
※霊団の「脅し」と「イジメ」のインスピレーションを無視しています。今週もインスピレーションの説明を撃つのをボイコットし、霊関連書籍のテキスト化を進めています(祈)†
【目次】第2章 潜在意識説と自己暗示説を否定するケース
物質界生活中に霊的知識を獲得せずに帰幽すると、このような地縛霊となって下層界をさまよう事になる、この知識を知っていると知らないのとでは、皆さまの帰幽後の未来が180度変わるのです。ぜひお読みになり、正しい霊的知識を獲得するキッカケを得て頂きたいと思います(祈)†
●招霊実験が物語る「真実」
“死者”を相手とする研究を倦(う)むことなく30年余りも続けてきて私は、その間に驚くべき事実を数多く目(ま)のあたりにしているので、証明しようと思えばいつでもできる明々白々たる事実を、他の思想分野の人たちはよくぞこれまで無視してこれたものだ、と思うのである。
こうした招霊実験には詐術は断じて有り得ない。霊媒である私の妻は、一語も知らないはずの外国語をいくつでもしゃべるし、妻の口から聞いたためしのない表現が出るし、その上、憑依霊の身元は再三再四確認され、数えきれないほどの確証が得られている。
1回の招霊実験で21人のスピリットと語り合ったことがある。その大半は、地上時代に私の知人ないし親戚だったことを立証するに十分な証拠を与えてくれた。その時は妻の口から全部で6か国語が聞かれたが、通常の妻はスウェーデン語と英語しかしゃべれない。
またある時は、シカゴから連れてこられたA夫人ひとりに13人のスピリットが憑依していて、それをひとりひとり妻に乗り移らせたが、そのうちの7人までは、A夫人の母親のH・W夫人によって、地上時代の親戚か友人であることが確認されている。
そのうちのひとりはH・W夫人が属していたメソジスト教会の牧師で、9年前に交通事故で他界していながら、その日までその事実に気づいていなかった。
もうひとりは義理の姉、そのほかに永年家族ぐるみでつき合っていた3人の年輩の女性、近所の少年ひとり、それに患者の義理の母親がいたが、そのいずれも、妻には一面識もなかった。
H・W夫人はそのひとりひとりと長々と語り合い、聞き出した事柄の中から数えきれないほどの事実を確認し、その事実をもとに、そのスピリットが現在はもう肉体を捨てて霊的存在となっていること、しかも夫人の娘の身体に憑依している事実を悟らせてあげた。
娘さんは今では心身ともにすっかり健全で、社交に、音楽の仕事に、そして家庭生活に、活発な毎日を送っておられる。
もうひとつのケースは、精神異常がそっくり患者から霊媒へと移転し、“潜在意識説”や“二重人格説”は、霊媒に関するかぎり、その説明にはならないことを明確に立証している。
ある夏の日の夕方、われわれ夫婦は教養と人格とを兼ねそなえた著名な婦人の家に呼ばれた。この婦人はかつては第一級の音楽家で、そうした地位にあるがゆえに要求される、さまざまな人間関係の重荷に耐えきれず、ついにノイローゼになってしまった。
それが次第に高じて手がつけられなくなり、狂乱状態が6週間も続き、医師も手の施しようがなく、看護婦が日夜つきっきりの監視をしなければならなくなってしまった。
訪れてみると、その婦人はベッドに座り、ひとりぽっちにされた子供みたいに泣いているかと思うと、次の瞬間には恐怖におののいたように「マチーラ!マチーラ!」と叫んだりしている。
そうかと思うと今度は、誰かと格闘し揉(も)み合っているような動作をしながら、英語とスペイン語でわけのわからない乱暴なことをわめき散らしている(妻はスペイン語はまったく知らない)。
妻は婦人を霊的に診察して、これは間違いなく憑依現象であると述べた。そして、それが事実であることが、思いがけない形で立証された。ベッドのわきに立っていた妻が、部屋を出ようとした瞬間に意識を失って、その場に倒れた。
居合わせた者が、その身体を長椅子に横たえた。私は、それからほぼ2時間にわたって、患者から離れた3人のスピリットとかわるがわる語り合った。
3人はメアリーという若い女性とその求婚者のアメリカ人、そして恋敵(こいがたき)のメキシコ人マチーラだった。男性のふたりとも熱烈にメアリーを愛している。したがって互いの憎しみも激烈だった。
そして嫉妬に狂ったひとりが女性を殺してしまい、さらにライバルの男性とも命がけのケンカとなって、ついにふたりとも死んでしまった。が、3人とも自分の死には気づいていない。哀れにもメアリーは泣きながらこう言うのだった。
「この分だとふたりは殺し合うことになると思ったけど、今もここで決闘を続けてるわ」
愛と憎しみと嫉妬による悲劇は、肉体の死とともに終ってはいなかったのである。3人は無意識のうちに患者の霊的磁場、すなわちオーラに引きつけられ、そのオーラの中で相変らず激しく争い続けていたのである。
そこには患者が神経的に参って抵抗力が極度に低下していたという誘因があり、次々と憑依したその結果が、医師や看護婦には解決のつかない、いわゆる発狂状態となって現れていたのだった。
3人に肉体を失っている事実を得心させるのにさんざん手こずらされたが、どうにか理解してくれて、われわれのマーシーバンドの手にゆだねられた。
その間に患者はすでに起き上がっていて、驚く看護婦を相手に“まともな対話”を交わしながら、部屋中を静かに歩きまわっていた。やがて「今夜はよく眠れそうだわ」と言い、ベッドに戻ると、いつもの睡眠薬を使わなくてもすぐに寝入り、一晩中ぐっすりと寝た。
そして翌日には看護婦に付き添われて私の家を訪れた。私は看護婦には帰っていただき、服薬を禁じ、電気治療を施したあとで、他の患者と一緒に食事をとっていただき、夜の社交的な催しにも出席していただいた。
その翌日の招霊実験でさらにもうひとりが、この婦人から除霊された。サンフランシスコの大地震で死んだ少女であるが、暗がりの中で道が分からなくなったと言って泣いてばかりいた。
この子も私がいろいろと語り聞かせてなだめてやり、そのあとマーシーバンドによって介護されることになったことは言うまでもない。それまでは婦人のオーラの中に閉じ込められていたために、マーシーバンド側も手が施せなかったのである。
婦人はその後数か月にわたって私の治療所で加療と休養を続け、すっかり元気を回復して退院し、完全に元の生活に戻られた。
次に紹介するのは招霊実験を始めた初期のころで、1906年11月15日にシカゴで起きたものである。いつもの交霊会を催している最中に急に霊媒の様子がおかしくなって床の上に寝ころび、しばらく人事不省のような状態が続いた。そのうちやっと憑依霊が表に引き出された。
とても苦しんでいる様子で「もっと薬を飲めばよかった。死にたい。もう生きてるのはイヤ!」という文句をくり返した。それから弱々しい声で、あたりがまっ暗で何も見えないと言った。部屋の電灯の明りが直接顔に当たっているのに、それが見えないのだった。
それから、か細い声で、「あの息子(こ)がかわいそう!」と言うので、事情を説明するようにきつく求めると、名前はメアリー・ローズといい、住所はサウス・グリーンストリート202、ということだったが、われわれのまったく知らない住所だった。
最初のうち年月日がさっぱり思い出せなかったが、「今日は1906年11月15日ですか」と尋ねてみると、「いえ、それは来週です」という返事が返ってきた。それからいろいろと聞き出してみると、彼女は慢性の腹部疾患に悩まされ、その人生は言わば苦い失望の連続だった。
その惨めな人生に終止符を打ちたいと思って服毒したのだった。そして実際には自殺に成功しているのであるが、私と接触のあった当初はそれが理解できなかった。
というのも、たいていの自殺者がそうであるように、彼女は生命の不滅性と死後の世界の実在についてまったく無知だったのである。
が、私との対話によって人生の目的、経験の意義、苦しみの効用が分かり始めると、自殺したことへの後悔の念に襲われ、真剣に赦(ゆる)しを求めて祈り始めた。そしてそれがわずかながらも霊的視覚を開かせ、迎えに訪れていた祖母の霊姿がおぼろげながら見えた。
あとでそのスピリットが述べた住所を調べてみたところ、間違いなかった。メアリー・ローズという女性がかつてその家に住み、今でも息子が住んでおり、母親はクッ郡立病院へ運び込まれて一週間前に死亡したという話だった。
私は念のため同病院を訪れて、さらに確定的な事実を発見し、記録のコピーを入手した。それには次のように記してあった。
—–
クック郡立病院、イリノイ州、シカゴ
メアリー・ローズ
1906年11月7日 入院
1906年11月8日 死亡
石炭酸中毒
ナンバー・341106
—–
↑目次へ↑
●スピリットの生前の身元を確認
次の例は、スピリットの生前の身元が確認されるケースがよくあることを証明している。
F夫人はもともと垢抜けのした上品な性格の女性であったが、数人の医師から不治の精神異常者と診断されるほどになった。手に負えないほど荒々しい振舞いをするようになり、絶えず罵(ののし)り、いったん暴れ出すと男が数人がかりでやっと取り押さえるほどになった。
そうかと思うと突然、昏睡状態に陥ったり、気絶したり、食べものを拒絶したり、「わたしは天使の仲介で結婚したのである」と偉そうに言ったかと思うと、とてつもない下品な言葉を口走ったりするのだった。
こうした症状が絶え間なく交互に起きるのであるが、それが憑依現象であるとの確証が得られずにいたところ、ある日、突如として言語能力を失って白痴のように口をもぐもぐするだけとなり、聾唖者とまったく同じ状態になってしまった。
ちょうどそのころに、隣の州からひとりの男性が、入院中のある患者を見舞いに訪れた。その直後に看護婦から、F夫人の様子が変って今度は幼児のようなしゃべり方をしているとの報告があった。
その変りようがあまりに激しいので、参考までにその見舞い客にも部屋に入ってもらって観察してくれるように頼んだ。もちろんF夫人とは一面識もない人であるが、その男性が部屋に入るとすぐ、夫人が彼を指さして、子供っぽい、かん高い声で、
「あたし、この人知ってる!よくあたしの肩に弓をのせたわ。そして、あたしのキャンデーを引っぱったこともある。ジプシーのキャンプへ連れてってくれたこともある。わたしの家の向かいに住んでて、あたしのことをローズバッドと呼んでたの。あたしは4歳よ」と言った。
その男性は、その子の言っていることがひとつひとつ事実であることに驚き、確かにアイオワ州の郷里にはそういう名前の子がいたが、しかし昨年死んでいると語った。
さらに彼は、自分が大変子供好きで、よくその子をジプシーのキャンプへ連れて行ったこと、そして棒つきのキャンデーを買ってやり、その子が食べている時にその棒を引っぱって、“歯と一緒に抜いちゃうぞ”と冗談半分におどかしたことがあると説明した。
この例では、愛情がその子供を男性のところへ引き寄せたこと、またその子供にとってF夫人が、その男性に自分の存在を知らせる格好の手段となったことは明らかである。
招霊という手段によって、まずその子を除霊し、続いて他の複数の憑依霊をひとりひとり除霊していって、数か月後にはF夫人は法的文書に署名する資格があると診断されるまでに回復し、裁判官および陪審員によって“正常”と宣告された。
もうひとつ例をあげると、これはレストランでコックをしていた夫人の例であるが、同じレストランで働いているウエイトレスの中に行動がおかしく、妄想と幻覚に悩まされている女性がいるので診てほしいと言って、私のところへ連れてきた。さっそく電気治療を施したところ、ウェイトレスはたった1回ですっかり楽になって、そのま家に帰った。
ところが、その夜になって夫人の方が一種名状しがたい状態になって一睡もできず、その状態が翌朝の10時ごろまで続いた。それから食事の用意でもしようと起き出て準備をしていると、突如として態度が荒々しくなり、髪をかきむしり、自分で自分を傷つける危険性が出てきた。
家族からの依頼で往診してみると、夫人は錯乱状態で荒れ狂っており、“どこへ逃げても追いまわされて休息する場所がない”と口走るのだった。私は憑依霊の仕業と診断して夫人を椅子に腰かけさせ、暴れないように両手を縛ってから、幾つか質問してみた。
すると、自分は男性で、死んでもいないし、女性の身体に取り憑いてなんかいないと言い張るのだった。名前はジャックといい、さきのウェイトレスのおじで、放浪の生活を送ったという。
こんこんと諭(さと)していくうちに、その霊もどうにか自分の置かれている事情を理解してくれて、もう2度と迷惑をかけないことを約束して去って行った。夫人はそれでいっぺんに正常に復し、いつもの仕事に戻って、以来、何ら支障を来していない。
あとでウェイトレスに確認したところでは、彼女にはジャックという名のおじがいて、放浪癖があったが、今はもう死んでいるとのことだった。このケースでは夫人が霊媒となって、ウェイトレスに憑依していたそのおじを乗り移らせたわけである。
↑目次へ↑
