エルサレムに戻ったヨセフとマリヤの目には、この街がアラビアの荒野よりもひどい不毛の地に見えた。彼らは方々を歩き回り、知らぬ人や巡礼者を片端しからつかまえては、細身で浅黒い少年を見かけなかったと尋ねた。しかし全くつかみどころが無かった。2人は万策つきて何をしたらよいかわからなかった。次男のトマスはクローパスに預けてきた。
そうこうしているうちに、まる2日が過ぎてしまった。イエスに関する手がかりは何ひとつ得ることができなかった。マリヤは、まるで強い陽差しに照りつけられた花のように萎んでいった。
ふと、ヨセフは大工や石工が寄り集まってつくっている組合のことを思い出し、その親方の処にでかけてみる気になった。その親方は、今ではかなり高い地位にあげられ、パリサイ人や祭司の間でも結構重んじられていた。恐る恐るとの親方を訪ねた結果、ガリラヤ人の噂を耳にすることができた。
愚か者はべらべら喋り、賢い者は相手の言うことに耳を傾けるものである。御多聞にもれず、ヨセフは愚者の役割を発揮した。彼はイエスのことについて不必要なことまでも、ベらべらと喋りまくった。
「やつは近頃こんなことまで言うんです。偉い者程卑しいんだ、なんてぬかすんです。ひどいことを言うじゃありませんか、国の支配者や長老たちは、庶民よりも下衆な人間だとか、祭司さまや議員の大先生でも奉公人同然だなんて言いくさるんでね」
これを聞いていた親方は顔をしかめながら言った。「お前の息子がそんな馬鹿げたことを言ってるんじゃ、確実に、熱心党の連中にとっつかまっているよ。やつらはあの丘の上にうようよいるんだよ。そんな噂きいたことないかね」ヨセフは知らないと答えた。親方は続けた。
「とても馬鹿げた話だから、本当かどうかわからないんだが、なんでも祭になると熱心党のやつらが街中をうろつき、エルサレムに上京してくる阿呆な小僧たちを掴まえていくそうだ。やつらの手口というのは、お前たちを立派な兵隊にして軍と戦うイスラエル軍の将校にしてやると言って欺すんだそうだ。
きっと同じ手口でお前の息子もエルサレムでしょっぴかれちまったんだよ。今頃は、やつらの隠れ家にしている洞穴にでもいるんじゃないか。やつらは、イスラエルの救済てな恰好いいことを口実にしてるんだよ。実際にやってることは、商人たちの行列を狙って、盗人を働いているんだ。そういえば家の手あいの者が昨日の夕方、街の外で西の方へ連れていかれる若者たちを見かけたそうだ、イエスもその中にいたんじゃないか。
なんでも水がほしいって言ってた若者が、さかんに“イエス”と呼んでいたそうだ。お前が話してくれた息子のイメージとそっくりな気がするね。権威にたてついて支配者や長老たちを罵ったんだよ、お前の息子は。金持ちの商人を襲って、とっつかまって、今頃エルサレムの城壁の外で樹に吊りさげられているんじゃないか」
親方の最後の言葉をきいた途端、マリヤは卒倒してしまった。ヨセフは身をかがめてマリヤを抱き上げ、親切な親方の家に運んだ。おかみさんが甲斐甲斐しく介抱した。泥をふきとってくれたり、気付薬などを与えてくれた。徐々にマリヤは回復したが、いっぺんに老けこんでしまった。ひとことも口をきかず、ただ言われるままに身を委せていた。
その夜は親方の家に泊めてもらうことにした。次の日になって、もう1日だけでもゆっくりするように勧めてくれたのであるが、マリヤは次の日の朝には、ナザレに帰りたいとヨセフにせがんだ。マリヤは淡々とヨセフに言った。
「ナザレに帰ったらきっとよくなると思うわ。この街はとてもやかましくて居たたまれないわ。私が愛しているイエスの性格からは、どうしてもあの子が泥棒の仲間になって、洞穴の中で住んでいるとは思えないの。きっと何か不運な罠にひっかかっているんじゃないかと思うわ。
今私の目の前に天使があらわれて、イエスが悪霊にとりつかれていると言っても私は絶対に信じないわ。ねえ、ヨセフ!!今から親方が言ってた城壁の外に行き、本当にあの子が樹に吊り下げられて死んでいるか見に行ってみましょうよ。この目で確かめなきゃ、死んでも死にきれないわ」
親方の家を出るとき、彼らはもう1度神殿に立ち寄って、イエスが悪者から救い出されるように祈ろうということになった。単純なガリラヤ人は、尊敬を集めている親方の言ったことを一言一句疑うことを知らなかった。
親方は金持ちで雄弁だったので、このガリラヤ人は彼が言ってることが最も正しいと思いこんでいた。ヨセフとマリヤが神殿に通じる石階段を登りかける頃は、もううす暗くなっていた。むしあつい風が街の中を吹いていた。ヨセフとマリヤは、よろめくように歩いていた。もう2度と帰ってこない息子のことを思いつめながら。
