中で体重を感じた。続いて握りこぶしのままの腕がひじかけの上で重さを感じはじめ、やがてその“こぶし”がほどかれて、まるで手袋の中につっ込むように、すっぽりと肉体の手の中に入っていった。

霊的なものから物的なものへの、この造作もない移行は実に自然で、私は“霊界の土”が落ちているはずだと思って足もとへ目をやったほどだった。

その夜、私は体外遊離が危険であることを実際に霊視させられた。爆撃を受けるのかと思っていたが、そうではなかった。長細い池があって、その中を金魚が1匹だけ泳いでいる。その両側の土手に網を手にした人相の好くない連中がその1匹を捕ろうとして待ら構えている。その金魚が自分だと直感した。

けっきょく戦争という低次元の混乱が霊界の低級界の霊の活躍を広げることになったのだと私は考えている。それに、意識的な旅行をしている時は“玉の緒”を通じての生命力の補給がふつうより多く要求されるので、そこに危険性があるということのようである。私の霊界旅行の再開が許されるようになるまでには、それから少しの間があった。

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4章　さらに上層界へ

上層界の単純素朴さ

光輝に満ちた上層界へ行くほど、霊的真理の単純素朴さを思い知らされる。“光輝に満ちた”と表現したのは、その境涯全体に行きわたる明るさがまるで熱帯地方の真昼のように煌々と輝き、それでいて少しも不快感を与えないからである。その境涯へ来て受ける影響はいつも同じである。すなわち真理への悟りが一段と深まるような意識にさせられるのである。

環境そのものから発せられる波長が霊体に心地よい感じを与えてくれるし、そこの住民が自然に発散している友愛の念がさらに幸福感を与えてくれる。その友愛精神にはわざとらしさがなく、オーラの範囲の広さのせいで、少し近づいてもひしひしと感じられる。

ただ、あたりの光輝のせいでオーラそのものは目に映じない。私がそれを確認できたのは低級界へ下りて来られた時に、まわりの環境との対照で際立って見えたからである。その絶え間なく発散される友愛精神は他の存在への無条件の非利己性と思いやりと解釈できる。

こう言うと単純に響くかも知れないが、その意味するところは絶大である。そこには階級、徒党、派閥といったものがまったく存在しない。また、アラ探し的態度、一方を弁護し他方を排斥しようとする態度がみじんもない。地上的夾雑物のこびりついた宗派、門閥、ドグマといった、地上人類の分裂と流血の原因となってきたものが存在しない。

実に単純な話なのである。地上の数少ない霊的指導者が古くから説いてきた訓えそのままがそこで現実となっているまでで、表現を変えれば“お互いに愛し合う”ということである。これが地上で実現できたら地上世界が一変するであろうことは容易に想像できる。

“天にあるごとく地にもあらしめ給え” – 幾百億と知れぬ人々がその真の意味を理解しないまま、そう祈ってきた。が、繰り返すが、確かに地上の人間の1人1人がこの上層界の住民と同じように他の存在へ向けて友愛の精神で臨めば、地上人類の意識の次元が高揚されることであろう。

それは決して奇跡とはいえない。何ごとにも原因があっての結果である。宇宙の大精神すなわち神は極微の原子にいたるまで支配している。かの著名な天文学者ジェームズ・ジーンズは『神秘の宇宙』の中で“宇宙が1個の巨大な機械ではなく、1つの偉大な思想体系のように思えてきた”と述べているが、至言である。

かつて無線電信が実験段階にあったころ“波長を合わせることが必要”ということが発見された。が、そうしたことに驚いた科学者が他界して霊の世界へ来てみると、そこにも次元の異なる波長をもった霊質の“物”が存在することを知ってさらに驚いている。霊的身体もそれに波長を合わせることによってその界層との接触を得ているのである。

したがって波長の合った環境にいるかぎりその生活は地上と同じく実感があり、そこの存在物は“固い”のである。もっとも、こちらではそれ以外の興味ある発達がいろいろとある。たとえば私の場合は意識が全開し、その界の波長と一致すると、視力が望遠鏡的に鋭くなり、鮮明度と色彩が地上では信じられないほどあざやかとなる。

たとえば、あるとき一見して地上の壁と変わらないレンガ塀を見ていると、レンガとそれを接合しているモルタルの粒子の1つ1つが鮮明に見えてきた。それが実に美しいのである。写真のプロが見たら焦点も深度も色彩も完璧と言うであろう。

そうした幸福な上層界を霊視した人間が古来それをさまざまな用語で表現してきている。インドではニルバーナ、西洋ではパラダイス、北欧神話ではバルハラ、ギリシャ神話ではエリュシオン、インディアンの信仰ではハピー・ハンティング・グランド、等々。

下層界についても同じくさまざまな呼び方をしているが、今の私には、歴代の予言者たちが実質的に同じことを言ったのは少しも不思議ではないように思える。

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神の公正

霊界での体験を重ねていると、単なる推測による判断を超えて、そこの住民の生（なま）の精神活動の中へ深く入り込んでいく。その結果として私が得た教訓を集約すると、基本的な霊的真理は霊界へ来てから学ぶよりも地上において学んでおく方が“はるかに”効果的だということである。

不思議に思う方がいるかも知れないが、事実、地上において築いた精神に霊的要素が欠けていると、霊界入りしても空（から）のままなのである。そのハンディがどの程度の期間つづくかは、“記憶がこしらえる世界”の見出しのところで幾つか例をあげたつもりである。

高い界層へ行くほど知識を多く、かつ巾広く入手できるようになることはすでに述べた。それは、高い波長になるほど高い指導を受け易くなるからである。

あるとき私は霊界入りしたばかりの人が明るい境涯で静かに座って体力の回復を待っているところを見かけ、その人たちの思念とコンタクトしてみた。どうやらそれは“自分はこんなに幸せと楽しさに浴するだけのことをしてきたのだろうか”ということだった。

実は平凡な生活の中でもそれだけのことはしていたのである。神の摂理に決して誤りはないのである。心が友愛に満ち、他人への思いやりの情を失わないかぎり、たとえ霊とか宗教とかに縁がなくても、霊界へ来ると自動的に同じ波長の境涯へと引き寄せられていくのである。

そこは当然明るい境涯であろうし、そこでさらに霊力と知識とを身につけて、進歩も楽しく容易なものとなることであろう。といって、あとに残していく親戚や友人との縁が切れる心配は無用である。なぜなら高き者が低き者へ手を差しのべることは常に可能だからである。

ここでご注意申し上げなければならないのは、私の霊界での体験は主として英国とヨーロッパに関連したものばかりであることである。これはもちろん私の思考形態と生活習慣によるわけである。人間各自にそれぞれの波長があるごとく、各国、各民族にもそれぞれの波長がある。それを思うと“神の創造的思念”の広大さは人間的想像力を超越する。

霊界の先輩たちはそれを“大数学者であり同時に大芸術家である”と表現しているが、たしかにそう表現するほかに用語がないであろう。

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自由意志の問題

自由意志は地上にもあり霊の世界にもある“意志をもつ”ということは“そう望む”ということであり、それを行為に移すか移さないかは別の問題である。

ただ、界層が高くなるほど善性が強くなるため、その行為が他に害を及ぼすことにはならないが、地上では、私が改めて指摘するまでもなく、いろいろと他人に迷惑を及ぼすことがある。それは要するにさまざまな進化の段階である人間が地上という同一次元で生活しているからであり、行為までは及ばなくても思念だけで他人を傷つけることもありうる。

思念とは一種の電気的衝撃であり、霊的身体のもつテープレコーダー的性質によって記録されていく。ただし、永久的に保存されていくのは自分から発した、言うなれば自家発電的な思念だけで、それが蓄積されていわゆる“霊格”が定まっていく。言いかえれ“【口から入るもの】がその人を汚すことはない。【口から出るもの】がその人を汚すのである”（マタイ伝15・11）

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時間の問題

上層界の思念の速さ、生活のテンポの速さは地上的な時間の感覚では理解できないことがある。が、まったく時間を超越しているわけではなく、あくまで相対的な違いであり、地上の時間的経過と並べてみるとその差がわかる。

1957年の夏に私は一晩のうちに霊界で実に1週間の休暇を楽しんだことがある。その時は離脱後に気がついてみると妻とともに、まるでお伽話の世界のような水と緑の土地にいた。

青々とした芝生の岸辺にいて、目の前を静かなせせらぎが流れ、あたりの樹木の影が水面に映っている。全体が光輝にあふれているこの界では影はできにくいのであるが、さらに上層界の一段と強い光輝によって美しい陰影ができ、それが全体の美しさを増している。

詩人なり作家なりがこの田園的風景の美しさを叙述すれば何章もの書物となることであろうが、それでもなお十分には言い尽くせないものがあるであろう。なぜなら、その界の霊妙な波長を受ける霊的身体ならではの感覚は、地上のいかなる詩人、いかなる名文家にも分からないからである。