●“人格”として現れるスピリット
数年前の話であるが、リズトンという博士がシカゴの新聞に、フランス語も音楽も知らないある患者が、麻酔をかけられた時に、フランス国歌の“マルセイエーズ”を見事に歌った話を紹介していた。
その中で博士は死後の個性の存続を否定して、これは潜在意識ないしは無意識の記憶によるものと説明し、あるラテン語の教授の召使いが狂乱状態の中で、生前その主人が朗唱していたラテン語の古典を完璧に朗唱したケースと比較して論じていた。
私はそれに反論する形で、ある新聞に寄稿し、この種の現象は心霊現象ではよくあることで、唯物的科学者がどう分類しようと、こうしたケースは人間の個性の死後存続と、彼らが生者を通じて意志を伝えることができることの証拠であると論じ、さらに、右のふたつのケースの真相を解明すれば、フランス語で歌った患者は霊感の鋭い人で、その時誰かのスピリットに憑依されていたのであり、ラテン語を朗唱した召使いは亡くなった主人のスピリットに憑依されていたことが判明するであろう、と付け加えた。
それから程なくして、リズトン博士の記事で紹介された患者本人が私の記事を読んだと言って訪ねてきて、「私はフランス語はまったく知りません。が、死にたくなるほどスピリットに悩まされていることは間違いありません」と言った。
いわゆる“多重人格症”“分裂性人格症”“意識崩壊症”といった症例の研究において現代の心理学者は、そうした人格には何ら超常的知識の証拠は見られないし、霊的原因の証拠も見られないという理由で、外部からの影響力の働きかけの可能性を否定している。
しかし、それとは対照的に、われわれが体験しているところでは、そうした人格の大半はスピリットであって、今なお自分が他界したことに気づかないために、肉体がなくなっていることに得心がいかず、またその事実を認めたがらないということが明らかとなっている。
モートン・プリンス博士の著書 The Dissociation of a Personality by Dr. Morton Prince(日本語版『ミス・ビーチャム、または失われた自己』児玉憲典訳・中央洋書出版部)の中で紹介されている四重人格の例症でも、ビーチャムという女性患者以外の人格の作用にはまったく言及されていないが、“第3人格”とされている“サリー”自身はビーチャムではなく、まったくの別人だと言い張り、ビーチャムが歩行や言語を覚えかけたころのことに言及して、“この子がやっと歩き始めたころから、私はこの子の考えと私の考えとが別のものだったことを覚えています”と述べている。
似たケースとして、オハイオ州の B・レディックという小学生の場合は“ポリー”という乱暴な性格の女の子に急変するのだったが、このケースでも、他界したポリーという女の子が、多分死んだことを自覚しないままレディックに憑依していることを示す証拠は歴然としている。
こうした“人格”が独立した存在であることは、これまでの実験が豊富に実証しているように、その“人格”を霊媒に転移させることによって簡単に証明できることである。それを潜在意識説や自己暗示説、あるいは多重人格症といった説によって説明することは到底無理である。
なぜなら、霊媒である私の妻が数えきれないほどの人格をもっていることは断じて有り得ないことであり、同時にまた、精神病者とされている人の症状を妻に転移させることによって、その患者を簡単に正常に復させることができるからで、かくして病気の原因は死者のスピリットのせいであることが結論づけられる。そのスピリットの地上時代の身元も、多くの場合、確認することが可能なのである。
↑目次へ↑
●バートン夫人の憑依霊
患者に霊聴能力がある場合は、憑依霊の声がひっきりなしに聞こえるので、それによる苦痛も伴うことになる(いわゆる“幻聴”は精神科医もよく観察していることである)。そういう患者が交霊会に出席して憑依霊が霊媒へ移されると、興味深い現象が生じる。
その一例として、バートン夫人のケースを紹介しよう。この夫人は霊聴能力があり、ために憑依霊と絶えずロゲンカをすることになったが、われわれのサークルに出席しているうちに、その有り難からぬ仲間(5名)から解放された。その憑依霊たちの性格は、次に掲げる記録によって明瞭に把握できるであろう。
—–
スピリット = キャリー・ハッチントン
患者 = バートン夫人
霊媒 = ウィックランド夫人
質問者 = ウィックランド博士
—–
博士「お名前を教えてください」
スピリット「手を押さえつけないでくださいよ」
博士「じっとしてないといけません」
スピリット「なぜそんなに手荒なことをするのですか」
博士「名前をおっしゃってください」
スピリット「なぜそんなことが知りたいのですか」
博士「あなたは初めてここへおいでになられた。それで、お名前を知りたいのです」
スピリット「知ってどうなさろうというのです?」
博士「話をする相手が誰であるかを知りたいだけです。あなただって、もしも見ず知らずの人が訪ねてきたら、名前を知りたいとは思いませんか」
スピリット「私はこんなところにいたくありません。あなたたちの誰ひとりとして知らないのですから。誰かが私をここへ押し込めたのです。あんな手荒なことをするなんて…入ってきて椅子に腰かけたら、今度はあなたがまるで囚人のように私の両手をつかむのですから…。なぜこんなところへ押し込めるのですか(マーシーバンドによってウィックランド夫人の身体に乗り移らせられたこと)」
博士「あなたは多分、暗いところにいたのでしょう?」
スピリット「誰かにむりやりここへ連れてこられたみたい」
博士「それには何かわけがあったのでしょ?」
スピリット「わけなんか知りませんよ。あんなひどい目にあわされないといけないわけなんか、身に覚えはありません」
博士「なぜそういう扱いをするのか、そのわけは聞かされなかったのですか」
スピリット「その扱いのひどさといったら、ありませんでしたよ。もう死ぬかと思いましたよ。あっちへこっちへ、いたるところへ追いまくられどおしで…。あんまりひどいので、もう腹が立って腹が立って、八つ当たり気分ですよ」
博士「その人たちは、あなたにどんなことをしたというのですか」
スピリット「それが、実に恐ろしいのです。私が歩きまわると、ひどい目にあうのです。何だかよく分からないのですが、時には私の全神経が叩き出されるような感じなのです。まるで雷と稲光に襲われたみたいな時もあります(静電気による反応)。それはそれは凄い音です。あの凄い音 – ああ、怖い!私はもう我慢できないわ。これから先もあんな目にあうのは、真っ平ごめんだわ!」
博士「真っ平ごめんと思っていただけるのは、私たちにとっては有り難いことです」
スピリット「私は招かれざる客ってわけなの?それならそれで結構よ!」
博士「あなただけ特別というわけではないのですがね」
スピリット「これまでは辛いことばかりでした」
博士「亡くなられてどれくらいになりますか」
スピリット「それはいったい、どういう意味ですか。私は死んでなんかいません。この通りピンピンしております。むしろ若返ったみたいです」
博士「なんだか他人になったような感じがしたことはありませんか」
スピリット「時おり妙な気分になることはあります。とくに例のものが私を打ちのめす時に。いやな気分です。こんな苦しみにあういわれはないはずです。なぜだか分からないのです」
博士「多分それがあなたにとって必要だからでしょう」
スピリット「好きな時に好きな所へ行けて良いはずなのに、なんだか自分の意志がなくなったみたいです。行こうとしてみるのですが、すぐに誰かが私をつかまえて、ある場所へ押し込め、そこで気を失いかけるほど打ちのめすのです。そうと知っていれば行かないのですが、なんだか私を好きに連れまわす権利をもった人物がいるみたいです(患者のこと)。でも、私の方こそ、その人物を連れまわす権利があるはずだと思うのです」
博士「その女の人とは、いったいどういう関わりがあるのですか。あなたはあなたの生き方をするというわけにはいかないのですか」
スピリット「私はそのつもりで生きているのですが、その女性が私の邪魔をするのです。それで私が叱ると、逆に私を追い出そうとするのです。私もその人を追い出そうとします。そんな調子で、大変な取っ組み合いになるのです。私にだってそこにいる権利があるはずなのに、なぜいけないのかが分からないのです」
博士「多分あなたの方が、その人の邪魔をしているのでしょうね」
スピリット「その人はすぐ私を追い出そうとするのです。私は何も迷惑なんかかけていないはずなのに…。ただ、時たま話しかけるだけなのです」
博士「話しかけるのが通じてますか」
スピリット「時たま通じるみたいです。通じるとすぐさま私を追い出そうとするのです。なかなか礼儀正しい方なのですが、カッとなるところがあって…。カッとなると、すぐ例のところへ行くものだから、私は気が遠くなるほどひどい目にあうのです。とても怖くて…。私の方からその人を連れ出す力はありません。その人の方から私を追い出そうとしているのです」
博士「あなたは、その方につきまとわないほうがいいですよ」
スピリット「だって、私の身体なんですからね。あの人のものではありません。あの方にはそこに居すわる権利はありません。なぜ私の邪魔をするのかが分からないのです」
博士「あなたの自分勝手な振舞いに抵抗しているのでしょうよ」
スピリット「私にも生きる権利があるはずです – そうですとも」
博士「あなたは自分が死んだことに気づかないで、これまでずっとひとりの女性に取り憑いていたのです。あなたはスピリットの世界へ行くべきで、こんなところをうろついていてはいけません」
スピリット「私がうろついているとおっしゃるんですか?そんなことはありません。誰にも迷惑はかけてはおりません。ただ、少しばかりしゃべりたいことがあって…」
博士「それが“雷”や“ひどい目”にあう原因なのです」
スピリット「最初のころはなんとか我慢できましたが、最近はとてもひどくて…。どうしてこんなことになったのか、少し考えないと…」
博士「今、それが分かりますよ」
スピリット「あんな怖いものを止めにしてくれるのなら何でもやります」
バートン夫人「(自分を悩ませていたのは、この霊であることを確認して)私もあなたにうんざりですよ。どなたです、あなたは?」
スピリット「あかの他人ですよ」
バートン夫人「お名前は何とおっしゃるのですか」
スピリット「私の名前?」
バートン夫人「あなたにも名前があるでしょう?」
スピリット「キャリーです」
バートン夫人「キャリー・何とおっしゃいます?」
スピリット「キャリー・ハッチントン」
バートン夫人「どこにお住いでしたか」
スピリット「テキサス州のサンアントニオ」
バートン夫人「すると、ずいぶん前から私に憑(つ)いていたのね」(バートン夫人は永いことサンアントニオに住んでいた)
スピリット「あなたの方こそ私に永い間つきまとってるじゃないの。なぜそんなに私の邪魔をするのか、それだけが知りたいわね。今の私には、あなたの姿がはっきり見えるわ」
バートン夫人「何という通りに住んでましたか」
スピリット「あちらこちらを転々としたわ」
博士「あなたはもう肉体を失っておられるのですが、そのことが実感できませんかね。ずっと病気をなさっていたことは覚えてますか」
スピリット「最後に記憶しているのはエル・パソに住んでいたことです。それ以後のことは何ひとつ記憶にありません。エル・パソに行ったことまでは覚えておりますが、そこを離れたという記憶はございません。どうやら今もエル・パソにいるみたいです。ある日、大病を患ったことを覚えています」
博士「おそらく、その病気でお亡くなりになったのですよ」
スピリット「エル・パソのあと、どこへ行ったかは知りません。かなり遠くまで行きました。列車で行きましたが、なんだか自分が空っぽになったみたいでした。誰ひとり話しかけてくれず、私はただその夫人(バートン)のあとを召使いみたいに付いてまわりました。不愉快でなりませんでしたけどね」
バートン夫人「あなたはその間ずっと歌い通しだったので、私は気が狂いそうでしたよ」
スピリット「だって、あなたは私の言うことをひとつも聞こうとしないから、注意を引くためにはそうでもするほかなかったのですよ。あなたが列車に乗るものだから、私は家からも家族からも遠く離されてしまい、それが辛かったのです。お分かりかしら、この気持?」
バートン夫人「あなたの方こそ私の気持を理解していないのよ」
博士「ご自分の身の上に何が起きたか、お気づきになりませんか」
スピリット「あの雷みたいなものだけは、もうご免です。私は退散しますよ」
博士「ご自分の身の上をよく理解してください。あなたは今はスピリットとなり、愚かにも人間に取り憑いているのです。あなたにはもう肉体はないということを悟りなさい。おそらくあなたは、重病になられた時にそのまま死なれたのです」
スピリット「幽霊と話ができるのかしら?」