マリヤとヨセフは、離ればなれになって祈った。2人は神殿のどまん中にいて、そこから動こうとしなかった。ヨセフは自分を責めながらマリヤに言った。
「おれがまちがっていたんだ。軽卒なことばかり言ってイエスの心を傷つけちまったんだ。だから臍を曲げたんだよ。あんなにどやしつけなければイエスは泥棒の仲間などにならなかったのに、なんとおれは馬鹿なことをしてしまったんだろう!マリヤ!おれを許してくれ。おれは、腕のいい大工としてあいつが誇りに思えるように一生懸命やってきたつもりなんだよ」
ヨセフは頭を低く垂れ、おし黙ってしまった。マリヤは彼を慰め、彼の弱さや失望を救おうと努めた。マリヤは静かな道を選びながら群衆から遠ざかった。ヨセフはマリヤの腕に引かれ、慰めの言葉をきいていた。2人はいつのまにか聖所の中に踏みこんでいるのを知らなかった。
1人の老人が手を叩いて大声を出すまでは解らなかった。そこは祭司や長老以外の者は一切入ってはならない聖所であったからである。2人が目をあげてみると、そこには美しい色の祭服を着て、髭を生やした賢者たちの顔が多勢いて、その前に1人の細身の少年が石のブロックの上に立ち、お互いに話し合っている様子が見えた。
ヨセフとマリヤには、長老たちの質問や少年の賢い返答のやりとりの内容がさっぱり理解できなかった。2人が少しずつ近づいて顔の輪郭がわかる所まで来たとたん、マリヤは叫んだ。「あれはイエスよ!私の愛するイエスだわ!」
マリヤはすんでのところで、目の前にいた白髭の老師をつきとばしてイエスのところにかけよろうとしたが、ヨセフはマリヤをしっかり押さえつけながらささやいた。「静かにしろよ、マリヤ!この方たちは、お偉い方々だ。支配者、長老、律法学者の方々だ。さあ、地べたに頭を押しつけてお辞儀をしなくては」
1人の少年が白い祭服を着せられて、長老賢者の真只中に立ち、預言者のような風格で語り出す偉大な知恵を耳にして、彼らは大いなる喝采をおくるのであった。その様子を見ていたヨセフとマリヤは、再び穏やかになっていった。
「どっちが勝つ?」このような近視眼の判断をしないよう神の因果律を正しく理解しましょう(祈)†
神を侮るべからず。己の蒔きしものは己が刈り取るべし(ガラテア6・7)神の摂理は絶対にごまかされません。傍若無人の人生を送った人間が死に際の改心でいっぺんに立派な霊になれるとお思いですか。魂の奥深くまで染込んだ汚れが、それくらいの事で一度に洗い落とせると思われますか。無欲と滅私の奉仕的生活を送ってきた人間と、わがままで心の修養を一切おろそかにしてきた人間とを同列に並べて論じられるとお考えですか。“すみませんでした”の一言で全てが赦されるとしたら果たして神は公正であると言えるでしょうか…続きを読む→
「イエスからの贈り物」これは帰幽後のお話で物質界人生は最悪という意味なのです(祈)†
これはまるでイエス様からの、アキトくん、ここまでよくやった、おつかれさま、という終了宣言のように聞こえます。そんな事でいいんですか、あなたたちのやる気はそんなもんですか、しょせんあなたたちは霊界上層界の人間であり、最低界である物質界がどうなろうと知った事ではないという事ですか。物質界と霊界上層界はつながっていて、物質界の無知が霊界に反映されるようになってしまって「このままでは大変な事になる、何としても大胆な手段を講じて物質界に霊的知識を普及しなければ」という事になってスピリチュアリズムを勃興させたのではないのですか…続きを読む→
「霊体で会議に参加し続けてるんですよ」物的脳髄でその様子を全く反芻できません(祈)†
どの人間も例外なく物質界に降下するにあたり、指導霊と相談したうえで「こういう試練を体験すればこれだけ向上を果たせる」と考え、自分でその人生を選択して降下してくるのだそうで、つまり奴隷の女の子たちも「殺される人生をあえて選択して降下してきた人間たち」という事になるのですが、僕はそう言われて奴隷の女の子たちを見殺しにする気にはどうしてもなれません。これは僕の個人的意見ですが、物質界に降下するにあたり、基本的には「こういう人生を送る事になる」という概要は決まっているのでしょうが、中には例外もあるのではないかと思っているのです。僕の「霊性発現」はその例外に当たるのではないかと思っているからです…続きを読む→