『ベールの彼方の生活①』
その判断に到達するまでのすったもんだは省きましょう。時間が掛りますから。とにかく私の頭に一つの案が浮かび参考までに提案してみたところ皆んなそれはなかなか良い考えだと言い、これで謎が解けそうだと喜びました。と言って別に驚くほどの事ではないのです。
『ベールの彼方の生活①』
どの方向でも良いからとにかく外へ出て一番直線的な道を選んでみるというだけの話です。言い方がまずいようですね。要するに東屋からどちらの方角でも良いから一番真直ぐな道を取るという事です。そうすると必ず外郭へ出る。
『ベールの彼方の生活①』
その外郭は完全な円形をしているから、それに沿って行けば遅かれ早かれ門まで来る事になる訳です。いよいよ出発しました。道中は結構長くて楽しいものでした。そして冒険的要素が無い訳ではありませんでした。
『ベールの彼方の生活①』
と言うのも、そのコロニーはそれはそれは広いもので、丘あり谷あり森あり小川ありで、それがまた実に美しいので、よほど目的をしっかり意識していないと道が二つに岐れたところに来るとつい方向を誤りそうになるのでした。
『ベールの彼方の生活①』
しかし必ずしも最短で直線的な道を選んだ訳ではないと私は思うのですが、私はついに外郭に辿り着きました。ついでに言うとその外郭は芝生の生い茂った幅の広い地帯になっていて、全体は見えなくてもその境界の様子からして円形になっている事はすぐに判ります。
『ベールの彼方の生活①』
そこで左へ折れ、そのまま行くと間違いなく円形をしていて無限軌道のように続いておりました。どんどん歩いていくうちに、ついに最初に校長先生にお会いした門のところまで来ました。
『ベールの彼方の生活①』
先生は、よく頑張りましたと言って迎えて下さり、その足で建物の前のテラスに上がり、それまでの冒険談―私が書いたものより遥かに多くの体験―をお聞かせしました。先生は前と同じように熱心に耳を傾けて下さり「なるほど。結構立派にやり遂げられました―」
『ベールの彼方の生活①』
「―目的を達成し、ここまで帰って来られたのですから。ではお約束通りあなた方の学ばれた教訓を私から述べさせて頂きましょう」と言って次のような話をされました。「まず第一に行きたいと思う方向を確認する事。次に近道と思える道ではなく一番確実と思える道を選ぶ事―」
『ベールの彼方の生活①』
「その道が一番早いとは限りません。限りなく広がると思えたこのコロニーの境界領域までまずやって来る。その境界線から振返るとそれまで通り抜けて来た土地の広さと限界の見当がつく。要はそれまでの着実さと忍耐です。望むゴールには必ず達成されるものです。」
『ベールの彼方の生活①』
「又その限られた地域とその先に広がる地域との境界領域に立って見渡すと曲りくねった道や谷や小森が沢山あって、あまり遠くまで見通せなくても全体としては完全に釣合いが取れている―要するに完全な円形になっており内部は一見すると迷路でごた混ぜの観を呈していても―」
『ベールの彼方の生活①』
「より大きいあるいはより広い観点から見ると全体として完全な統一体で、実質は単純に出来ている事が判るはずです。小道を通っている時は迷うでしょうけど。それにその外郭を曲線に沿って行くと限られた範囲しか目に入らなかったでしょう―」
『ベールの彼方の生活①』
「それでもその形からきっと求める場所つまり門に着けると判断し、その理性的判断に基づいた確信のもとに安心して辿って来られた。そして今こうして辿り着き少なくとも概略においてあなた方の知的推理が正しかった事を証明なさった訳です―」
『ベールの彼方の生活①』
「さてこの問題は掘り下げればまだまだ深いものがありますが私はここであなた方をこの土地にいて私を援助してくれている仲間たちにお預けしようと思います。その人たちがこの建物や環境をさらにご案内し、お望みならもっと広い地域まで案内してくれるでしょう―」
『ベールの彼方の生活①』
「面白いものが沢山あるのです。その方たちと私が述べた教訓について語合われるとよろしい。少し後でもう一度お会いしますのでその時に話したい事や尋ねたい事があればおっしゃって下さい」そうおっしゃって私たちにひとまず別れを告げられると、代って建物の中から―
『ベールの彼方の生活①』
楽しそうな一団が出てきて私たちを中へ招き入れました。まだまだ続けたいけどあなたにはまだお勤めが残っているから今日はこの辺で止めにしましょう。少しの間とはいえこうして交信のために降りてくるのは楽しい事です。あなたを始め皆さんに神の祝福を。母とその霊団より。