博士「実際にあることです」
スピリット「私は幽霊なんかじゃありません。だって幽霊じゃしゃべれないじゃないの。死んだのなら、その辺に転がっているはずよ」
博士「死ねば肉体はその場に転がってますよ。しかしスピリットは転がってはいません」
スピリット「スピリットは神のもとへ戻ります」
博士「その神というのはどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国です」
博士「天国はどこにあるのでしょう?」
スピリット「イエスさまがいらっしゃるところです」
博士「バイブルには“神は愛なり。愛の中に住める者は神の中に住めるなり”とありますが、その神はどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国でしょうよ。とにかく、そういう難しいことは私は何も知りません。ただ、あの雷みたいな衝撃のために私が地獄のような苦しみを味わっていることだけは確かです。私にとって何の役にも立っていません。真っ平ご免です」
博士「だったら、この夫人に近づかないことです」
スピリット「今その人の姿がよく見えます。ちゃんとした会話ができます」
博士「でしょ?でも、これが最後となることでしょうね」
スピリット「どうしてですか」
博士「この場を離れたら、ご自分が別の人間の身体を使って話していたことに気づかれますよ。その別の人間というのは私の妻のことです」
スピリット「ご冗談を!あなたのことをもう少しは物分かりのいい方と思ってましたが…」
博士「突拍子もないことに思えるのも無理はありませんが、でも、この手をご
らんなさい。間違いなく自分の手ですか」
スピリット「私の手ではなさそうですが、このところ変なことばかり起きてるものですから、頭の中がこんがらがってるんです。あの婦人のすることは気狂いじみてるのです。私はそれに振りまわされて、いったい何をしようとしているのか、なぜそんなことをするのか、そればっかり考えているのです」
博士「あなたが出ていってくれれば彼女は喜びますよ」
バートン夫人「キャリーさん、お年齢(とし)はいくつですか」
スピリット「女性は年齢を言いたがらないことくらい、あなたもご存知でしょう?」
博士「ことに未婚の方はね」
スピリット「どうかそれだけはご勘弁を。適当に想像なさってください。私の口からは申しませんから」
博士「ご結婚はなさいましたか」
スピリット「ええ、ある男性と結婚しましたが、好きになれませんでした」
博士「その方の名前は?」
スピリット「それは言えません。絶対に口にしたくありません。彼の姓を名のりたくもありません。私の名はキャリー・ハッチントン – これが私の本名であり、彼の姓は使いたくありません」
博士「ところで、霊界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「なんというバカげた質問ですこと!」
博士「あなたにはバカげたことに思えるかも知れませんが、霊界は実際にあるのです。霊的なことは人間の常識ではバカバカしく思えるもののようですが、実はあなたはもう肉体をなくしていらっしゃるのです」
スピリット「なくしてなんかいるものですか。私はずっとこの婦人と一緒に行動しているのですが、私の気にくわないことがひとつだけあります。それは、食べすぎるということです。もりもり食べて元気をつけるものだから、私は力で敵わなくなるのよ。私のしたいようにできないということです。(バートン夫人に向かって)あなた、少し食べる量を減らしてよ。私はいつもあれは食べるな、これは食べるなと言ってるのに、あなたはちっとも感づいてないわね。聞こうともしないのだから…」
バートン夫人「私が行きなさいと言っていたのは、ここのことですよ。でもあなたは、どうしてもひとりでは行こうとしなかったわね」
スピリット「分かってますよ。でもあなたは、私をこんな雷の鳴る場所へ連れてくる権利などありませんからね。あんなひどい目にあうんだったら、一緒になんかいたくないわ」
博士「雷の仕掛けは隣の部屋にあるのですが、少し掛けてあげましょうか」
スピリット「いえ、結構です。もうたくさんです」
博士「だったら、私の言うことをよく聞きなさいよ。言う通りになされば、あんなものは必要ないのですから。いいですか、あなたは何も知らずにいるスピリットなのです。今、置かれている事情を知らないという意味です。あなたはもう肉体を失ったのです。ご自分では気がついていないようですが…」
スピリット「そんなことが、あなたにどうして分かるのです?」
博士「あなたは今、私の妻の身体を使ってしゃべっているのですよ」
スピリット「私はこれまで1度もあなたにお目にかかったことがないのですよ。その私があなたの妻だなんて、そんなバカなことがこの広い世の中に有り得ますか。冗談じゃないわ?」
博士「私もそれはご免こうむりますよ」
スピリット「こちらこそ!」
博士「実はこれ以上、私の妻の身体を使っていただくと困るのです。あなたはもう肉体がなくなっていることを悟らないといけません。この手(ウィックランド夫人の手)をごらんなさい。ご自分のものだと思われますか」
スピリット「近ごろ私の身の上にいろいろと変化があったものですから、頭が変になりそうなのです。もう、うんざりですわ」
博士「これ!キャリー、いい加減に目を覚ましなさい」
スピリット「私はちゃんと目を覚ましてますよ。そんな言い方は止めてください。さもないと、あなたの聞いたこともないことをある人に言わせてやりますからね」
博士「これ、キャリー!」
スピリット「私はミス・キャリー・ハッチントンでございます」
バートン夫人「キャリー、先生のおっしゃることをよくお聞きなさい」
スピリット「私は誰の言うことも聞く気はありません。きっぱりそう申し上げておきます。あの人になったりこの人になったり。もうこの先どうなっても平気です」
博士「今、あなたは、私の妻の身体を使ってしゃべっていることをご存知ですか」
スピリット「バカなことをおっしゃい!そんな気狂いじみた話は聞いたことがないわ!」
博士「そろそろ分別心を働かせないといけません」
スピリット「分別心?私は立派な分別心をもっておりますけど…。では、あなたは完璧な人間ですか」
博士「もちろん完璧ではありません。私が言ってるのは、あなたはもうスピリットとなっているのに、そのことを理解せずに、身勝手なことをしているということです。あのご婦人をずっと苦しめていらっしゃるのです。それで、例の“雷”を使ってあなたを追い出したわけです。あなたが認めようが認めまいが、今はもうあなたはスピリットなのです。その事実についてあなたは無知でいらっしゃる。素直に言うことを聞かないと、隣の治療室へ連れてって、またあの“雷”を見舞いますよ」
スピリット「あれはもう勘弁してください」
博士「だったら、その態度を改めなさい。生命に死はない – 肉体を失っても人間の目に見えなくなるにすぎないことを、素直に理解しなさい。(あなたからは私たちが見えても)私たちからは、あなたは見えてないのですよ」
スピリット「私はおふたりとは何の関係もございませんので…」
博士「私たちはあなたの力になってあげたいのです。なんとかして今の身の上の真実を分からせてあげたいと思っているのです」
スピリット「お力添えは無用ですよ」
博士「どうしても言うことを聞かないとなったら、高級霊の方たちに連れていっていただいて、牢に入れてもらいますよ」
スピリット「私に脅しをかけるつもりなのね!そんなことをしたら、あなたこそひどい目にあいますよ。覚えてらっしゃい!」
博士「その意固地な態度を改めなさい。あたりをごらんなさい。あなたに気づいてもらおうと思っている人が目に入るでしょう?その人を見たらあなたは泣き出すでしょうよ」
スピリット「私が泣いたりなんかするものですか。反対に歌い出しちゃいますよ」
博士「お母さんは、今どこにいますか」
スピリット「永いこと会っておりません。え、母ですか?ああ、母ね!母ならもう天国へ行ってますよ。立派な女でしたからね。今ごろは神と聖霊と、そのほかもろもろの人たちと一緒にいることでしょうよ」
博士「あたりを見まわしてごらんなさい。そのお母さんがいらっしゃいませんか」
スピリット「ここは天国じゃありませんよ。とんでもない!もしもここが天国だったら、地獄よりひどいところですよ」
博士「お母さんを探し出すことです。今のあなたの恥ずべき状態を聞かせてくれますよ」
スピリット「私は何も恥ずべきことはやっておりません。いったいなぜ私にあんな雷なんかを落としたり牢へ入れたりなさるんです?私はそこのご婦人と話し合って取り決めたことがあるのです」
博士「この方は私のところへ来られて、あなたを取り除くための取り決めをなさったのです。そこで電気仕掛けで、あなたをこの方の身体から追い出したというわけです。もうこの方はあなたの仲間ではありません」
スピリット「そうね、みんなしばらく私から離れちゃったわね(憑依霊のこと)。見当たりませんもの。あの背の高い男をなぜ追い出したのですか」
博士「それは、自分の身体が大事だからですよ。地縛霊に苦しめられたくはありませんもの。あの連中と一緒がいいのですか」
スピリット「あなたのおっしゃってることの意味が分かりません」
博士「あなたはご自分がこの婦人を悩まし、地獄のような毎日を送らせていたことがお分かりになりませんか」
スピリット「(バートン夫人に向かって)私はあんたを悩ませてなんかいませんよ」
バートン夫人「今朝だって私を3時に起こしたじゃありませんか」
スピリット「あなたに寝る資格はないわよ」
博士「あなたはあなたなりの生き方をしなきゃだめです」
スピリット「そうしてるつもりです」
博士「言うことを聞かないと暗い牢の中で暮らすことになりますよ」
スピリット「どうしてそんなことが言えるのよ?」
博士「あなたに、いつまでもそのままでいてくれては困るのです。もっと素直になって助けを求めた方が身のためですよ。私は妻とともにこの仕事を何年もやってきました。妻はこうやっていろんな性格のスピリットに身体を使わせてあげて救ってあげてるのです」
スピリット「(皮肉っぽく)まあ、立派な奥さんですこと!」
博士「恥を知ることも大切です。いかがです、お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「見たいとも思いませんね。天国から呼び戻すこともないでしょう」
博士「天国というのは“幸せである状態”のことですから、あなたのような娘がいては、お母さんも天国なんかにいる心地はしないでしょう – 幸せにはなり切れないでしょう。いかがです、もしもあなたが天国にいて、地上にひとりの娘がいて、その娘が今のあなたのような状態でいるとしたら、あなたは平気でいられますかね」
スピリット「私はヘソ曲がりではありません!私のどこがいけないというのですか。おっしゃってください!」
博士「それはもう言いました。あなたは私の妻の身体に取り憑いてるのです」
スピリット「私にどうしてそんなマネができるというのです?」
博士「物質の法則を超えた霊的な法則があるのです。そして今はもうあなたは1個のスピリットなのです。スピリットや精神(マインド)は肉眼では見えないものです。あなたはわがままで、ものごとを理解しようとなさらないけど…」
スピリット「ここは天国なんかじゃありません」
博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」
スピリット「お願いだから冗談はやめてよ!私はどうやってここに来たのかしら?」
博士「こちらの婦人に取り憑いてきたのです。そういうわけです。おかげでこの方は、あなたを取り除くために、あの雷を受ける羽目になったのです」
スピリット「おバカさんですね、そんなマネをするなんて」
博士「なんとしてもあなたに離れてもらいたい一心からなのです。なんとしても離させるでしょうよ」
スピリット「あの雷だけはもうご免こうむります」
博士「素直に言うことを聞かないと、高級霊の方たちがあなたの嫌がるものをお見せしますよ」
スピリット「(ある幻影に怯(おび)えて)それだけは止めて!」
博士「お望みではなくても、こうするしかありません」
スピリット「そんなのないわ!」
どうしても理解させることができないので、このスピリットはマーシーバンドに引き取ってもらった。
—–
スピリット = ジミー・ハンチントン
患者 = バートン夫人
—–
霊媒に乗り移るとすぐ両足の靴を蹴って脱ぎ捨て、ひどくイラついている様子。
博士「どうなさいました?何か事故にでもあったのですか。(霊媒の両手をしっかりと押さえて)靴をはいていませんね?」
スピリット「いま脱いだんだ!」
博士「お名前を聞かせてください」
スピリット「名前なんか知らんよ」
博士「どちらからおいでになりました?」
スピリット「そんなこと言う必要ないね」
博士「ぜひお名前をうかがいたいものですな。どうなさったんですか。どうも