さて、その場を離れる直前に私は“1週間”という感じを受けた。別に霊界には昼と夜の区別はないので日数を数えたわけではないが、何となくそれくらいの時間が経過したような印象をうけたのである。

やがて妻と私は空中を移動したが、少し上昇したところでよく見ると、そこはスエズ運河のシナイ側のシャルファという地域の上空だった。そうとわかったのは、第1次大戦中にそこで海水浴を楽しんだことがあったからである。私は妻に戦場でなく楽しい思い出の場を見せることができてうれしかった。

それからさらに上昇し、一面の砂漠を下に見ながら私は妻に“アレキサンドリアの近くにもすてきな浜辺がいくつかあるんだ”と言い、すぐにその1つに行ってみた。そして砂浜に立って海を見つめているうちに“霊界での休暇”が終わった。そして間もなく私は肉体に戻された。

ずっと上層界へ行けば時間的感覚は無くなるが、右に紹介した地上圏に近い幽界においては、行動の過程に伴って地上に似た一種の“時間の経過”があるようである。

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霊の望遠鏡的視力

霊的身体を使ようになってすぐに気づくことは、その望遠鏡的視力の威力である。これは肉眼の焦点と同じで、もっとよく見たいと思うと同時に自動的に働く。

たとえば、200メートル先にいる人物に焦点を合わせると、その容貌から眼の色までが鮮明に見え、しかも全体像もまわりの景色も拡大されていないのである。望遠鏡の場合だと全体が景色といっしょに拡大されて見える。あたかも自分のオーラの一部分が触手のように働いて必要な部分だけを見ているみたいである。

さて、以上のことを書いたその晩に私はベッドの中で離脱して、背後霊によってその視力をさらに詳しく体験するチャンスを与えられた。連れて行かれたのは広い渓谷を見下ろす山腹で、波長はとても心地よく高揚性に富んでいたので、かなり高い界層であることを暗示していた。

真夏の真昼どきのような感じで、やがて視界に慣れてくると、数マイル先の緑の山頂に2人の人物が腰を下ろしているのが見えた。その2人に関心を向けると同時に私の望遠鏡的視力が増してきて、2人が並んで腰かけている姿が浮き上がって見えてきた。

よく見るとそれはインド人の男女で、華麗な服装に身を包んでいる。男性は王子だと直感した。ターバンを巻き、七分丈の白のコートを羽織り、宝石を散りばめてある。その横に典型的なインド美人が白のコートを羽織って腰かけている。

顔のまわりには透き通るようなシルクの“飾りひだ”が見える。間違いなく王女で、額の中央に今日のインド女性にも見られる例の黒い印が見える。

その渓谷を通って1本の道があり、それが2人のいる山腹へとつながっている。今その道を通って1人の来客があり、2人の前に敬々しくお辞儀をし、しばらく言葉を交わした。

その光景の麗しさとうららかさは私に強烈な印象を与えた。ほんの短い離脱体験だったが、肉体に戻ってから私はそれを光栄に思い、同時に教訓として受けとめたのだった。

このように遠隔の地にあるものを位置を移動させることなく細かく見せ、かつ、今回のように霊格の高さまで認識させる能力はテレパシーに似ており、きわめて容易でしかも霊界においては自然に思えるのである。

霊的身体はまるで静電気のコンデンサーで、霊力が充電されているようである。その霊力は精神の働き1つで自由に操ることができ、そうした望遠鏡的視力の場合には流動性の触手が自然に出て、意志の働いている方向ならどこへでも自動的に伸びていくようである。

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もう1つの自分との対面

初期のころ私はよく霊界での講演会へ連れて行かれた。しかし他の体験と違ってなぜか講義の内容は肉体に戻った時に回想できなかった。指導霊の説明によると、思想の内容が高度で、したがって波長の次元が高いので、物的精神では理解も、あるいは受け止めることもできないということだった。

私にはそれがよく分かる。というのは、たとえば予言がなぜ可能か、どういう過程で行われるかについて、地上の言語で適確に説明できた霊は1人もいないのである。

講演会で聞いたことは霊的精神によって記憶されている。そのことは、次の講演会に出席した時に、会場へ入ったとたんに前回までの講義内容が1度に思い出されてくることで分かる。

そのことで興味ぶかいのは、思い出す順序はきちんと最初から思い出されるのに、全体を思い出すのが一瞬の間（ま）だということである。これが霊的精神のスピードで、これでは物的精神には薄ぼんやりとしか思い出せないのも無理はないことになる。

初めての講演会のときに面白いことがあった。会場は小じんまりとしたホールで、青色のプラシ天（ビロードの一種）の椅子が円形に並べてあった。私は新入生なので遠慮していちばん外側の席を選んだ。ところが椅子に腰を下ろすや否や身体がふわっと浮いて、いちばん前の席に座らされた。

その後に出席した講演会は地上の教室に似た椅子の配置をしていた。あるとき隣の席に新しい生徒が座っているので何気なく目をやっていると、驚いたことにそれは私自身だった。私はしばしその素敵な姿に見とれていたが、ふと我に帰った時にその2つの身体が合体した。

2、3週間後にも同じ体験をした。が、そのときは背後霊団もあらかじめ準備していたらしく、2つの身体が分離した状態を保たせて、私に“もう1つの自分”をじっくり観察させてくれた。とても若々しく、20代の青年のようで、髪もふさふさとしていた。肉体の頭（おつむ）はずいぶん薄いのだが…

これは実に奇妙な現象であるが、同時に実に大切な意味をもっている。私と同じように離脱体験のある人の中にも“別の自分”に会った体験を述べている人がいるが、要するに霊的身体も1個ではなく複雑にできていることを意味している。

さて、そこの会館にはいくつかの講演会場があり、あるときその1つを通りかかった時に、開いていたドアから講師の顔が見えた。その講師は1914年に私が所属していた陸軍の将校だった。その容貌からすでにかなり向上しておられることが窺われ、私はうれしかった。講師も私の思念を受け止められたらしく、私の方を向いてにっこりとされた。

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霊界での乗馬

私が霊界旅行中にいちばん長時間つき合った動物は馬である。そのときの体験は私にとって最も貴重な体験の1つに数えられるのではないかと思っている。

ある日、肉体を離脱したあとの霊界での意識の回復がひじょうにゆっくりだったことがあった。そして完全に意識が戻ってみると1頭の馬にしっかりと跨がっていた。霊的身体に感じられるその境涯のバイブレーションはひじょうに気持がよく素敵だった。

あたりを大ぜいの人が歩いており、その人たちがみな色彩ゆたかな衣装をつけ、のどかさと優雅さにあふれていた。その衣装は地上の衣服とはおよそ概念が異なるものであるが、その界層において見ると少しも違和感がなく、自然そのものに見える。

私の直感では、ある儀式がいま終わったばかりで、解散して別れていく前にお互いに挨拶し合っているところのようだった。全員が無垢の友愛のバイブレーションにおいて完全に融合し合い、一体となり切っている。

それでいて1人1人が個性ある存在であり、お互いが無くてはならない存在なのである。これが本当の意味での“仲間”なのである。個が幾つか集まって仲間を構成するが、その個と個との間に“仕切り”がない。霊的同胞精神があるからである。

この境涯のバイブレーションは格別に私を引きつける作用があり、反応が顕著である。まわりには幾百とも知れぬ霊がいて、馴染みのある顔は1つとして無いのに、どの人も“赤の他人”という感じがしない。その感じは説明できる性質のものではない。

間もなく私は何らかの動作に移らねばならないと考えた – というよりは、そう感じ取った。そして馬を見下ろすと、馬は今か今かと待ちかねている様子だった。その間、ぴくりともしなかったことに私は非常に感心した。

すると私のその気持がすぐに伝わって“うれしさ”と“友愛と”“奉公”の心情の温みが返ってくるのを感じた。これは両者のオーラが融合したときの思念の相互作用だと理解した。

私はその人波の中に自然にできた抜け道を見つけて、そこから出ようと思った。するとその思いを馬がすぐに察して、私が命じないうちにその方角へ進みはじめた。

そして、そこから通路へ出て田園地帯までの長い道のりを行く間じゅう、馬は私の思念を“先取り”して、手網を引くことは1度もなかった。私の直感ではその馬はすでに霊界へ来てかなりの年月が経っていて、その界層の人たちの愛と思いやりに深く馴染んでいるようだった。

私はかなりの遠乗りを楽しんでから、いい気分のうちに引き返してきた。そしてそろそろ元の位置に近づいたころになって睡気を催しはじめた。これは高いバイブレーションの世界にいると必ず起きる現象で、間もなくふわっと浮き上がる気分がして、気がつくと肉体へ戻っていた。その時は1つの界層への1回だけの旅行で、真夜中のことだった。