ご機嫌がよろしくなさそうですな」
スピリット「よくないね」
博士「このところ何をなさってましたか」
スピリット「何もしてないよ。ただ歩きまわっているだけだ」
博士「そのほかには?」
スピリット「そうさな、とくにこれといって、別に…どこかに閉じ込められたみたいな気がするな」(バートン夫人のオーラの中のこと)
博士「どんな具合に?」
スピリット「それは分からんが、とにかく出られなくなってしまった」
博士「もっとくわしく説明してくれませんか」
スピリット「説明なんかできんよ」
博士「誰かが話をしているのが聞こえましたか」
スピリット「ああ、大勢の人間がしゃべってたな」
博士「どんなことを言ってましたか」
スピリット「アレコレ、好きなことを言ってたね。みんな自分が賢いと思ってるんだよな」
博士「あなたにも話すチャンスはあったのでしょ?」
スピリット「あったけど、いつもひとりの女がいて、そいつがオレの言おうとすることをぜんぶ先取りするもんだから、頭に来たよ。オレにだってしゃべるチャンスをくれてもいいと思うんだ。みんながしゃべると、その女がしゃべり出すんだな。いったん女がしゃべり出すと、男には口をはさむチャンスはないよ」
博士「結婚はなさってましたね?」
スピリット「もちろんさ。結婚してたよ」
博士「うまくいってましたか」
スピリット「どう言えばいいのかな…ま、言い訳はよそう。あまり幸せだったとは言えないね。女はいつもしゃべりすぎるんだよ。男をそっとしておくということができないんだな」(ここでいう“女”とは憑依霊のこと)
博士「何のことをしゃべっていましたか」
スピリット「例の女はよくしゃべるやつでね。のべつしゃべりまくるんだ(バートン夫人はいつもひとりごとを言い続けていた)。少しの間も黙ってはいられないんだな。おとなしくさせてやりたい気持に何度かなったけど、そのうち新参者が入ってきて、またしゃべりまくるんだ。もうイヤになってね。それでオレは出て来たんだ。あんなひどい連中はいないよ」
博士「何か変ったことでも起きたんですか」
スピリット「頭のまわりで稲光がして、それきり自分がどこにいるのか分からなくなった(バートン夫人に電気療法を試みた)。遠くで光ったと思ってたんだが、それが見事にこのオレさまに命中しちゃってさ!」
博士「その瞬間どうしようと思いましたか」
スピリット「稲妻を取っつかまえて、オレの頭に当たらないようにしてやろうと思ったんだけど、ことごとく命中するんだな。1度も当たりそこねがないんだ。稲妻というのは、そういうもんじゃなかった – そう滅多に当たるもんじゃなかった。が、今度のは、みな当たるんだ。こんなの初めてだ。今もあんたの目の前にチラチラするものが見えて、おっかなくて仕方がないが、あの女は稲光がしている時でも平気でしゃべり続けるんだから…」(バートン夫人は電気治療を受けている間でもひとりごとを言い続けていた)
博士「どんな話をするんですか」
スピリット「下らんことさ。あの女は宿主(ボス)でありたいだけで、オレもボスでありたいから、けっきょくふたりが一緒にいることになってしまう」
博士「その女性はどんなことをしゃべるのですか」
スピリット「女がどういうものか、あんたもよく知ってるはずだ。とにかくよくしゃべるんだなあ。どうしようもないよ」
博士「その人からあなたに話しかけることがありますか」
スピリット「もう、のべつ悩まされ通しさ。なんとかして黙らせたいんだけど、これ以上オレには力が出せそうにないよ。そう思ってるうちに別の女が出て来て、同じようにしゃべり始めるんだ。もう、うんざりだよ。女を黙らせるいい方法を知らんかね?たとえご存知でも、手こずるだろうよ」
博士「あなたのお名前は?」
スピリット「永いこと呼ばれたことがないね」
博士「どちらから来られましたか。今カリフォルニアにいらっしゃるんでしたかね?」
スピリット「いや、テキサスだ」
博士「子供のころ、お母さんはあなたのことを何と呼んでましたか」
スピリット「ジェームズが本当なんだが、みんなジミーって呼んでた。それにしても、このオレは、いったいどうなってるんだろうな、まったく!あの雷がオレのヒザから足へ、頭から足へと当たりやがる。とにかく合点(がてん)がいかんのは、かならずこのオレに命中するってことだ」
博士「今、おいくつですか」
スピリット「ま、50ばかりになる男性と言っておこう。ただ、この年齢になるまで、あんな稲妻は見たことがないし、なんとしても理解できないのは、その稲妻が当たっても、何ひとつ燃えたためしがないということだ。
それにしても、きのうもいつもの寝所(ねぐら)に入ったんだが、あんなにひどい夜はなかったね。どいつもこいつも、悪魔ばかりだった(憑依霊のこと)。今もあそこにひとり立ってるが、あれは、きのう来たやつだ」
博士「ジミー、死んでどのくらいになりますか」
スピリット「それはどういう意味かね?」
博士「つまり肉体を失ってからどのくらいになるかということです」
スピリット「肉体を失ってなんかいないよ」
博士「どうも感じが変だということを感じたことはありませんか」
スピリット「ずっと変だよ」
博士「テキサスで石油関係の仕事にたずさわったことはありませんか」
スピリット「どこで働いていたかよく分からん。とにかく何もかも変なんだ」
博士「どういう仕事場で働いていましたか」
スピリット「かじ屋だ」
博士「今年は何年だかご存知ですか」
スピリット「いや、知らんね」
博士「この秋の選挙はどうしますか。誰に投票するつもりですか」
スピリット「まだ分からんね」
博士「今の大統領をどう思われますか」
スピリット「好きだね。なかなかやるんじゃないかな?」
博士「大統領について何か特別に知ってることがありますか」
スピリット「彼はいい。ルーズベルトは一点非のうちどころがないよ」
博士「では、ルーズベルトが大統領なんですね?」
スピリット「むろん、そうさ。当選したばかりだ。マッキンレーもなかなかの人物だったんだが、マーク・ハンナが彼を牛耳ってたな。が、オレはもうずいぶん永いこと政治のことには関心がないよ。それに、あの女に黙らされてる
しね。四六時中しゃべりやがって、オレはもう気が狂いそうだよ」
博士「そんなにしゃべるのは、いったいどういう女性なんでしょうね?」
スピリット「あんたにはその女が見えないのかい?」
博士「ここにはいないのでは?」
スピリット「いや、いるとも、ちゃんといますよ。その人だよ」(バートン夫人を指さす)
博士「どういう話をするのですか」
スピリット「下らんことばかりさ。もう、うんざりだよ」
博士「とくにどんなことを言ってますか」
スピリット「これといって、とくにないね。あいつにはセンスというものがないんだよな。時おりこのオレを小バカにすることがある。いつか仕返しをしてやるつもりだ。それにしてもしぶといよ、あいつは…」
博士「ところで、あなたは今どういう状態にあるのか、その本当のところを知っていただきたいと思うのですが。実はあなたは肉体を失って、今はスピリットになっておられるのですよ」
スピリット「オレにはちゃんと肉体はあるよ」
博士「その肉体はあなたのものではありませんよ」
スピリット「じゃあ、誰のだ?」
博士「私の妻のものです」
スピリット「冗談も休み休み言ってくれよ!オレがあんたの奥さんだなんて!男がどうして女房になれるんだよ。バカバカしい!」
博士「あなたは今はもうスピリットなのです」
スピリット「スピリット?幽霊(ゴースト)だって言うのかい?バカもいい加減にしてくれよ!」
博士「スピリットもゴーストも同じことです」
スピリット「ゴーストがどんなものか、スピリットがどんなものか、オレはちゃんと知ってるよ」
博士「どちらも同じです」と霊媒の手を取りながら言う)
スピリット「オイ、オイ、男が男の手を握るのは、やばいよ。どうせ握るのなら、どこかのご婦人にしなよ。男どうしは手を握り合わないものだ。ぞっとするぜ」
博士「その女性は何と言ってるんでしょうね?」
スピリット「ただしゃべりまくるだけで、ロクなことは言ってないよ」
博士「若い方ですか、年をとっていますか」
スピリット「そう若くはないね。オレは見ただけで胸がむかつくんだ」
博士「あなたが今はもうスピリットであると私が言ったのは、ありのままの事実を申し上げてるんですよ」
スピリット「では、この私がいつ死んだと言うのだね?」
博士「かなり前のことに相違ないでしょうね。ルーズベルトが大統領だったのは、もうずいぶん前の話ですから。ルーズベルトも今ではあなたと同じスピリットになっています」
スピリット「オレと同じ?オイ、オイ、彼は死んだと言うのかい?」
博士「あなたも死んだのです」
スピリット「こうしてここにいて、あんたの言うことが聞こえている以上、死んでるはずがないじゃないか」
博士「あなたは肉体を失ったのです」
スピリット「オイ、オイ、そんなに手を握らんでくれよ。気持が悪いよ」
博士「私は、私の妻の手を握っているのです」
スピリット「奥さんの手を握るのは勝手だが、オレの手は離してくれよ」
博士「この手があなたのものだと思いますか」
スピリット「これはオレの手じゃない」
博士「私の妻の手ですよ」
スピリット「でも、オレはあんたの奥さんじゃないからね」
博士「あなたは私の妻の肉体を一時的に使用なさっているのです。ご自分の肉体は、とうの昔になくしておられるのです」
スピリット「どういう具合にしてそういうことになっちゃったのかね?」
博士「私には分かりません。あなたはここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」
スピリット「冗談じゃない、どうしてオレがカリフォルニアなんかに来れるんだ?まったくの文無しだったのに。
あのね、今ここにふたりの女性がいるんだが、ひとりはあまりしゃべらない。どうやら病気らしい(バートン夫人に憑依している別のスピリット)。多分もうひとりの女がやたらにしゃべるもんだから、あんたもこんがらがっちゃったのだろう。
たのむから、オレの手を握らんでくれんかな。きゅうくつで仕方がないよ。どこかのご婦人とふたりきりというのなら話は別だけどな。両方の手を握らないと気が済まないのかね?」
博士「おとなしくしないから、両手を握らざるを得ないのです。さ、これ以上時間をムダにするのはやめましょう」
スピリット「オレも、時どき、両手を遊ばせておれないほど忙しくなりたいと思うことがあるよ」
博士「では、仕事をあげましょう」
スピリット「ほんとかね、それは?そいつは有り難い。何でもいいから仕事をくれればうれしいね。馬に蹄鉄を打つ仕事なんかどうかな?オレは昔は蹄鉄を打つ仕事をやってたんだ」
博士「どこの州で?」
スピリット「テキサス。でかい州だよ」
博士「ずいぶん放浪したんじゃないのですか?」
スピリット「うん、相当な。ガルベストン、ダラス、サンアントニオ、そのほかずいぶん行ったな」
博士「あなたは今はもうスピリットとなっていて、少しの間だけ私の妻の身体に宿って話をすることが許されているのです。私たちには、あなたの身体は見えてないのです」
スピリット「オイ、オイ、あの鬼みたいな連中を見ろよ。まるでイタズラ小僧みたいに跳ねまわってるよ(憑依霊のこと)。みんなあの婦人(バートン夫人)を取り囲んでるよ」
博士「あなたが退(ど)いてくれれば、連中もみんな一緒に片づくのですがね」
スピリット「ご免だね、それは。(ネックレスにさわりながら)何だ、こりゃ?」
博士「私の妻のネックレスですよ」
スピリット「あんたの奥さん?」
博士「このたびは、あなたにぜひ知っていただきたいことがあってお連れしたのです。あなたは例のご婦人から火であぶり出されたのです」
スピリット「いかにも。稲妻でな。あんなにひどいのは見たことがない。テキサスでもアーカンソーでも、雷と稲妻のお見舞いはよく食らったものだが、今度みたいに、光るたびに直撃を食らうことはなかったんだが…」
博士「もう、これからは雷も稲妻もありませんよ」
スピリット「ほんとかね?そいつは有り難い」
博士「お母さんはテキサスにお住いでしたか」
スピリット「そうだ。だが、もう死んじゃったよ。葬式に立ち会ったから間違いないよ」
博士「それは、お母さんの肉体の葬式に立ち会ったということで、お母さんの霊、魂、ないしは精神の葬式ではありませんよ」
スピリット「母は天国へ行ったと思うね」
博士「見まわしてごらんなさい。お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「どこに?」
博士「この部屋にですよ」
スピリット「ここは、いったいどこなんです?オレがあんたの奥さんだと言われても、オレはあんたには1度も会ったことがないからね」
博士「あなたは私の妻ではありません」
スピリット「でも、さっきオレのことをそう言ったじゃないか」
博士「あなたが私の妻だと言ったのではありません。あなたは今、一時的に私
の妻の身体を使用していると言ったのです」
スピリット「まいったね、これは。いったい、どうやったら奥さんの身体から出られるのかね?」
博士「私の言うことをよく聞きなさい。イタズラ小僧たちは何と言ってますか」
スピリット「このまま留まりたいと言ってるね。だがオレは、みんな一緒に出るんだと言い聞かせてるんだ、大声でね」
博士「やっぱり一緒に出てほしいでしょう?」
スピリット「まあね」
博士「彼らに心を入れ替えさせて、自分が今どんな状態にあるかを分からせることによって、あなたは彼らを大いに救ってあげることになるのです。彼らは助けが必要なのです。あなたも含めて、みんな本当の事情が分からずに、あの婦人に迷惑をかけていたのです。みんなスピリットの世界へ行って、どんどん向上できるのです」
スピリット「あのご婦人も行くのかな?ほかにもずいぶんいるよ。まるで集団だよ。でも、オレはそのうちのひとりとして知ってるヤツはいないね」
博士「誰か顔見知りの人が見当たりませんか。少し落ちついて、じっくり見てごらんなさいよ」
スピリット「(興奮ぎみに)オヤ、ノラがやってきた!」
博士「どういうご関係ですか」
スピリット「ノラ・ハンチントン – オレの妹だよ」
博士「あなたの名前がジミー・ハンチントンじゃないか、尋ねてみなさい」
スピリット「そうだと言ってる。ずいぶん久しぶりねとも言ってる。(急に戸惑いUがら)待てよ、妹は死んだはずだが…」
博士「妹さんに事情を聞いてごらんなさい」
スピリット「一緒においで、なんて言ってるけど、いったいどこへ行くんだろう?」
博士「何て言ってますか」
スピリット「霊界だとよ – 信じられんな、あいつの言ってることは…」
博士「妹さんはウソをつく人だったんですか」
スピリット「そんなことはないよ」
博士「だったら、今だってウソをつくはずはないでしょう?」
スピリット「オレをずいぶん探したけど、どうしても居場所が分からなかったと言ってる」
博士「妹さんは今までどこにいたんでしょうね?」
スピリット「あいつはもう死んでるんだ。オレはあいつの葬式に出てるから間違いないよ。生き埋めにされたのではないことは確かだ」
博士「あなたが出席したのは妹さんの肉体の埋葬式で、霊魂は埋葬されてはいませんよ」
スピリット「じゃあ、あれは妹のゴーストというわけ?」
博士「妹さんはしっかりしたスピリットになっておられるはずですよ。そのあたりのことは私から言うよりも、妹さん自身から聞いてごらんなさいよ」
スピリット「“一緒に行きましょう、あの大勢の人たちもお連れしましょうよ”と言ってる。今は使節団のひとりになって、救える人なら誰でも救ってあげてるらしい。不幸な人たちを救ってあげてるんだそうな。オレもそのひとりってわけだな?」
博士「例のおしゃべりの女性にも一緒に行くように言ってあげてください」
スピリット「出てしまうと身体がなくなってしまうと言ってるよ」
博士「こう言ってあげてください – 肉体の代わりに霊体というのがあり、もう肉体はいらないのだと。そして、一緒についてくれば幸せになる方法を教えてくれる人がいるということもね。例のイタズラ小僧たちも連れてってくださいよ」
スピリット「ぜんぶはムリだよ。第一、みんなついてくる気になるかどうかも分からんしね」
博士「今よりも幸せになれることを実際に示してあげれば、ついていく気になるでしょう。多分あの人たちは、生涯に1度も幸せになれるチャンスがなかったのでしょうからね」
スピリット「オレだってこんなことは思いもよらなかったことさ」
博士「ですから、全面的に彼らを咎めるつもりはありませんよ。もっともっと幸せになる生き方があることを教えてあげれば、みんなついてきますよ」
スピリット「では、いったいここはどこですか」
博士「カリフォルニアです」
スピリット「カリフォルニアのどこですか」
博士「ロサンゼルスです」
スピリット「あんたがロサンゼルスにいるからといって、オレもロサンゼルスにいるとはかぎらないだろう?」
博士「今ここにいるのに、ほかのどこに存在できるのですか」
スピリット「それも一理あるな。テキサスのダラスにいたことまでは覚えてるよ。たしか馬に蹄鉄を打ってた時に後頭部をぶたれたんだった。ヤツはオレを殺したってわけか?」
博士「殺したというか…要するに、あなたを肉体から離れさせたわけです。死んで消えてしまう人はいません。さ、早く行かないと妹さんが待ちくたびれますよ」
スピリット「行けるものなら今すぐ行ってもいいが、歩いて行かなきゃならないじゃないか」
博士「歩いて行く?私の妻に宿ったまま?あなたにぜひ新しいことを勉強してほしいですね。妹さんと一緒にいる、と念じるだけでいいのです。次の瞬間には妹さんのところへ行ってますよ。思念で進むのです」
スピリット「へえ、そいつぁいいなあ」
博士「さあ、これ以上その身体に留まっていてはいけません」
スピリット「面白い言い方をしましたな」
博士「私の妻の身体ですからね」
スピリット「この身体から出たあとは、どんな身体を使うのかね?」
博士「霊体ですよ。私たちの肉眼には見えないのです」
スピリット「この身体から飛び出して、うまくその霊体に入れるのかね?」
博士「妹さんが教えてくれますよ。妹さんと一緒にいると、念じるだけでいいのです。肉体はいらないのです」
スピリット「なんとなく眠気をもよおしてきたな」
博士「妹さんについていって、いろいろ教わりなさい。スピリットの世界について新しいことをいろいろ教えてくれますよ。例の仲間の人たちも連れてってやりなさい」
スピリット「(仲間に向かって)オイ、お前たち、オレについてくるんだ。みんなだぞ」
博士「ついてきそうですか」
スピリット「大丈夫です。さ、お前たち、ついてくるんだ!では、さようなら」
その後の招霊会に“ハリー”という名のスピリットが出現して、バートン夫人を悩ませているもうひとりの憑依霊について、興味深い話をしてくれた。
博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「今どこにいるのかも分からんのです。自分がどうなっているのかも分からんのです」
博士「事情を知りたいのですか」
スピリット「何がどうなっているのかが分からんのです」
博士「何かあったのでしょう?」
スピリット「それを知りたいくらいです」
博士「最近は何をしてましたか」
スピリット「分かりません」
博士「お名前を教えてください。名前くらいご存知でしょう?」
スピリット「そりゃ、まあ – ええと、知ってると思うんだけど…」
博士「ここはどこだと思いますか」
スピリット「知りません」
博士「いえ、ご存知のはずです」
スピリット「知りません。何もかもが変で、何がどうなってるのか、さっぱり分かりません」
博士「振り返ってごらんになって、何か思い当たることがありませんか」
スピリット「振り返るったって、背中に目がついてないもんで…」
博士「思い出してみなさいという意味です」
スピリット「背中のことをですか」
博士「いいえ、過去のことをです。考える力を働かせてごらんなさいよ」
スピリット「何も分かりません」
博士「そんなに“考え不精”では困りますね」
スピリット「人間に何ができるんでしょうね?」
博士「この肉体は女性ですが、あなたは男性ですか女性ですか」
スピリット「男性ですよ。あの人も男性で、ほかの人たちは女性です。私はずっと男性です。女性になったことなんか1度もありません。これからもなりません。私は男ですとも」
博士「その手をごらんなさい。そんな手をどこで仕入れられましたか?」
スピリット「これは私の手じゃない」
博士「足をごらんになってください」
スピリット「これも私のものではない。私は女になったことなんかない。手も足も女のものはご免だ。他人の身体なんか借りたくないね」
博士「年輩の方でしょうか」
スピリット「ガキじゃないよ」
博士「年齢(とし)はどうやらおありのようですが、知識がないようですな」
スピリット「ないね。大した知識があるとは思ってない」
博士「知識がおありであれば、こんなことにならなかったでしょうからね」
スピリット「それとこれとは別だ」
博士「あなたにいちばん欠けているのは知識なのです。お名前を教えてください。メアリーでしたかね」
スピリット「メアリーなんて名の男がいるもんですか。こっけいな」
博士「だから教えてくださいよ、お名前を。私は当てずっぽうを言うしかないのですから…」
スピリット「男ですよ。男の名前ですよ。女じゃないよ」
博士「さ、自己紹介を」
スピリット「いったい何のために名前を言わなきゃいけないのですか」
博士「口は達者のようですね。髪の毛は白髪でしたか」(ウィックランド夫人は白髪)
スピリット「白髪でした」
博士「カールしてましたか。その髪はカールしていますが…」
スピリット「そんなはずはない。カールした髪は嫌いなんだ」
博士「クシをさしておられたのですか」
スピリット「髪にクシをさした男なんて聞いたことがない」
博士「その結婚指輪はどこで手に入れられましたか」
スピリット「盗んできたみたいな言い方をしないでほしいね。オレの手は女じゃないんだ」
博士「ジョン、生まれはどこですか」
スピリット「オレはジョンじゃない」
博士「奥さんはあなたのことを何と呼んでましたか。お母さんはあなたをどう呼んでましたか」
スピリット「母はハリーと呼んでたな。結婚はしていない」
博士「姓は?」
スピリット「女ばっかりいるところで名前を言う必要はないだろう」
博士「男性も少しはいますよ」
スピリット「いったいなぜ、こんな女ばっかりのところに連れてくるんだ?」
博士「失恋なさったようですね?」
スピリット「そんなことを女どもに言うほどバカじゃないよ」
博士「彼女はなぜもうひとりの方を選んだのでしょうね?」
スピリット「彼女って誰のことだ?」
博士「あなたを捨てた女性ですよ」
スピリット「違う、そんなんじゃない!」
博士「失恋なさったんじゃないのですか」
スピリット「違う!」
博士「じゃあ、なぜそんなに女性を嫌うんですか」
スピリット「こんなに大勢の女の前で秘密が言えるもんか。笑われるのがオチだよ。いったいなぜ、この女たちがオレをジロジロ見てるのかが知りたいね。あそこにいるあの男、あいつはどうしたんですか。あの婦人(バートン夫人)のうしろにいる男のことだよ」
バートン夫人「あたしは男嫌いでしてね。男には近づかせませんよ」
スピリット「なぜあの男は彼女のそばにいるのかな。彼女の旦那かな?奥さん、あの男はなぜあんたにつきまとってるんです?あんたがどうかしたんですか。よっぽど彼氏のことが好きで、それで彼があんたから離れられないんでしょうかね?」
博士「死んでどのくらいになるのか、その男に聞いてみてください」
スピリット「イヤな奴だね。オレはおっかないよ。今にもケンカをふっかけられそうだ」
博士「死んでどれくらいになるのか、聞いてみてください」
スピリット「死んで?彼女にぴったりくっついていて、彼女が動くと彼も動いている。まるでサルまわしだ」
バートン夫人「彼も一緒に連れてってくれませんか」
スピリット「なぜこのオレが?オレはあんな男は知りませんよ。奥さん、あの人が好きなんじゃないですか」
バートン夫人「とんでもない。うんざりしてるんですよ」
スピリット「いったいどうなってるのかな?あんたの旦那さんですか」
バートン夫人「違います。なぜつきまとうのか、あたしにも分からないのです」
スピリット「あんたは彼のこと好きなんですか」
バートン夫人「とんでもない!逃げ出したいくらいですよ」
スピリット「ここはいったいどこですか」
博士「カリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「彼女にはもうひとり、女もつきまとってるな。ぴったりくっついてる」
バートン夫人「あなたに力になっていただきたいのです。その人たちをみんな連れ出していただきたいの」
スピリット「つきまとってるあの男、あんた好きなの?」
バートン夫人「とんでもない!逃げようと思って必死なのよ。ドアは大きく開けてあるから、いつでも出て行けるわ」
スピリット「冗談じゃない、ドアは閉めといた方がいいよ。あんなのにつきまとわれるのはご免こうむるよ。警察を呼んだらどう?イヤな奴だと思うのなら、警察に連れ出してもらうんだな」
博士「みんなスピリットなのです」
スピリット「スピリット?」
博士「そうです。あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「へえ、あの女のうしろに立っている男、あれがゴーストだって言うつもり?」
博士「見えますか」
スピリット「あいつはスピリットなんかじゃない、立派な人間だ。ちゃんと立ってるもの」
博士「彼もスピリットなんだけど、そのことが悟れずにいるのです。彼女には彼の姿が見えないし、われわれにも見えません」
スピリット「ここは、いったいどういうところなんです?」
博士「あなたも、われわれには見えてないのです」