私はそれまで霊界旅行によって睡眠に影響を受けたことはなかったのであるが、その日だけは、どこかで休日を楽しんで帰ってきたような、爽快な気分になっていた。

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肉体と幽体との相関関係

初期のころの離脱はきまって夜中にベッドに横になって行ったが、その後、日曜日の午後などにひじかけ椅子に座った状態で離脱できるようになった。そしてさらにその後は時間と条件が揃えばいつでも出来るようになった。

そんなとき私はただ背後霊に離脱の希望を念じるだけでよいのであるが、それが必ずしもすべて叶えられるとはかぎらない。これまでどう念じても離脱できない日が何日もあった。あるときは私もしびれを切らして自力で離脱してやろうと思ったが、どうしてもできないことがあった。

そのことは誰にも口外しなかったのであるが、ある日霊媒をしている友人のところにいた時に、その友人が突ぜん真顔になって“もしかして最近自力で離脱しようとしたんじゃない？”と聞いた。

私が正直に認めると、厳しい口調で、2度とそういうことをしてはいけない、とたしなめられ“背後霊がいちばんいい時を知っているのだから”と諭（さと）された。

たしかに、私が離脱している間は背後霊の誰かが肉体を監視してくれているようである。そして私の家庭内での出来ごとを逐一（ちくいち）確認してくれている。肉体に戻れなくなったことがないのはそのお陰である。万一家庭の用事で私が必要になった時は“おだやかに”連れ戻され、やがて私を呼びに来る足音が聞こえてくる、といった具合である。

背後霊による保護はほかにもある。霊的身体が傷つけられることは有り得ないが、肉体が受けた不快や苦痛は玉の緒（コード）を通じて霊的身体の同じ箇所に感じられる。肉体がセキをしたり、いびきをかいたり、しびれを切らしたり、窮屈な思いをしたために旅行先から連れ戻されたことが何度かある。

大きな音がしても戻されることがある。みな自力で動けない肉体の防御本能がしからしめるところであるが、時として次のような奇妙な体験もある。あるとき霊界のある通りを歩いていると大きな“いびき”をかきはじめた。

変だなと思いながらも止めることができなくて困ってしまった。その“困った”という感情が霊的法則にしたがって私を肉体へ引き戻してしまった。戻ってみると仰向けになって寝ており、カゼの影響で大きないびきをかいていた。

またある晩ベッドで離脱して妻が働いている療養所へ行った。そして廊下を横切って妻の部屋へ行こうとしたところで咽（む）せるようにセキ込み、それが原因で一気に肉体に戻された。戻ってみたら肉体はまだセキ込んでいた。

もう1つ例をあげると、霊界の工場を見学したあと外を歩いていると突然、両足が交叉して動かなくなった。私はかがみ込んで無理やり引き離した。そして歩きだすとまた交叉し、またかがみ込んで引き離した。

これを数回くり返し、それに戸惑ったことが自動的に肉体へ引き戻される原因になった。戻ってみると両足を交叉させた状態で腰かけたまま離脱したためにしびれが切れたのだった。

時には、地上に残した肉体に異常が生じていることが分かることもある。たとえば、あるとき霊界で軍服を着た男と話をしていた。話の内容から私はその男が今だに自分が死んだことに気づいていないことを知った。

こんな時いきなり“あなたはもう死んでるんですよ”と言って聞かせることは必ずしも感心しないので、私はその男に地上の最後にいた土地を思い出させようとしていた。

その時である。突然私の幽体の右腕に痛みを覚えはじめたので、これは肉体がベッドの上で右を下にして寝ていて右腕が圧迫されているなと察した。私はそれを無視しようとして話を続けたが、その相手の男が突然“おや、おからだの輪郭がぼやけて見えますよ”と言った。明らかに私の幽体が彼の目にぼやけて見えはじめたのである。

腕の痛みがますますひどくなってきた時、私のわきにまた例の少女が現れた。私はその子の肩に手を置き、肉体に意志を集中したところ、ベッドに戻った。さっそく起きて右腕をさすったらしびれがとれたので、もう1度離脱しようとしてみた。が、さすったりした動きで肉体の呼吸と血行が盛んになったために、もはや無理だった。

少女は私が2度目の離脱のときに例の他界直後の人を介抱するホールを案内してくれた子である。

あのとき私は形体がゆらゆらと揺れている婦人を見て気味わるく思ったが、今回の軍服姿の男の目に映った私の姿もそれと同じだったのだろうと思うと興味ぶかい。幽体が傷つくことはないことはすでに述べた。それを自分で実験してみたことはないが、背後霊によって無理やり体験させられたことがある。

あるとき明るい境涯へ案内され、地上の年令でいうと23歳から25歳ていどに見える若者の一団と話をしていた。霊界では進化した霊は大ていそのていどの年令に見える。容貌はとても上品で、オーラからの放射物が私の幽体に心地よさを感じさせるので、そういう人たちといっしょにいるのは私にとって大きな楽しみの1つである。

そのうちの1人が突然私の手のひらにナイフを突き刺した。一瞬びっくりしたが、少しも痛みを感じないので、こんどは笑い出した。みんなも笑っていた。そのうちの1人が“よくごらんなさい”と言うので見ると、手のひらに穴が開いている。が、私の方で何の意志も働かせないのに自然に穴はふさがっていった。

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解説　幽体離脱現象の諸相

カール・E・ミュラー博士

幽体離脱（体外遊離）現象とは何か

人間とは物的身体に包まれた“霊”であるとよく定義される。“霊”という用語さえ正しく理解すればこの定義はまさしくその通りであると言えよう。かつての“霊”の概念においては物質とはまったく縁のない最高の形而上的原理という観念的な促らえ方をしており、したがってこれが物質に影響を及ぼすことは有り得なかった。

そのことが哲学的にさまざまな行き詰まりを生ぜしめたばかりでなく、心霊現象の存在の理解を困難にし、ましてや“霊魂説”を到底受け入れ難いものにしていた。

実際は人間は元来が“霊”であって、それが身体を具えているのである。正確に言うと、その身体と霊との橋渡しをする中間的物質をも含む複合的存在である。

多分むかしから用いられている“魂”というのはその中間的物質のことを指していたのであろう。それが、正確な知識がなかったためにいつしか“霊”と同じものと見なされるようになったのであろう。

成長するにつれて人間の身体はまわりの物的環境と接触するための機能を発達させていく。魂というのは意識の場において”自分”とつながっている感覚、感情、思念という形を通じてその存在が知られる。

そのつなぎ役をする媒体の中でもっとも重要なのが“幽体（アストラル・ボディ）”で、霊視すると肉体とそっくりなので“複体（ダブル）”と呼ばれることもある。

日常生活を営んでいる間は幽体は肉体の中に収まっており、ほぼ同じ形体をしていて、完全に一体となっている。したがってその存在を示す兆候としては、それが肉体から分離したときにしか現れない。

それもさまざまな形をとるが、たとえば睡眠がそれであり、昏睡状態がそれであり、生者の幻影（そのほとんどは無意識）がそれであり、そして本稿の主題である幽体離脱がそれである。これはESP離脱と呼ばれたり霊界旅行と呼ばれたりすることもあり、完璧な状態では立派に意識的体験となる。

その完全に離脱した状態は他界した“霊”とまったく同じ状態である。事実、死んだと思われた人間が生き返って、その間の体験を思い出して語ってくれた人の話（近似死体験）と、睡眠中に離脱して体験する人の話とが内容的に実によく似ている。

その意味で幽体離脱現象は死後存続の証拠となる一連の事実を関連づける重大なカギであることは明白である。そのことはすでに幾人かの著名な研究者、とくにデュ・プレル、マティーセン、最近では H・ハート教授などが同じような認識をもっている。

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筆者の個人的体験

私自身に離脱の超能力はない。ただ、少年のころ明らかに離脱の初期と思われる段階の体験を何度かしている。

ある夜いつものように寝たところ、これといった理由もなしにベッドから上方へ2フィートほど、そして真横へ同じく2フィートほど離れた位置に浮いているのに気がついた。気分はとても爽快で、あたかも水中にいるみたいに手を前後に動かすと前へ行ったり後ろにさがったりすることができた。

両腕を身体にぴったりつけると感触があり、またその恰好で上昇したり下降したりすることもできたが、もとよりそう遠くへ行くつもりもなかったので、この距離は2、3フィート程度だった。こうした体験が数回あったが、いつの間にか起きなくなった。しばらく起きていないことに気がついて意識的にやってみようとしたが、だめだった。

今からほぼ1年前にそれに似た、ちょっとした体験をした。左向きになって寝ていたところ少しずつ意識が戻ってきた。すると私のうしろ側で誰かが眠っている息づかいが聞こえてきた“まさか”と思ったが、誰もいるはずはない（気のせいだ）と思っているうちに寝入ってしまった。