スピリット「見えてない?声は聞こえますか」
博士「声は聞こえますが、姿は見えません」
スピリット「目が開いているのに見えない人の集まりというわけか。オレにはぜんぶ見えるんだが…。この部屋は人でいっぱいだ」
博士「声が聞こえるといっても、女性の口を通して聞こえてるだけですよ」
スピリット「冗談はよしてくれ。オレが女の口でしゃべってるだって?とんでもない!ただ、今の自分がいったいどうなってるのかが分からんのです。なぜこんなところにいなきゃならないのかが分からんのです。あんたたちからジロジロ見られてるし、ほかにも大勢の者が立って見つめている。あいつらも話はできるのかね?」
博士「説明しますから、よく理解してくださいよ。まず第一に、あなたは、いわゆる死んだ人間なのです」
スピリット「このオレが死んだ人間?こりゃ、いいや」
博士「あなた自身が死んだわけではありません」
スピリット「でも、今、オレのことを死んだ人間と言ったじゃないか」
博士「家族の者や知人にとっては死んだ人間となってしまったということです。でも、今度は霊体があります。あなたにはちゃんと自分という意識がある。そして、霊体をもっておられる。その辺の事情がまだお分かりになれないだけなのです」
スピリット「ずいぶん歩きまわったことは覚えてる。どこまで歩いても行き着くことがない。それが今は、こうして大勢の人間の前にいる。知らないうちに明るいところへ来ていた。気がついたら、みんなが輪になって祈っている。それで足を止めた。そして、いつの間にかしゃべり始めていた。それまでは何も見えず、疲れ果てていたのに…」
博士「今あなたに見えている人たちのほとんどが、あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「何のためにこんなところへ?」
博士「あなたの身の上を理解していただくためです。あなたは今、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたが私の妻だというのではありません。私の妻の身体に宿っておられるのです。あなたにはとんでもないことに思えるでしょうけど、でも事実なのです。あなたの姿は私たちには見えていないのです。私の妻の口を使ってしゃべっているのです。さきほどあなたが気にしていた男の人も、スピリットなのです。あなたが行かれる時に、一緒に連れてってあげてください。あの人も私たちには姿は見えてないのです」
スピリット「たたきのめしてやりたいね、奴を」
博士「バイブルはお読みになったことがありますか」
スピリット「ああ、あるとも、ずっと昔ね。もう、ずいぶん永いことお目にかかってないけどね」
博士「イエスが、取り憑いていた悪霊を追い出した話を覚えていらっしゃいま
すか。その男もこの女性(バートン夫人)に取り憑いているのです」
スピリット「ほかにも何人かいますよ」
バートン夫人「もう誰も入れないようにしてますからね」
スピリット「厳重に戸締りをしていてくれれば、オレがあいつらを連れてってあげるよ。だけどあいつだけは、たたきのめしてやりたいね。おい、名前は何て言うんだ?」
博士「何て言ってます?」
スピリット「ジム・マクドナルドだそうです。奥さん、そんな名前の人間を知ってますか。あいつがスピリットなら、なぜ嫌われている女につきまとうのかな?」
博士「あなたと同じように、あのスピリットもここへ連れてこられたのですよ。あなたも、明りが見えて、気がついたらここへ来てたわけでしょう?」
スピリット「暗がりを歩いているうちに、あの婦人(ひと)が見えたと言ってます。オレもこのままずっと、ここにいなきゃなりませんか」
患者のひとり「私のまわりにいるスピリットの名前を聞いてくださらない?」
スピリット「ふたりいるね。時どきケンカしてる。今もケンカしてるよ」
患者のひとり「私もケンカするのよ」
博士「腕ずくでケンカしてはいけませんよ。スピリットにエネルギーと磁気をやることになりますから。心の中でケンカするのです。それよりも、いい加減あなたもおしまいにしては?」
スピリット「このオレにできることなら、あの人たちを連れてってもいいです。もう2度とケンカしないのなら、ですけどね。それにしても、いったいこのオレはどうなってるんですかね?どうも変な気分です」
博士「お家(うち)はどこでしたか」
スピリット「ミシガン州のデトロイトです」
博士「記憶にある年代は?」
スピリット「何も思い出せない」
博士「大統領の名前は?」
スピリット「よく覚えてないけど、たしかクリーブランド(第24代・1893~97)だったと思う」
博士「彼はずいぶん昔の大統領ですよ」
スピリット「ずいぶん歩きっぱなしで、疲れたよ。横になって休むベッドはありませんか」
博士「あたりをごらんになれば、立派なスピリットが大勢来ているはずですよ」
スピリット「なるほど。きれいな女の子が何人かいる。これ、女たち、その手には乗らんからな。一緒に行く気はないね。とんでもないこった!」
博士「あなたの知ってる女性とはわけが違います。人間ではなくて、スピリットですよ」
スピリット「なんだか男を誘惑するような目つきで、ニコニコしてるよ」
博士「そんなんじゃありませんよ。迷ってる人に援助の手を差しのべようとしている方たちですよ」
スピリット「あの娘(こ)たちはまじめそうだが、オレは女は嫌いでね」
博士「たったひとりの女性にダメにされたからといって、女性ぜんぶを悪く言うべきではありませんよ」
スピリット「よし、この連中をぜんぶ連れてってやろう。とにかくあの娘(こ)たちについて行ってみよう。(驚いた様子で)オヤ、母さんだ!母はとっくの昔に死んだんだが…」
博士「死んでなんかいませんよ」
スピリット「天国へ行ったんじゃなかったのかな?」
博士「聞いてごらんなさいよ。お母さんご自身が教えてくれますよ」
スピリット「霊界という美しい世界にいると言ってる」
博士「霊界は地球を取り巻いているのです。“天国”というのはあなたの心の状態をいうのです。つまり、あなたが心の満ち足りた幸福を感じている時が、天国を見つけたということなのです。イエスもそう説いているでしょ?」
スピリット「母と一緒に行きたいものです。すばらしい女性になっている。マクドナルドも連れて行きたい。マクドナルド、こっちへおいでよ。こんなところにはもうこれ以上いたくない。お前も一緒に来いよ。何か必死で目を覚まそうとしているみたいな仕草をしている。さあ、元気を出せよ、マクドナルド。お互い、“まし”な人間になって、あの娘(こ)たちについて行こうじゃないか。オレはもう行くぞ。何だってあんな女にくっついてるんだ、まったく。オレはもう恥ずかしくなってきたよ。じゃあ、行くよ。グッバイ」
バートン夫人「ちゃんとみんなを連れてってやってくださいよ」
博士「お名前は?」
スピリット「ハリーだ。それしか思い出せないよ。永いこと自分の名前を聞いたことがないもんね」
博士「ほかの人たちにも、いつまでもこんなところにいるのは愚かなことだと
いうことを理解させてやってくださいよ」
スピリット「みんな連れてってやろう。さあ、みんな!このオレについてくるんだ。一緒に行きたがらない奴は承知しないぞ!ひとりの女につきまとうなんて、恥ずかしいと思わんのか。さあ、オレと一緒に行くんだ。ごらんよ、みんなこっちへ来るよ。オレがまとめて面倒を見てやろう。じゃあね」
別の日の交霊会で、バートン夫人に憑依していたスピリットのひとりで“フランク”と名のる者が、夫人の身体から離れて霊媒に乗り移って語り始めたが、記憶がほとんど戻らない。
博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「知りません」
博士「ここにどなたかご存知の方がいますか」
スピリット「知った人は見当たりません」
博士「自分がどこから来たかが分かりませんか」
スピリット「分かりません。自分が分からないことに答えられるわけがないでしょう?」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んでから?なんということを!いったい、これはどうなってるんですか。こうして私を取り囲んでいるのが、そもそも変です。何かの集会ですか。何という集会ですか」
博士「その通り、集会です。ご自分が誰であるか、ぜひおっしゃってくださ
い」
スピリット「どうして名前を言わなきゃならんのですか」
博士「初めてお会いする方だからですよ」
スピリット「こんなわけの分からない集会にいていいものやら…。どうもこの私は、初めて会う人に変った人間に映るらしいな」
博士「どちらからおいでになったのか、おっしゃってください」
スピリット「どう思い出してみても、それが分からないのです。返事のしようがないのです。これこれ、なぜ私の腕をつかむのですか。身体は頑健な男です。じっと座ってることくらいできますから…」
博士「女性だと思っていたものですから…」
スピリット「バカを言っちゃ困ります。どこを見て女だと思うのですか。もう1度よく見てくださいよ。間違いなく男ですよ。これまでずっと男でしたよ。ただ、しばらく具合がなんとなくおかしかったことがあったな。
ずっと歩き続けていたら、どこかで歌う声(交霊会の開会の時に出席者全員で歌う)が聞こえたもんだから、のぞいてみようかと思ってるうちに、急に気分が良くなった。それまでは気がすっきりしなかったけど、それから(バートン夫人のオーラに引っかかってから)何もかもが、いつもと違うんだな。いったいどうなってるんだか、自分でも分からんのです。
例の歌声のしたところへ行ったら事情が分かると言われて、その気になって見かけた人に片っぱしから尋ねてみたが、みんな知らん顔で素通りしてしまった。みんなオツにすましていて、私なんかに目もくれなかった。ただ、みんなロウでできてるみたいに見えたよ。どれくらいの人に話しかけ、どれだけ歩きまわったことか。なのに、誰ひとりとして返事をしてくれなかったし、そこにいるとも思ってくれなかった(スピリットの方から人間が見えても、人間の方からはスピリットが見えないので、知らん顔をしているように思える)。あんたが返事をしてくれた最初の人だ。時おりノドに何やら妙なものが引っかかって、その時はしゃべれなくなるんだが、そのうちまたラクになる。だけど、とにかく何か変だよ、とても変だよ」
博士「いつのことでもいいですから、何か思い出すことはありませんか」
スピリット「毎日のように何かが起きたもんな。あれやこれや思い出すことはあるが、何ひとつとして明確に思い出せないのだ。いったい今の自分がどこにいるのか分からない。こんな変なことは初めてだ」
博士「年齢はおいくつですか」
スピリット「それも分からんのです。もう、かなりの間、忘れてしまっている。誰も聞いてくれる者もいなかったんで、それで自然と忘れてしまったということでしょう。(汽車が通過する音を聞いて)オヤ、汽車だ!久しぶりだなあ、あの音は。少しの間だが、生き返った心地がするよ。どうなってるのか、さっぱり分からんね」
博士「以前はどこに住んでましたか。今はどこにいると思いますか」
スピリット「以前のことは分からんが、今はこうして大勢の人と一緒に、この部屋にスピリットいる」
博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「冗談言っちゃいけない!」
博士「では、どこだと思いますか」
スピリット「どうも、ものごとを思い出すのがダメでね。時には自分が女になったように思える時すらあるんです。すると、面白くない目にあうんだなあ」
博士「どんな目にあうんです?」
スピリット「女になると、髪が長くなって、それが垂れ下がると、その面白くないことが起きるんです」(バートン夫人は静電気の治療を受ける時は、いつも髪をほどいて垂らした)
博士「どんなことが起きるんですか」
スピリット「まるで何百本もの針を突き刺されたみたいで、あんなにひどい目にあったのは初めてだ。もう2度と女なんかにはなりたくない。女になると、またあのひどい目にあうだけだ。(サークルの中にバートン夫人を見つけて)あの女だ!あの髪の長い…。(バートン夫人に向かって)あとで覚えてろよ!」
博士「あのご婦人をご存知なんですか」
スピリット「知ってるとも。時どき私のことをひどく腹を立てて追い出そうとするんだ」
博士「多分、彼女はあなたにくっついていてほしくないんでしょう。彼女に迷惑をかけているんですよ、あなたの方が…」
スピリット「あいつだって、この私に迷惑をかけてるよ」
博士「あなたは今、自分がどんな状態にあるかを理解なさらないといけません。ご自分が今はもう、いわゆる“死んだ人間”になっていることが分かりませんか。今あなたは女性になっておられるのです。衣服をごらんなさいよ。男だとおっしゃるけど、女性の服を着てるじゃないですか」
スピリット「頼むよ、私は2度と女にはなりたくないよ。男なんだ!男でありたいんだ!前からずっと男だったんだ。それにしても、いったいなぜこんな状態から抜け出せないのか分からん。あの女が私に出て行けと言う。それで出て行こうとするんだが、どういうわけか出られない。(ふと博士に気づいて)お前だな、この私にあの火の針を刺したのは!よくやってくれるよ。お前なんかにいてほしくないね。あんな火の針は、金輪際(こんりんざい)ご免だ。あんなものには一切関わりたくないね」
バートン夫人「私に取り憑いてどれくらいになるの?」
スピリット「あんたに取り憑いた?あんたこそ私を追い出そうとしてるじゃないか。私と一緒にいたあの女性はどうした(同じバートン夫人に取り憑いていたもうひとりのスピリットで、キャリー・ハッチントン)?あの人は私のために歌を歌ってくれたんだが、いつの間にかいなくなっちゃったんだ。さんざん探したんだが見つからない。ご存知ないですか」
博士「あの方はバートン夫人から離れてから、今のあなたと同じように女性の身体を使って私と話をして、それからスピリットの世界へと向かわれました。あなたもここを出たあと、同じスピリットの世界へ行くのですよ」
スピリット「私はあの人(バートン夫人)から、あんな叱られ方をするいわれはない。何も悪いことはしてないからね」
博士「もしあなたが女性で、あなたにスピリットが取り憑いたら、それをあなまたは好ましく思いますかね?」
スピリット「もちろん、それは困るね」
博士「ところが、あなたはそれをあの婦人にしていたわけですよ。あなたは霊で、彼女は生身の人間です。あなたにどいてほしいわけです」
スピリット「彼女はあの火の針でこの私を苦しめるんだ。火の針は彼女の頭に刺さるのだが、それがこの私の頭に突き刺さるみたいだ」
博士「彼女は生身の身体に宿っています。あなたはスピリットで、われわれの目には見えないのです」
スピリット「それはどういう意味だ?」
博士「今言った通りです。あなたという存在は、われわれには見えていないのです。あなたは今、私の妻の身体を一時的に使っているのです」
スピリット「ちょっと待ってください。私はあなたの奥さんに会ったこともないし、会いたいとも思わない。言っておきますがね、私はれっきとした男だし、男以外のものにはなりたくないし、あなたの奥さんになるなんてまっぴらご免だね」
博士「おっしゃる通り、男かも知れません。しかし、あなたの姿は私たちには見えていないという事実を理解してほしいのです。その身体は私の妻のものですよ」
スピリット「ほんとだ、確かに女だ。(衣服に気づいて)こいつは驚いたな。いったいどうしてこんな衣服が私の身体に…」
博士「ずっと着てらっしゃいましたよ。ここへはどうやって来られましたか」
スピリット「誰かから“あそこへ行けば何もかも納得がいくよ。そんなにほっつき歩いても仕方ないよ”と言われてやってきたんだが…来てみると女になってる!」
博士「それはホンの一時だけですよ。私の言ってることを分かってほしいですね。あなたはもうご自分の身体を失ってしまったのです。多分、かなり以前にね…」
スピリット「あの女(バートン夫人)のせいだ」
博士「あなたの方こそあの人を悩ませてきているのです。多分ずいぶん永いことですよ。それに、ほかにも迷惑をかけた人がいるはずですよ。お名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「思い出せません」
博士「あなたはご自分の身体を失って、これまでずっとバイブルにいう“外の暗闇”の中をさ迷っておられるのです。信仰はおもちでしたか」
スピリット「教会とは一切関わり合いたくないね。もう、うんざりだ。牧師は、かくかくしかじかのことをしないと、まっすぐ地獄へ行って、そこで永遠の火あぶりにされるのだと説教する…口を開くと地獄行きのことばかりだ。そんな説教を聞かされたのは、まだ若い時だった。だが、私が言う通りにしないものだから、教会は私に来てほしがらなくなった。私はそんな話はちっとも信じなかった。地獄へ落とされるほど悪いことはしてなかったよ。その教会を出たあと別の教会へ行ってみたけど、そこでも地獄行きの話ばかりだ。イヤになっちゃった。
神さまだの、聖なるものだの、そんな話ばっかりで、その神さまにお金をあげなさいと言い出した。タバコも神さまにあげてしまいなさいと言う。なんで神さまがタバコを欲しがるのか、なんで僅かしかない私の金を神さまにあげなきゃいけないのか、それが分からなかった。
どうしても納得がいかないので、その教会もやめた。そしてまた別の教会へ行ってみた。するとそこでもさんざん説教されたあげくに、私のうしろに悪魔がついていると言われた。私がその教会に寄付をしないからだ、なんて理屈をつける仕末だ。
ある日、何人かの友だちと飲みに行ったことがある。たいして飲んだわけじゃないが、気分良くなった。そのとき思った – よし、今度からは教会の最前列に座ってやろう、と。そして、その通りにやった。他の出席者たちは、私の魂を救って神さまのところへ行けるようにしているのですと言う。牧師は私のすぐうしろに悪魔がいるなどと言うものだから、ちょっぴり怖くなった。“その悪魔があなたを囚(とりこ)にしようとしていますぞ”などと言うものだから、うしろを向いて確かめてやろうかと思ったが、それはしなかった。牧師はいつも私に“さあ、前にいらっしゃい、前に。私たちが、あなたの魂を地獄から救ってあげましょう。こちらへ来て救われなさい。前に来て改心なさい。生まれ変るのです”と言った。
私はしばらく抵抗したが、思い切って前に出てみた。どんなことをしてくれるのだろうと思ったからだ。すると牧師が“ここにひざまずきなさい”と言う。言われた通りにすると、私の頭に手を置いて、みんなで讃美歌を歌い、私のために祈ってくれた。“さあ、今こそ心を入れかえるのです”と言う。
この私のために、出席していたご婦人連中が入れかわり立ちかわり私の頭に手を置いて、祈ったり歌ったりで、えらく仰々しいなと思った。それから牧師がやって来て、“祈らないといけません。さもないと悪魔がついてまわりますぞ”と言う。私は偽善者にはなりたくないから、その牧師に言ってやったよ – “もしも私が罪人(つみびと)だというのなら、私はその罪人のままであり続けて結構”とね。さらに私が“悪魔がそんな人間みたいな存在だとは信じない”と言ってやったら、牧師が怒り出した。こいつは手に負えんと思ったらしい。それでも出席者たちはなんとかして私を改心させようとしたが、ムダだったね。
私はその教会から出て行った。すると何人かの男が追いかけてきたものだから、必死で逃げた。が、そのうちのひとりが追いついてきて私の頭をなぐった。すごく痛かったね。いったん倒れたが、起き上がった。そこは丘の上で、私はそいつを突き落としてやろうと思ったら、逆にこっちが突き落とされて、ゴロゴロと転がり落ちてしまった。止まったところで気がついたら、大勢の人間がいて、その時から急にラクになった」
博士「多分その時、あなたは肉体から離れたのですよ。つまり死んだのです」
スピリット「死んでなんかいません」
博士「そこはどこでした、丘を転げ落ちたところは?」
スピリット「テキサスでした。歩いたり、走ったりしながらいろんな人に話しかけるんですが、誰ひとりとして返事をしてくれない。まるで棒切れに話しかけるみたいで、こっちの頭がおかしくなった。私の家はどこかと尋ねたんだけど…。
そのうち例の痛みを感じるようになった。時おり痛みが消えてしまうこともあった。そうしてるうちに、ひとりの婦人に出会ったら“ついておいで”と言うものだから、ついて行ったら、いつの間にか大勢の人に取り囲まれていて、その婦人もその中にいて、みんなが歌を歌っている(患者のバートン夫人は、しばしば大勢のスピリットの歌声に悩まされていた)。時どき彼女に話しかけたけど、そのうち突然いなくなってしまった。そのあとで例の火の針を刺されるようになった。あれは応えたな(バートン夫人への憑依状態が一段と強くなって、そのために電気ショックをより強く感じるようになったことを暗示している)」
博士「あなたは、今はもうスピリットになっていて、私の妻の身体を使ってしゃべっておられるのです」
スピリット「いったいどうやって私があんたの奥さんの身体の中へ入ったというのかね?それじゃ、奥さんは取っかえ引っかえ、男に身体を任せてることになるが、それでいいのかね、あんたは?」
博士「結構です。そうやって迷っているスピリットに死後の世界の理解がいくまで貸してあげているのです」
スピリット「これは奥さんの衣服ってわけ?少しの間借りてるというわけ?奥さんが私に着せてくれたというわけですか。男なのに女の格好を見せてしまって、情ないね。ここにおいでの皆さんは、私のことをどう思ってるのかな – 気が狂ってる?(笑い声)笑いごとじゃないよ」
博士「あなたは何も知らずに、暗闇の中にいたのです。そのことを教えてあげようとして、高い世界の方があなたをここへお連れして、一時的にその身体を使わせてあげているのです。バートン夫人から離れさせたのも、その方たちです」
スピリット「バートンさんはまた、例の火の針を刺されるのですか」
博士「あなたがバートンさんを離れた時、ほかにまだ誰かいましたか。それともあなたが最後でしたか」
スピリット「例の女性も、もうひとりの男も出て行った。そのあとあんたが私に火の針を刺したんだ。必死で出ようとしたが出られなかった。どうしようにも為すすべがなかった。地獄の話をしてくれた牧師のことが頭に浮かんだよ」
博士「それとは違いますよ。スピリットの世界へ行ってから、どうしたらいいかを教えてくださる高級界の方たちが待っておられます。きっと救ってくれます。ところで、お父さんは生きておられるのですか」
スピリット「知りませんね。もう25年も30年も父親とは会っていません。母親が死んだことは知ってますが、父親がどうなったか、知りません。親戚のことも誰ひとり知りません」
バートン夫人「昨年の11月にお会いしましたね」
スピリット「会いましたね。それ以来ですよ、私の具合が悪くなったのは。あなたのいちばん近いところにいたのは私ではありませんよ。あれは若い女の人でした。ひどく頭痛がします」
博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「1888年か1891年だな」
博士「1920年ですよ」
スピリット「私の頭がどうかしてるんでしょう」
博士「暗闇の中にいらしたからですよ」
スピリット「私は、歩いて歩いて歩きまわっていた。そのうち、あの女(バートン夫(スピリット人)とひっついちゃった。離れたかったものだから、私が蹴ると彼女も蹴り返して、しょっ中蹴りあいっこをしていた。
あれ!あれをごらんよ!私の母親だ!母さん、許してください、母さんの願い通りの人間になれなくて。母さん、この私を連れてってくれないかな?もうくたびれたよ。母さんの世話と助けがほしいよ。連れてってくれますか。ああ、母さん!」
博士「お母さんは何とおっしゃってますか」
スピリット「私の名前を呼んでる。こう言ってる – “ええ、連れてってあげますとも、フランク。長い間お前を探してたんだよ”って。(母親に向かって)私はだんだん弱ってきました。くたびれ果てました。母が言ってます –
“フランク、私たちはお互い本当の人生の理解ができていなかったんだよ。教わるべきことを教わっていなかったからで、このすばらしい神の宇宙について本当のことを何も知らなかった。キリスト教の教えは真実の人生とは遠くかけ離れています。牧師は、信じれば救われると説いているけれど、とんでもない。そんな信仰は障害となるだけです。本当の神を知ることです。私たちはそれを怠っていました。フランク、正しい理解さえできていれば、こちらへ来てから、どんなすばらしい世界が待ちうけているか、お前にも分かってもらえるように、母さんも力になりますよ。人生の黄金律(“すべて人にせられんと思うことは、人にもまたそのごとくせよ” – キリストの山上の垂訓のひとつ – 訳者)を自分の努力で理解して、これからは人のために力になり、奉仕しないとダメですよ。
ねえ、フランク、お前はずいぶん人さまに迷惑をかけてきましたね。少年のころはいい子だったけど、少し元気がありすぎたのね。本当の人生について知らなかったものだから、あたしが死んだら家を飛び出しちゃったわね。家庭がバラバラになっちゃった。お前はあっちへ行くし、他の者はそっちへ行くし…。事情は知らないけど、真理を知ることができていたら…と悔やまれるわね。
さ、母さんと一緒にスピリットの世界へまいりましょ。みんなが真理を理解している世界ですよ。愛と調和と平和と無上の喜びが味わえます。しかし、そこでは人のために生きなきゃダメなの。霊界でも学校へ通って勉強するのよ。これまでみたいに人さまに迷惑をかけてはダメです。さ、フランク、行きましょう。霊界のきれいな家へ行きましょう。” – そう言っています。ありがとうございました。さようなら」