が、間もなくまた意識が戻ってきて、また誰かの息づかいが聞こえてくる。その息づかいがあまりにはっきりしているので振り返ってみたが、やはり誰もいなかった。

けっきょくこれは私の上半身だけ幽体が離脱して、肉体の息づかいを“幽体の耳”で聞いていたという説明がつく。ささいな体験ではあるが、多くの人の体験と一致するという点で私には意義ある体験である。完全離脱が事実であれば当然のことながら初期的な部分離脱も、中間的離脱もありうることを予期しなければならない。

離脱中は意識的な行動をしていても肉体に戻ってからそれが思い出せないということは明らかにあり得るようである。

意識的離脱体験の能力をもつ数人から聞かされていることであるが、睡眠中に離脱しているこの私と会って地上と変わらない意識的状態で会話を交わしたというのであるが、私自身は目が覚めてからそれがまったく回想できないのである。かくかくしかじかの珍しいパジャマを着ていたとまで指摘されたのであるが、確かにその夜はそのパジャマを着ていた。

何年も前の話であるが W – という生まれついての超能力者がいて、その人は浮遊霊を霊視したり、シンボルによる夢を見たり、幽体離脱をしたり、外国語による自動書記をしたり、自分の病気を奇跡的に治したりする人だった。

その人がある夜ふと気がつくと自分のベッドのわきに立っていて、自分の寝ている姿を見つめていた。これが幽体離脱の初体験で、W氏はてっきり自分で死んでしまったと思い込んだ。すると、そのショックで次の瞬間には肉体に戻っていたという。強烈な感情を抱くと大ていそういうことになるようである。

これは自然発生的現象の中でも初心者がよく体験する典型的なケースである。

同じタイプの例をもう1つ挙げると、私のよく知っている婦人があるときこれは一体どういうことでしょうか”と言って語ってくれた話であるが、ある日の真昼に寝椅子で横になっているうちに、ふと気がつくとその部屋の天井とシャンデリアのあたりを自分が浮遊しており、下を見ると寝椅子に自分の身体が横になっていたという。その婦人はもともと超能力があり、これは明らかに幽体離脱の初体験である。

さきのW氏は離脱中にしばしば遠い外国や見知らぬ都市を訪れている。心霊関係の本も雑誌も読んだことがない人なので、自分の体験をぜんぶ自己流の用語で説明しており、この“外国旅行”の体験も“鮮明な夢（シャープドリーム）”と呼び、ふつうの夢と区別していた。

そう呼んだわけは光景の輪郭の明確さと細部にいたるまでの鮮明さと印象の生き生きとした現実性にある。大ていの報告がその点を指摘している。

W氏は旅行のたびに何か具体的な証拠になるものを持ち帰ることを試みたそうであるが、1度も成功していない。あるとき外国のある通りで1人の通行人のあとを付け、その町の名前を聞こうと思ってその人の肩を叩いた。

するとその男性は振り返ったが、キツネにつままれたような顔をしていた。つまり肩を叩かれたのは明らかに感じ取ったのに何も見えなかったわけである。

またある時は肩を叩かずに1人の婦人に町の名前を尋ねてみた。すると婦人は声のする方へ顔を向けてから、キャーッという声を出した。声がしたのに何も見えなかったからか、それとも多分、薄ぼんやりとした“幽霊”のようなものでも見えたのであろう。

離脱者の体験の中には説明困難なものもある。私の知人のE氏はいろいろな心霊体験の持ち主であるが、あるとき寝椅子で新聞を読んでいるうちに睡気を催したので新聞をわきに置いた。

その直後に離脱が起き、水平のまま上昇した。見下ろしていると寝椅子の上の自分の身体がむっくと起き上がって座り、それからまた横になった。意識的な離脱状態はその後もずっと続き、台所へ行き、それから肉体に戻った。

同じくE氏の体験で、あるとき通りを歩いていると何となく後ろから誰かが追いかけてくるような気がして振り返ると、青いコートを着た自分の幽体が追いついてすぐ横を歩いている。じっと見つめているうちに消滅したという。

人によっては初めての離脱の時に、まず最初に螺旋（らせん）運動を感じたという人がいる。有名な超能力者のアンドリュー・J・デービスも同じことを言っている。私のよく知っている霊感の鋭いZ夫人も最初そうだった。

あるとき椅子に腰かけて寛いでいるとトランス（入神）状態になった。その状態でZ夫人はまるで大きな煙突から飛び出ていくような勢いで螺旋状に上昇していくのを感じたという。気がつくとどこかの外国の上空を飛行機のように飛んでいる。

そのうちビルマとおぼしき国の上空にさしかかった。大きな円い帽子をかぶった農夫が畑で働いている姿が見える。やがてこんどは中国風の寺院が見えてきた。夫人はその屋根にあいている風窓から中へ入り、下で礼拝をしている人たちの姿を見ていた。そのあたりで意識が失くなった。

これなどは地上の幽体旅行の1つの典型である。私はある霊媒を通じて、霊界の知人に螺旋運動による離脱のわけを聞いてみたところ、初心者はまだ各種のバイブレーションのバランスが取れていないことからそう感じるのだという返事だった。これはこのあとで紹介されるマルドゥーン氏の説とそう違っていない。

しかし霊界にも渦巻き状の運動がないわけではない。地上の嵐に似たものが発生することがあり、したがってそれは本人のせいではない。私の知人のU夫人は離脱中につむじ風に巻き込まれた体験をお持ちである。ひじょうに不快な感じがするという。ただそういう時には背後霊が守ってくれているようである。

離脱の後遺症の中にはその現象はただの霊視現象にすぎないという説を生みそうなものもある。公務員のM氏はひじょうに母親思いの人で、それだけに母親を失った時の悲しみようはひと通りでなかった。そして何とかして霊界の母親に会えないものかと思い、可能性については半信半疑ながらも、とにかく一心にそう祈っていた。

しばらくは何の心霊体験もなかったが、ある日の午後ベッドに横になって母親のことを思っていると、いつの間にか肉体から離れて、気がつくと霊界のある1軒の家を目指して歩いていた。なぜかその家に母親が住んでいるような気がした。

家へ入ってみると母親はそこにはいなくて庭に出ていた。そこで自分も庭へ出て母親と話を交わしはじめると、すぐに母親が“もうお帰りなさい。それに、こういうことはこれきりですよ”と言った。肉体に戻ると胃がムカムカして吐き気を催し、それが30分も続いた。

私の推察では、これは祈りに応えて背後霊が本人の気づかないうちに1回だけということで叶えさせてくれたのであって、背後霊の援助がなかったら不可能だったであろう。

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スカルソープ氏とよく似たケース

さきのU夫人とは長いお付き合いであるが、ここ数年の間に数多くの興味ぶかい体外遊離体験をしておられる。その原因は1つには夫人が精神統一の修行を欠かさないからである。つまり夫人の場合は霊的発達に伴って発生する体験であり、その体験の内容はスカルソープ氏のケースと、このあと紹介する予定のイーラム氏のケースとよく似ているようである。

初めて離脱した時はふだん霊視している複数の背後霊によって肉体の上方へ持ち上げられた。それが少し苦痛だったために、あまり長続きしていない。が、その後の離脱体験にはわりあい苦痛は伴っていない。

夫人の場合は大体において横側に脱け出る。戻る時は大てい肉体に入り込むのが分かるが、脱け出るときの分離の過程は自分で観察したことはないという。

横たわっている自分の肉体を見たことはあるが、肉体と幽体とを結んでいる玉の緒（シルバーコード）は見たことがないという。そのことが私との間で話題となったあと、夫人が背後霊に1度シルバーコードを見せてほしいと頼んだところ、ある夜、近くのアパートの3人家族の家へ案内された。

見ると3人の幽体がベッドの上で立っており、その幽体と肉体とがシルバーコードによってつながっているのが見えた。いろいろと細かく観察した中でも、コードの色が3人とも違っているのが一ぽん印象的だったという。

スカルソープ氏との出会いがあったのちに、幽体離脱の家族の実験の可能性について語り合ったことがある。そして私からスカルソープ氏に、離脱中に同じく離脱中のU夫人に会ってみてほしいとお願いしてみた。

もっとも、スカルソープ氏とともにある霊媒を通じて霊界の複数の知人にその件についてあらかじめ相談したところ、そのためにはいろいろと条件を整える必要があり、何と言っても波長の調整がカギなので、人間が考えるほど簡単にはいかないという返事だった。確かにわれわれが得た唯一の結果は次のようなものに過ぎなかった。

1957年10月14日付のスカルソープ氏からの手紙にこうある – “次に述べる体験はもしかして例の実験を背後霊団が準備してくれたものではなかろうか、つまりその中に登場する女性はU夫人ではなかろうかと思ってメモしておいたものです。

残念ながらこの時の私の意識は100パーセント目覚めていなかったので、夫人の目鼻立ちまで覚えておりません。9月15日日曜日の午後3時15分のことですが、私は肉体を離脱して、ある部屋で1人の女性を見つめておりました。

その女性は部屋を行ったり来たりしながら、ある芝居のセリフを練習しているところで、“もう1人の女性がテーブルに向かって座り”、台本に目をやって時おりうなずいておりました”

これは間違いなく実験だった。U夫人は同じ日付の同じ時刻にスイスのチューリッヒでブッダ（釈迦）についての本を前にしてテーブルに座り、もう1人の女性と込み入った話をしていたという。

その相手の女性は議論するときはいつも行ったり来たりするクセがあるとのことで、芝居のリハーサルではなかったが、場面そのものはスカルソープ氏が叙述したとおりであった。

U夫人は離脱中に邪霊の類いに襲われることは1度もないという。が、旅行から戻ってみると肉体に誰かが入り込んでいたことが1度ならずあったという。夫人が一方の側から入ると、その霊は仕方なく別の側から出て行った。別に後遺症はないという。

私はここで、幽体離脱現象にはふつうの睡眠中と同じく危険は伴わないことを断言しておきたい。あるときU夫人は離脱中にシルバーコードが引っぱられるのを感じたことがあるという。

またある時は（何も見えないのに）霊の存在を感じ、夫人は意識が朦朧（もうろう）としはじめるとエネルギーを注入してくれるのが分かったという。霊界では多くの霊と会い、会話も交わしている。

その中には今は他界している曽ての知人や親戚の人など、よく知っている人もいれば、まったく知らない人もいる。離脱状態では壁やドアは抵抗なしに突き抜けられるという。但し、初めのころは少しばかり抵抗を感じたそうである。

もう1つ興味ぶかい体験を語ってくれている。あるとき、にぎやかな通りを歩いているうちに突如として意識が途切れた。そして次に意識が戻った時は同じ通りを25メートルも歩いていた。

それから2年後のことたまたま同じ通りを歩いていると、2年前と同じ地点まで来て妙な感じに襲われた。夫人は何とかそれに抵抗して事なきを得た。夫人の意見によると、そのときもし負けていたら2年前と同じことが起きていたと思う、という。

この例を挙げたのは、この種の体験はけっして珍しくないように思えるからである。個人的なお付き合いのあるP夫人が数年前に2度も体験したことであるが、通りを歩いているうちに自分が身体から脱け出ていくような感じがして、ふと見ると、その自分がすぐ横をいっしょに歩いていた。

距離にして20メートルほど歩いたという。頭がおかしくなったのではないかと思うと怖くなり、2度と起きないように念じたという。当然まだ心霊知識はまるで無かったのである。

私はこれまでに断片的なものから完全に意識を留めたものまで、実にさまざまな形の離脱体験をした人たちと会ってきたが、どの人もみな正常で健全な精神の持ち主であり、霊視現象との違いを見分けられる人もいる。

そうした体験を総合的に観察すると、そこに、程度の差こそあれ肉体から分離できる別個の幽質の身体の存在を仮定するほかに説明のしようのないものばかりである。体外遊離体験が精神異常の兆候となったことは一例もない。が、自然発生的によくそういう体験をするという方は、きちんとした知識をもっておくべきであり、その分野にくわしい信頼のおける人の助言を受けるべきであろう。

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歴史上の記録

幽体離脱が事実であり人類に共通した可能性をもつものであるならば、その事実は歴史上にも見られるはずである。たしかに通常は目に見えない霊的身体の観念は東洋にもエジプトにもギリシャにも見うけられる。

新プラトン派ではこれを Astroeide と呼んだ。もとの意味は“星のような光輝を放つもの”という意味で、英語の Astral と語原が同じらしい。似たような概念は未開人と文明人の区別なく世界中に見られる。自然発生的な例も古い文献に数多く出ている。

幽体離脱の問題に何らかの光を当ててくれるものとしてはアントン・メスメル（1734～1815）が病気治療に利用したメスメリズム（かつては動物磁気（アニマルマグネティズム）ないし生体磁気（バイオマグネティズム）と呼ばれた）に関連した実験が最初であろう。

患者の身体に触れるか触れないかの距離で施術者が手を前後させることによって知覚が異常に明晰な状態に誘導される。これを夢遊病や催眠状態と混同してはならない。

その状態において患者によっては自分ならびに他人の身体を透視し、内臓器官を観察してその機能や健康状態を適確に述べることができたり、遠距離の土地へ行ってそこで観察したものを叙述したりすることができる。

その結果はドイツ人ヨハン・H・ユングによる「霊知識の理論」 Theorie der Geisterkunde by Johann H. Jung（1809）に反映している。米国の東部からロンドンへの実証性に富む実験的幽体離脱に関する詳しい報告が載っている。

その証例は信頼のおける筋からのもので、ユングは間違いのない歴史的事実と断定している。その論じるところを読むと、この種の問題におけるユングの洞察力の鋭さに感銘させられる。

時代的にさらに新しい幽体に関する研究としてはカール・デュ・プレルによる「魂の一元論的私論」Die monistische Seelenlehre by Carl Du Prel（1888）があげられる。

このタイトル自体にやや問題があるが、新旧の諸説を考察し、四肢が切断されたあとも完全な知覚が残っている問題、各種の幽霊現象、夢遊病、主観的心霊現象、霊視と幽界旅行の違い等々について論じている。

デュ・プレルの観察では幽体は肉体のその時の状態、たとえば着ている衣服や負傷箇所などがそのまま現れる場合と現れない場合とがあり、スイスの医学者パラケルススの次の説、すなわち肉体の欠陥および知能上の欠陥も物体身体だけに起因した症状であって、死後の幽体にはそれは見られない、という説を引用している。

また有名になったサゲーとい女性教師にまつわる幽体離脱の例を論じている。サゲー先生は授業中にひとりでに（たとえ抵抗しても）幽体が離脱し、それがそのたびごとに可視性が異なり、生徒や仲間の教師や事務員がそれを証言している。このケースなどは人間に幽体という別個の身体が具わっていることが紛れもない事実であることを証明している。

デュ・プレルはさらに幽体によってローソクの火が消されたり、スレートに文字が書かれたりした事実を挙げている。いわゆるりパーカッション現象、つまり催眠状態において遊離した幽体に針を突き刺すと肉体の同じ箇所に痛みを感じ、時には血が出ることもあるという現象も観察している。

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バイロケーション

同一人物が2つの場所において同時に姿を見せる現象をバイロケーションといい、3つの場所で同時に観察される場合をトライロケーションという。いずれも古くからある用語で、最初は聖職者の間で言われはじめた言葉である。

いわゆる“聖人”と呼ばれた人にそういう現象が見られたからである。離脱した幽体は肉眼には映じず霊視能力のある者にしか見えないのが普通であるが、バイロケーションの例でその場に居合わせた人全員によって観察され、しかもその幽体で物体を動かし、普通の人間と同じ行動をしたというケースがある。

イタリヤの研究家・ボザーノは貴重な著書「バイロケーションの現象」Phenomena of Bilocation by Ernesto Bozzano の中で、バイロケーションという用語をすべての幽体離脱現象に適用しているが、これは間違いである。

よく引用されるものにスペインの修道女マリヤ・デ・アグレダの例がある。この尼僧は突然昏睡状態に陥り、その間に海を越えてニューメキシコへ運ばれていくのを自分でも意識していて、行った先でインディアンに向かって説教をするといったことが100回以上もあったという。

メキシコの修道士ベナビデスは1630年にヨーロッパを訪れてこの現象を確証づける調査を克明に行っている。このケースでは肉体はそのあいだ死体同然の状態となっていた。

デュ・プレルが指摘するところによれば、サンスクリット語の majavi – rupa は意図的な幽体離脱を指しているという。そのワザを身につけたインドの達人は豊富な生命力と意識とを自由自在に操って本当のバイロケーション、つまり同時に2つの場所にいて活動し意識をもち続けることができるということになっている。

が、実際問題としてその段階まで到達するのは大変なことであり、多分その用語は確立された現実ではなく、それを理想としたものと解される。

近代のインドの書Paramhamsa Yogananda（あるヨガ僧の自伝）にも幽体離脱の例が載っている。瞑想中に幽体が離れて通りにいる友人のところへ行って伝言をさずけるのであるが、さずけられた友人はそれをヨガ僧本人と思い込んでおり、声もふつうに聞こえている。

が、その場合も肉体の方に何の動きも見られなかったという。いずれにしても、説その事実が正確であるとすれば、実証性をもった意図的な離脱の成功例といえる。

次の例が示すように、同時に2つの意識が活動する場合の謎を解くカギは、どうやら“歩行運動”と同じように潜在意識的な活動と見なすことにあるようである。

J・カーナー博士が報告した中の一例であるが、F判事が書記官に隣の町への用事を言いつけた。しばらくたってからその書記官が判事の部屋へノコノコと入ってきて、書棚から1冊の本を取り出した。

とっくに隣りの町へ行っているものとばかり思っていた判事は驚いて、なぜすぐに出かけないのかと叱りつけた。するとその場で書記官の姿が消え失せ、本が床の上に落ちた。判事がそれを拾い上げて、開いたままテーブルの上に置いた。

さて、隣の町での用事を終えて帰ってきた書記官に事の次第を質問すると、用事を言いつけられたあとすぐさま出かけたが、途中で友人といっしょになり、道中をある植物のことで議論しながら歩いていたという。

そして自分の説に確信のあった書記官は、もし事務所にいればリンネの本のどこそこのページにそのことが出ているから確かめられるのにと思ったという。判事が拾い上げてテーブルに置いた本はちょうどそのページが開かれていた。

ここで興味ぶかいのは、幽体が本を取り出して目的のページを開くという物理的活動ができたということである。さらに興味ぶかいのは、その間肉体の方は歩き続けていたと想像されることである。途中で休憩し座ったり横になったりしていないとの証言がほしいところだが、残念ながらそれは無い。

このケースのように、近代の例では本人は離脱する瞬間は意識がないのに、幽体の方は物体をいじくることができている。この奇怪な一面は幽体離脱現象の複雑性をよく示しており、同時に離脱のプロセスには意識も記憶も関与していないことを物語っている。

同じく自然発生的な例でも、ある人がどこそこに行きたいと思い、その場所でたしかにその人の姿を見たというケースがあるが、これは“テレパシー的幻影”にすぎない可能性も考えられる。

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切断された四肢の幽体

たとえば脚が切断された場合、人によってはその脚がずっと残っている感覚をもち続けることがある。短期間の場合もあれば一生涯つづいた例もあるが、大ていの場合は次第に消えていく。

これを医学では切断された神経による一種の幻覚としている。大体においてそうであろう。が、感受性の強い人においては超常的な体験をすることがある。

たとえば、切断された手が“おがくず”の入った箱に入れられて土中に埋められた。そのことを知らないはずの本人が、自分の手がおがくずの中に入れられたような感じがすると言い、さらに、その中に入っていたクギが刺さって痛くて眠れないと訴えた。

病院側はまさかと思って取り合わなかったが、あまりの強い訴えに、土中から掘りおこして調べてみたところ、たしかにクギが指に突き刺さっていたという。

もう1つの例では、腕を切断された人が、目隠しをされた状態で、その切断されて実際には存在しないはずの手のあたりにローソクの炎を近づけると、指に熱さを感じたという。

切断された四肢の幽体を霊視した例は数多くある。写真に写ったこともあるが、これは実験を重ねる必要がある。片脚を切断されて間もないころに松葉づえを使うのを忘れて“まぼろしの足”で何歩か歩いたという例もいくつかある。

信じられない話であるが、この場合は前に紹介したいくつかの例に見られるように、幽体が無意識のうちに働いたという説明もできるし、一種のテレキネシス（念力によって物体を動かす現象）とみることもできよう。

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主観的要素の問題

離脱体験の中には多分に主観的性格をもったものがある。その要因は数多くあるが、その1つに病気があり、中でも発疹チフスの患者によくみられる。医学者は、全体のほんの片隅にすぎないその局所的事例だけをもってすべては幻影であるときめつけ、したがって幽体なるものは存在しないものとして片づけている。

それを医学では Heautoscopy とか Autoscopy とか呼んでいる。その説によると人間は自分の容貌について精神的画像を抱いており、それが病気などが誘因となって幻影となって見えるのだという。

しかし、その説では到底すべてを片づけることはできない。幽体の客観的実在は何度も確認されているのである。したがって、仮に幻覚による離脱体験というものがあるにしても、それはむしろ例外に属するものであるに相違ない。

そのほかにクロロホルムによる麻酔や事故、激痛、悶絶などでも離脱が生じることがある。

しかし、やはり健康な心身の持ち主がくり返り体験し、それを分析・調査した上で公表してくれるのが望ましい。そうした調査をしてくれた体験者の中でもっとも著名な人を挙げれば –

○オリバー・フォックス。英国人。1914年から記事を書いて、それをまとめて1937年に「幽体離脱」と題して出版。

○イーラム（ペンネーム）。フランス人。1926年に「幽体離脱の実際」を出版。

○C・D・ラーセン。米国人女性。1927年に「私の霊界旅行記」を出版。

○S・マルドゥーン。米国人。心霊研究家の H・キャリントンと共著が数冊あるが、その第1冊目が1929年出版の「幽体の離脱」。

いずれも貴重な情報・知識が満載されており、共通点がひじょうに多い。しかし相違点もいくつか見られる。その中からいくつかを要約してみよう。

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オリバー・フォックス氏の体験

フォックス氏は夢と幽体離脱体験との相互関係を論じている。彼は体験希望者に、夢を見ている最中に“アラ探しの感覚”を駆使する訓練をするよう奨励する。

夢であれば必ずどこかに辻褄の合わないところがあるので夢であることがわかる。するとそれが“体験夢” – 意識的な夢へと移行し、そこに新たな意識のレベルができあがる。

また彼は夢からの“見せかけの覚醒”があることを指摘する。つまり自分では目覚めているつもりでも、実際はトランス状態にあり、経験したことのない感覚を伴っているという。意識的離脱体験は純粋に精神的なものであるというのが彼の持論である。

彼は離脱中に自分の幽体を見ることができる。見たところではいろんな衣服をまとっていて、裸の姿を見たことは1度もないという。が、自分の肉体も、それからシルバーコードも1度も見たことがないという。

肉体から離脱するときは頭部の小さい“通風孔”から出て行く感じがするというが、同じことを言う人が他にも多い。これは、トンネルまたは煙突のような抜け穴から出て行く感じがするという報告とも関連がありそうである。

他の体験者と同じくフォックス氏も離脱中の体験に実体感があり夢とはまったく異質のものである点を強調する1人である。氏の体験はすべて主観的なのばかりであるが、1度だけ客観的実証性をもった体験をしている。

ある夜、氏の友人の女性が幽体で訪れた。彼にはその女性の姿が明確に見えたし、女性の方もあとでそれを回想して部屋の様子や家具について驚くほど細かく叙述した。ふだん1度も訪れたことがないのに正確だった。別の機会に、代ってフォックス氏の方からその女性の家を早朝に訪れたが、女性の方はそのことを憶えていたのに、氏は回想できなかったという。

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イーラム氏の体験

イーラム氏の著書は1912年に始まった体験を基礎にしている。2、3年前に他界されたと聞いているが、本名その他、私的な細かいことは家族の要望で公表されていない。

その著書によると彼は離脱能力の開発のために精神統一、呼吸法、弛緩法などを修行している。が、そうしたものより大切なのは道徳的生活、利己的欲望の排除、愛他精神であると考えている。

離脱体験はまず自分の部屋の内部から始めるようにと彼はすすめている。家具は一種独特の燐光性の光を発しているという。彼も離脱中の体験の絶対的実体感を強調し、それは“冷厳なる事実”であるとまで表現している。

遠距離の旅行をしたいと思うと“複体を構成している要素が肉体へ帰され、それよりもっと精妙な形体に宿ってから出かける”という。

あるとき自分の肉体を抱きしめてみたら温かく筋肉の堅さは感じられなかったという。シルバーコードは際限なく伸びることができ、幽体全体の表面と無数の糸で結ばれているという。背後霊はめったに姿を見せていない。あるとき、すでに他界している友人と会うことができて、長時間にわたって会話を交わしたという。

霊界へ旅行すると、時おり低級霊に襲われている。そんなときに最も強力な武器となるのは愛の想念であるという。

離脱する時刻は数時間眠ったあとの早朝4時～5時がいちばん良いという。そのわけは、潜在意識による邪魔が少なくなるからだそうである。また彼は一晩のうちに数回離脱できたことがあるという。

つまり1回目の離脱から戻ってきてその間の体験をメモし、またエネルギーを新たに加えて離脱するということを繰り返した。奥さんといっしょに霊界旅行を楽しんだことも何度かある。

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ラーセン女史の体験

C・D・ラーセン女史はこの分野での体験をもつ女性として私が知った最初の方である。著書を見たかぎりでは幽体離脱のための特別の訓練はしておられないが、われわれとしてはその点について、さらには心霊的な予備知識をどの程度もっていたかについて、もっと詳しく知りたいところである。

女史の最初の離脱体験はいたって突発的なもので、1910年の秋のことだった。その当時すでに中年にさしかかっていて髪も白くなり、隠居生活を楽しんでいた。

そんなある日、突然重苦しい圧迫感と不安感に襲われた。失神の前の発作の感じによく似ていたという。そのうち麻痺が起きはじめ、全身の筋肉がしびれてきた。

やがて意識が失くなり、次に気がついた時は床に立っていて、ベッドに死体のように横たわっている青白い顔の自分の身体を見下ろしていた。それから化粧室へ行き、鏡の前に立つと、そこに映った自分はすっかり若返り、そして美しく、すてきな白く輝く衣装をまとっていた。

その化粧室にいても階下で夫と3人の仲間が四重奏の練習しているのがはっきりと見え、その曲も聞こえた。その階下へ下りて行こうとしたところ女性の霊に呼び止められて、肉体に戻るように言われた。意識をとどめたまま肉体とつながり、やがて喘ぎながら目を覚ましてハッとした。

彼女は述べる – “これが私の体外遊離の最初の体験でした。が、それ以来、何度となく体験しております。宇宙を遠く広く旅行し、多くの天体を訪れました。霊界も訪れました。そこで地上では絶対に叶えられないと思えるようなことを見たり聞いたりしました”

旅行中はかならず指導霊が付き添い、いつも同じ霊だったという。ローマの貴婦人のよな服装をしていて、彼女のことを（カロリンをつづめて）カロロと呼んだという。

ラーセン女史の体験をスカルソープ氏の体験と比較してみると、総体的には一致しているが、まったく同一の体験というものはない。それよりも、女史はスカルソープ氏に見られない情報を提供してくれている。

とくに地上圏および大気圏の霊界の情報が多い、「私の霊界旅行記」の大半が地上圏の霊界の叙述で占められている。すでに他界している知人や最近他界したばかりでまだ死の自覚のない友人と会っている。

遠い昔に他界した霊が地上の人間および他界したばかりの霊と交歓し合っている興味ぶかい光景が叙述されている。また地上のために働いている霊団の活躍ぶりも見ている。

そうした言わば“地上の霊の生活”ぶりを見たあと、女史は上層界へ案内されている。最初の界を女史は“新来者のための一種の収容施設”であるといい、スカルソープ氏と細かい点までよく似た情景を描写している。

女史のいう第2界にはもはや地縛霊というものは存在せず、指導霊のもとで能力開発に勤（いそ）しんでいる。第3および第4界はその1、2界と“果てしない暗黒の空間”によって仕切られており、その光輝あふれる美しさは地上の言語では表現できず、そこの住民は完成された高級霊ばかりであるという。

また女史は“子供の国”へも訪れ、そこで開かれていた大オーケストラによるコンサートを見ている。演奏された音楽は荘厳さと情感にあふれ、女史は圧倒されて耐え切れなかったという。

最後に女史は太陽系の外側に広がる“無限の空間”への旅を叙述し、宇宙に充満する無数の霊的存在に驚嘆している。その霊たちは強烈な白色光を放ち、それが各々の身体を炎の輝きによって包んでおり、その強さは霊力に応じて異なっていたという。

以上のわずかな抜粋だけで女史の著書の価値の重大性を語るには十分であろう。それは実質的にスカルソープ氏の体験を確証づける形になっている。

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マルドゥーン氏の体験

マルドゥーン氏は12歳の時に最初の離脱体験をしている。それは初めから終わりまで意識的なもので、これは珍しいことである。「幽体離脱」を書いた時はすでに何百回もの体外遊離および幽体旅行を体験しており、その大半が“体験夢”で始まっている。

彼も幽体離脱中の強烈な現実感を強調する1人で、これを1度体験したから絶対に死後の存続を信じると主張する。幽体旅行中に霊に会うことはあっても、すべて地上界の旅行にかぎられている。

彼の説はどれをとっても一考に値するものばかりであるが、ここでそれを全部考察するにはスペースが少なすぎる。たとえば、意識的生活はある種の“霊力”を消耗しており、睡眠がそれを補う上で不可欠で、睡眠とは幽体が肉体から遊離した時に生じる現象であると考えている。

病気の時に遊離体験が多いのはそのためであるという。また、いわゆる夢遊歩行の現象は睡眠中に幽体が遊離してしかも意識がないのと同じであるという。

初歩の段階の離脱は大てい睡眠中に幽体から数フィートの高さまで硬直状態のまま上昇して、そこで直立し、それから床に降り立つ。そこでシルバーコードの波うつような動き前後左右に揺れ、そのうち硬直状態がほぐれて自由な動きができるようになる。

彼はそのシルバーコードに揺れる範囲を肉体から6ないし18フィート（健康状態その他の条件によって異なる）と計算し、そのときのコードの太さは直径1.5インチであるという。その長さを超えるとコードは淡灰色の細い紐となって見え、幽体は遠距離まで自由に行動できるようになる。

よく肉体に戻る際に不快感を伴うことがあるが、その原因は、幽体が肉体に近づいた時点で再び硬直状態となり、さらに肉体へ入って筋肉と結びつく時の衝撃であると推定している。

肉体への入り方には3つの型があるという。【a】らせん運動による場合、【b】直線的の場合、【c】ゆっくりとした振動を伴う場合。この最後の【c】場合がいちばん気持がいいという。

この3種類になるのには2つの力が要因となっているという。1つはシルバーコードの引く力、もう1つは幽体への一種の重力作用である。その重力が強すぎる時に直線的な入り方をし、弱すぎる時にらせん運動となり、ちょうどよい強さの時に振動を伴ったものとなる、という。

こうした現象は離脱時にも生じる。その際にいちばん大切なのは感情のコントロールである。またマルドゥーン氏は幽体が離脱すると波長が高められると考えている。そう考えないと、同じく幽体を宿している生者の身体を突き抜けてしまう事実が説明できないというのである。

シルバーコードは幽体の後頭部から出て肉体の前頭部か側頭部か後頭部とつながっている。他の部分、たとえば太陽神経叢（みぞおち）には観察されたことがないという。太陽神経叢のまわりには“神経エネルギー”が凝縮しているのが見られ、白色光のような光を発していて、それが幽体に青光りを与えている。

マルドゥーン氏は幽体離脱には“超意識（スーパーコンシャス）”精神が働いていると想定する。また体験が意識的なものにせよ無意識なものにせよ、潜在意識によって影響されることがあるし、通常意識による暗示を受けたり、“習慣による強制”によって行動することもあるという。こうした原理に基いて離脱の方法をいくつか述べている。

あるときマルドゥーン氏は道路ではだかの電線に触れて、もう少しで感電死しそうになり、そのショックで意識的な遊離体験をしたことがある。それ以来、彼は何回も同じシーンを夢で見るようになり、しばしば自室での離脱と結びつくこともあり、1度は数ブロックも離れているその感電場所まで再現されたという。

こうした体験は、たとえば非業の死を遂げたときのシーンがくり返されるのを見るとかいった現象を解くカギを与えてくれそうである。それを幽界の霊が見ている夢であるとする説明もできないことはない。

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新しい研究

この分野もぽつぽつ大学教授によって取り上げられるようになってきた。そのさきがけとなったのは（大学教授が中心となって結成された）英国心霊研究協会で、生者と死者の“幽霊現象”の中から信頼性の高いものを収集した。が、大学関係者に共通した唯物思考のせいで、幽霊現象はすべて何らかの幻影であると見なされた。

近年ではホーネル・ハート教授が果敢にこの幽体離脱をテーマとして研究に取り組んでいる。教授はそれを“ESPプロジェクション”と呼んでいる。1959年に出版された「死後存続の謎」The Enigma of Survival by Hornell Hart の中で死後存続の問題との関連におけるESPプロジェクションの重要性を指摘している。

教授は155人の大学生を対象に調査した結果、42～27パーセントの学生が体外遊離体験をしていることが明らかとなったと述べている。そのうち70パーセントの学生が1度きりでなく複数回の体験をしている。こうした数字は離脱体験がけっして珍しい現象でないことを示している。

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スピリチュアリズムの観点から

もしも肉体を離脱した人間が死者の霊と同じ状態にあるとすれば、当然、霊界通信と同じ情報が報告されてよいことになる。現にそれが実に豊富にあるのである。他界した人間に会ったとか霊の助けを得たとかいう報告もよく聞かされる。

1848年の近代スピリチュアリズム勃興以来、テーブル現象、ラップ、ウィジャ盤、自動書記、霊言等の手段によって“死者”からの通信が得られているが、同時に“生者”からの通信も得られている。心霊写真で生者の幽体が写ったこともあり、関係者を驚かせた。

さらには、物理的心霊現象に“生者”が出現した例もある。ダベンポート兄弟によるテレキネス現象は2人の幽体によって起こされていたと言われた。1876年には霊媒エグリントンの“幽体の物質化した足”の型が石膏で取られた。また直接談話現象と物質化現象に関連して霊媒 M・C・ウラセク女史の興味ぶかい話がある。

ウラセク女史は自由自在に離脱ができる人だった。1926年のことであるが、オハイオ州のトレドーへ列車で向かっていた車中で二晩つづけて離脱に成功して、しかも最初の晩はある交霊会へ出て、少しではあったがメガホンでしゃべり（直接談話）2日目の晩は物質化現象の実験会場へ出て、背後霊の助けを借りて完全に物質化して出現し、列席者に話しかけた。

全員が知人ばかりで、ウラセク女史であることを疑う者は1人もいなかったという。

大ていの霊媒は少なくとも“時たまは”幽体離脱を体験しているものである。米国のアーサー・フォード氏は2週間ものあいだ霊界を旅行した体験を書いている。そのとき彼は入院中で、身体は昏睡状態にあった。

またオランダの物質化霊媒アイナー・ニールセン女史はスピリチュアリスト・チャーチで入神講演をしている最中での霊界旅行の話を書いている。珍しい条件下での体験である。最近では英国人霊媒バーサ・ハリス女史がやはり入院中の幽体旅行記を書いている。

私が親しくしている霊媒でやはり入神中に、つまり肉体が霊によって使用されている最中に霊界を訪ねてきた体験の持ち主がいるが、この人はさらにこんな興味ぶかい体験もしている。

ある交霊会でのことであるが、ふと意識が戻ると、入神中の自分の身体を支配霊が使用して列席者の1人1人と挨拶を交わしてまわっているのが見えた。彼には“その霊の姿”は見えたが、“自分の肉体”は見えなかったという。

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ひとつの試論

こうした例から言えることは、肉体から離脱した幽体はかならずしも全部が同じ条件下にはいないということである。自分の肉体が見える人もいるし、見えない人もいる。シルバーコードが見える人もいるし、見えない人もいる。霊界のスピリットが見える人もいるし見えない人もいる。

肉体から離れた時の幽体のバイブレーションの変化の程度が個人によってことごとく異なり、それに伴って霊的視力の程度も変化しているということであるらしい。このことは体験者の報告を検討する際にぜひとも心得ておくべきことである。

さて、作業仮説としてわれわれは少なくとも4つの身体の存在を認めねばならないであろう。すなわち物質体 physical 幽体 etheric 霊体 astral 本体 mental の4種である（巻末注参照）。

しかもそれぞれに紐（コード）がついている。肉体のコード（へその緒）は誕生時に切られる。幽体のコードは太さがほぼ1インチほどである。霊体のコードになるとクモの糸くらいの細さになる。本体のコードについては詳しいことは分かっていない。

本体は時として発光性の球体となって見えることがあるが、ある一定の条件下では肉体と同じ形体をとる。スカルソープ氏やU夫人もそれを観察しているし、他にもいくつか観察報告がある。

肉体的特徴が明瞭に再現されている場合とか、肉体と間違えるほど実質性を具え、その場に居合わせた人すべての目に映じるような場合には、幽体が主役を演じていると私は考えている。

この際、肉体は大てい深い昏睡状態にあり、肉体も同時に活動していたというケースは滅多にない。シルバーコードに操られている範囲内での行動も幽体のせいである。私はこのコード範囲の行動を“遊離”exteriorisation、それが発展して遠距離ない異次元での行動へと移った場合を“旅行”excursionと呼んで区別することを提唱したい。

意識と記憶の問題はかなり複雑そうである。意識というのは最高の霊的原理、いわゆる“神の火花”なのかも知れない。だからこそ連続性があるのであり、何らかの形で記憶に留められていない時にだけ無意識になっているのであろう。

4つの身体にそれぞれの形での記憶能力があり、相互関係もあるものと推定できる。ただ、それが必ずしも正しく機能していないだけのことであろう。その記憶は本能や前生の記憶（再生が事実であると仮定して）といっしょに潜在意識に留められているのであろう。

こうした試論は観察された事実と一致していると思うからこそ述べられるのである。各身体の記憶には部分的ないし副次的意識があって、それが中心的意識によって支配されているのかも知れない。そう仮定すればバイロケーションも説明がつく。驚異的なスピードで働く思念には、それが可能と思われるのである。

以上、幽体離脱現象について概観してみたが、自然発生的なものから実験的なものまでの多面的なケースのすべてを取りあげることはできなかった。また麻薬や特殊な香料を使用した言わば人為的ケースについても論じていない。そうしたものも含めて、幽体離脱現象の研究を発展させるためには総合的な調査が必要であり、もっと多くの自然発生的ケースを検討し、もっと多くの実験を行う必要があろう。

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結語

幽体離脱を1度体験した人はその驚異的な解放感によって死後の存続への確信を抱き、以来、その確信は揺らぐことはない。この事実によって、いわゆる霊能養成会や精神統一その他の手段によって心霊的能力を開発することが重要であることがわかるし、同時に、その原理を日常生活において応用することも大切であることが知れる。

それは主観的側面であるが、心霊実験によって客観的な側面も知ることができる。両者を兼ね具えれば、デュ・プレルが“死後存続の証明は生者を研究することによって確立できる”と主張したその意図が達成されることになる。

私はこの分野の科学的研究によって最後は人間の複雑な本性に大きな照明が当てられ、数多くの現象についての一層の理解が得られるものと確信している。

霊魂説を信じる者にとって科学的知識はすべてひとつの目標へ向けての手段のひとつにすぎない – 人類の霊的発達という目的への1歩である。

近代的交通機関の発達によって確かに地球は狭くなり、政治も国際貿易も世界的規模のものとなってきている。しかし霊的側面がおくれている。それは人類の大半が霊の客観的実在についての認識を欠いているからである。

一方には長い歴史をもつ伝統的宗教の教説（ドグマ）に執着している者がいる。人類を結びつけるどころか分裂の元凶となっているドグマである。そのドグマの矛盾撞着を解決し、世界平和の確固たる礎（いしずえ）を築くことができるのは心霊科学の広大な分野において得られる確定的事実しかないように思える。

スピリチュアリズムは交霊会等の催しを通じて数え切れないほどの人々に死後存続の証拠を提供したが、同時に、人間の本質と死後の生命についての確定的な知識が得られるのもスピリチュアリズムしかない。科学的志向の人間向けの一段と詳細な知識が着々と積み重ねられつつある。

こうした観点からみて私は、スカルソープ氏のこの体験記が広く世間に公（おおや）けにされることをうれしく思う。これまでになかった知識を提供してくれると同時に、すでに知られている事実に厖大な量の詳細な事実を加えてくれることになった。その詳細な情報こそ本書をこの上なく興味ぶかいものにしている。

私のこのささやかな解説がこの分野における研究の重要性と普遍的な性格を知っていただく上で役立てば幸いである。

（原題“Some Aspects of Astral Projection”by Dr. Karl E. Muller）

（注）人間の4種の身体について – 訳者

人間が肉体以外に3種類の身体を具えていることは日本でも古神道で和魂（にぎみたま）、幸魂（さきみたま）、奇魂（くしみたま）という用語で出てくるが、浅野和三郎氏が心霊学の立場から確認してこれを幽体、霊体、本体または神体と名付け、“四魂説”を唱えた（肉体は荒魂（あらみたま））。

その後西洋にも同じ説を述べる人が出はじめ、ルース・ウェルチ女史の「霊的意識の開発」にはイラストまで載っている。もはや人間が肉体を含めて4つの身体から構成されているというのは確定的事実と言ってよいと思われるが、問題はその“呼び方”である。

日本語では“ほぼ”浅野氏の呼び方に統一されていきつつあるが、英語ではどうも一定してないようで、それぞれの筆者がどの身体のことを言っているのかを見きわめるのに苦労することが多い。読者にはあまり用語にこだわりすぎないようにお願いしておきたい。

ついでに言わせていただけば、現段階の地上人類にとっては、人間は死後も生き続ける – したがってそのための霊的身体も具わっている、という基本的知識の普及が急務であって、その身体の詳細な分析的研究は急ぐことはないと私は考えている。

たとえば内臓についての詳しい専門的知識をもつことは必ずしも健康とつながるものではなく、むしろそんなことにこだわらないで、邪念や心配を抱かない明るく積極的な精神状態の方が健康のもとであることが、古今東西を問わず真理であるように、霊的なことも、今のべた基本的なことだけを知って、あとは数々の霊訓が教えてくれているような生き方に精励することである。

“知”に走りすぎてはいけないというのはどの分野でも言えることである。“科学的”ないし“実証的”というのはむろん大切な一面であるが、“それのみ”にこだわると、かえって総体的には進歩を阻害することを指摘しておきたい。

私の霊界紀行 – 驚異の幽体離脱体験記 – <新装版>

近藤千雄（こんどう・かずお）

昭和10年生まれ。18歳の時にスピリチュアリズムとの出会いがあり明治学院大学英文科在学中から今日に至るまで英米の原典の研究と翻訳に従事。1981年・1984年英国を訪問、著名霊媒,心霊治療家に会って親交を深める。主な訳著 M.バーバネル『これが心霊の世界だ』『霊力を呼ぶ本』, M.H.テスター『背後霊の不思議』『私は霊力の証を見た』, A.ウォーレス『心霊と進化と – 奇跡と近代スピリチュアリズム』, G.V.オーエン『霊界通信・ベールの彼方の生活』『古代霊は語る – シルバー・バーチ霊訓より』,『シルバー・バーチの霊訓』（以上潮文社刊）, S.モーゼス『霊訓』, J.レナード「スピリチュアリズムの真髄』, H.エドワーズ『ジャック・ウェーバーの霊現象』（以上国書刊行会刊）

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