それから数週間後に最後の憑依霊がバートン夫人から離れてウィックランド夫人に乗り移り、監禁されていたことを憤り、先に出ていった仲間たちはどこへ行ったのかと尋ねるのだった。
—–
スピリット = マギー・ウィルキンソン
患者 = バートン夫人
—–
博士「ようこそ。どなたでしょうか」(霊媒の手をとりながら)
スピリット「手を握らないで!さわらないでください!」
博士「名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「マギーです」
博士「マギー・何とおっしゃいますか」
スピリット「マギー・ウィルキンソン」
博士「ここがロサンゼルスであることをご存知でしょうか。どちらからおいでになりましたか」
スピリット「テキサスのダラスです」
博士「ロサンゼルスまでどうやって来られたのですか」
スピリット「ここはロサンゼルスではありません。テキサスです。ずっと蹴り通しでした」
博士「なぜ蹴るのです?」
スピリット「牢に入れられてるからです(バートン夫人のオーラのこと)。何人か一緒にいたけど、みんないなくなっちゃった。あたしだけ置いて、みんな出て行っちゃった。ずるいわ!」
博士「みんなが行ってるところへ、あなたも行ってみたいですか」
スピリット「別に…ほかの人のことなんか、どうでもいいわ。何もかもみんなで取りっこして、あたしはいつも除(の)け者にされてたんだから」
博士「今の状態が少し変だとは思いませんか。死んでからどのくらいになりますか」
スピリット「死んでからですって!いったいあの婦人(バートン夫人)はなぜ、このあたしにつきまとうのですか。あの人はいつも火責めにあってるのよ。ひどいしろものなの。何かの上に乗っかって頭の上に何かを置くと、火の雨が降るの!」(バートン夫人が静電気装置の横の台の上に乗ると、電気ショックの効果を増すために頭から毛布を被せられた)
博士「こんなところにいて、いいのですか」
スピリット「どこへ行けばいいのですか」
博士「霊界です」
スピリット「何です、それは?」
博士「身体から脱け出た人が行くところです。ただし、自分の身の上のことをよく理解した人にかぎってのことですけどね。あなたも何か変ったことが身の上に起きてることに気づきませんでしたか」
スピリット「私は、例の毛布を頭から被せられて火責めにあうことさえ止めていただけたら、それでいいのです。まるでバラバラに叩きのめされたみたいな気分になります。あんな仕打ちに耐えられる人がこの世にいるのですかね」
博士「あれは、あなたを追い出すためにやったことです。今はラクな気分じゃありませんか。あの“発砲”を受けてからあとは何をなさっていたのですか」
スピリット「追い出されて良かったですよ。これまでよりは気分がいいですから」
博士「あなたが今使っておられる身体は、私の妻のものであることはお分かりですか」
スピリット「冗談じゃないわ!」
博士「今使っておられるのは私の妻の身体なのです」
スピリット「あなたの奥さんの?バカバカしい!」
博士「着ていらっしゃる衣服に見覚えがありますか」
スピリット「そんなことはどうでもいいことです」
博士「どこで手に入れられました?」
スピリット「泥棒扱いしないでください!警察を呼びますよ。警察署を見つけ次第、逮捕状を出してもらいますからね」
博士「では、マギー、あなたの髪は何色ですか」
スピリット「ブラウン – ダークブラウンです」
博士「(霊媒の髪にさわりながら)これはブラウンじゃありませんね。この衣服士もぜんぶ私の妻のものですよ」
スピリット「私のものであろうがなかろうが、私はかまいません。私から頼んだわけではありませんから」
博士「死んでからどのくらいになりますか」
スピリット「私は死んではおりません。あの話をするかと思うと、この話になる…」
博士「私がお聞きしているのは、あなたが身体を失ったのはいつだったかということです」
スピリット「私はまだ身体はなくしておりません。墓に埋められてはいません」
博士「病気になって、そのうち急に良くなったというようなことはありませんでしたか」
スピリット「病気がひどくなり、そのうち急にラクになったと思ったら、牢に入れられていました。私はウロウロしていましたが、そのうちある女性が私を何かと邪魔だてするようになりました。私のほかにも何人かいましたが、例の火責めにあって、みんな出て行ってしまいました」
博士「ロサンゼルスに来られたのはいつですか」
スピリット「ここはロサンゼルスではありません。テキサスのダラスです。もしもここがロサンゼルスだとしたら、私はいったいどうやってきたのですか」
博士「赤い髪をした女性と一緒に来られたに相違ありません」(バートン夫人がすぐ側に腰かけている)
スピリット「彼女には私をここへ連れてくる権利はありません」
博士「彼女もテキサスから来たのです」
スピリット「ほかの人たちはどうなったのですか」
博士「自分の身の上についての理解がいって、無事、霊界へ旅立たれました。あなたもそこへ行くべきなのです。なぜこちらの女性につきまとうのですか」
スピリット「つきまとう?とんでもない!私はずっと牢の中にいるのです。身動きが取れないのです。出ようとして、いろいろやってみたのです。私を見かけた人たちは、私を救い出してやるなどと言っていながら、結局誰も出してくれなかった。私があんまり騒ぐものだから、私から逃げ出したのよ」
博士「多分、その方たちが、あなたをここへお連れしたのですよ」
スピリット「私に見えてるのは、ここに腰かけている人たちだけです」
バートン夫人「あなたは私についてここへ来たのですね?私を苦しめてどうしようというのです?」
スピリット「私はあなたとは何の関係もございません。あれ!あなただわ、この私を牢に閉じ込めたのは」
バートン夫人「あなたと一緒だった女友達は何という名前でしたかね(同じくバートン夫人を悩ませていた別の霊のこと)?」
スピリット「どこでの話ですか。テキサスでのことですか」
バートン夫人「そうです」
スピリット「あの人はメアリーといいました。もうひとり、キャリーというのがいましたけど…」
バートン夫人「キャリーも一緒に来てますか」
スピリット「もちろんよ。ねえ、あなたはなぜこの私を閉じ込めといたのよ?なぜ出してくれなかったのよ?」
バートン夫人「私は出て行けと言い続けたじゃないですか」
スピリット「それは知ってたわ。だけど、あなたはドアを開けてくれなかったじゃないですか」
博士「自分の心の中で、この人の身体から離れるのだと思い込めば、それで離れられたのですよ」
スピリット「思い込んで離れるなんて、私にはできっこありません」
博士「スピリットの世界のことが分かってくると、できるようになるのです。できないのはその原理を知らないからです」
スピリット「(バートン夫人に向かって)ねえ、あなたは何のために私をあなたの側から離れられないようにしたのよ?」
博士「あなたは“招かれざる客”だったのですよ」
バートン夫人「あなたがいなくなってくれて、さっぱりしているところですよ」
スピリット「私の方こそよ。あんな牢から出られて、せいせいしてるわ。なぜおとなしく出してくれなかったのよ?さんざんノックしたのに、出してくれなかったじゃない。(博士に向かって)あなたがあの火の贈り物をくださったお蔭で出られたのね。有り難く思ってるわ」
博士「この前の治療のあと、出たのですね?」
スピリット「あれを“治療”とおっしゃるのね」
博士「あれで夫人の身体から離れられたのなら、立派な治療ですよ」
スピリット「あれで私がどれほど苦しい思いをしたか、ご存知ないのね。とくに、あの針で突き刺すやつ – あれをやったのは、あなただったのね?大きらいよ、あんたなんか!」
博士「あなたを出すために、あの夫人にあのような手荒い治療を施さねばならなかったのです」
スピリット「あなたは、あの悪魔の機械を小さな神さまみたいに思ってるんだわ。あなたは私にどこかへ行ってほしいと言ったわね。どこでしたか」
博士「スピリットの世界です」
スピリット「それはどこにあるのです?」
博士「肉体を捨てた者が行くところです。ただし、それには理解(さとり)が必要です。あなたは肉体はなくなりましたが、まだ理解ができていらっしゃらない。それであのご婦人に迷惑をかけてきたのです」
バートン夫人「あなたや他の人たちに出ていただいたあとは、ドアをきちっと閉めて、あなたたちの誰ひとりとして、2度と入れないようにしますからね」
博士「自由になった“つもり”になれば、それで牢に閉じ込められた気分にはならなくなります。肉体をもった人間は思っただけではどこへも行けませんが、スピリットにはそれができるのです。あなたは私たちには姿が見えません。あなたはスピリットとなっており、一時的に地上の人間の身体を使っているのです。それが私の妻というわけです」
スピリット「前にもそんなことをおっしゃったわね」
博士「どこか変だとは思いませんか」
バートン夫人「マギー・マッキンをご存知でしょう?」(もうひとりの憑依霊で、バートン夫人は霊視で確認していた)
スピリット「知ってます。メアリーも知ってます」
博士「肉体から出た時はおいくつでしたか。昔のことを何か思い出しませんか」
スピリット「馬に乗って出かけていた時に、いきなりその馬が走り出して、それから何もかも真っ暗になりました。それからのことはあまり覚えていません」
博士「今年は何年だかお分かりですか」
スピリット「そんな質問に答える必要はないでしょう。いったいあなたは弁護士?それとも裁判官?いったい何なの?」
博士「私は“火夫(ファイアマン)”です。今年が1920年であることをご存知ですか」
スピリット「そんなこと、どうでもいいことです(指を鳴らす)。私の知ったことではありません」
博士「さぞ苦しみから逃れたいだろうと思っていたのですがね」
スピリット「私はただ、あの牢から出たいだけだったのです。今はとてもラクで、ここしばらく味わったことがないほどです」
バートン夫人「牢から出していただいたことを、先生に感謝しなくてはいけませんよ」
スピリット「冗談じゃありません。私に火を放射した罪で逮捕されるべきですよ。まるで頭が狂いそうでしたよ」
博士「お知り合いの方が見えているのが分かりませんか」
スピリット「ふたりのインディアンの姿が見えます。ひとりは大柄な方で、もうひとりは少女です。カールした髪と青い目をした婦人も見えています」
博士「“シルバー・スター”と呼んでみてください。少女の名前ですよ」(ウィックランド夫人の背後霊のひとり)
スピリット「うなずいています」
博士「その方たちが、霊の世界での向上に力になってくれますよ」
スピリット「私は自信があります。きっと天国へ行けます。教会へも通ったし、まじめな女でしたからね」
博士「今見える人たちもみんな、あなたと同じスピリットなのです。私たちには見えていないのです」
スピリット「でも、同じようにそこにいますよ。その人について行けば、素敵な家に案内してくださるんですって。うれしいわ!しばらく家をもっていないんですもの。もうあの火責めにはあわないのでしょうね。あの赤い髪の婦人のところへは行きませんからね。神さまに感謝します」
博士「さあ、もう自由なんだと心に思って、その方たちと一緒に行きなさい」
スピリット「分かりました。行きます。さようなら」
バートン夫人が初めてわれわれのところへ来た時は、どんな仕事もできなかったが、今では大きな商店の事務員をしている。
↑目次へ↑
■2025年11月12日UP■「迷える霊との対話」第1章 除霊による精神病治療のメカニズム をUPです(祈)†よく“地下牢”または“土牢”という言葉が出てくるが、これは手に負えないスピリットをマーシーバンドがとらえ閉じ込めておく場所で、そのあと霊媒に乗り移らせると、今まで地下牢に入れられていたと文句を言う者がいる。これは、高級霊になると、ある霊的法則を利用して牢に似た環境をこしらえることができるのである。出口がひとつもない独房のような部屋で、頑固なスピリットはそこに閉じ込められて、どっちを向いても自分の醜い性格と過去の行為が映し出される。これは実際は“心の目”に映っているのであるが、本人は客観的に映っているように思い込む。その状態は、悔い改めの情が湧き新しい環境へ適応して向上したいと、みずから思い始めるまで続けられる。私の妻の霊媒能力は、無意識のトランス(日本でいう神がかり、ないし入神状態 – 訳者)である。その間ずっと目を閉じ、睡眠中と同じく精神機能は停止状態に置かれている。したがって、本人にはその間の記憶はない。そうした体験に対して異常な反応を起こすこともない。常に理性的であり、頭脳は明晰で、性格は陽性である。この仕事に過去35年もたずさわってきて、1度も健康を害したことも、いかなる種類の異常を見せたこともない…続きを読む→
■2025年11月5日UP■「動かぬ」何が何でも僕を閉じ込めるという霊団の強い決意の表れ、もう最悪(祈)†僕は「霊言を降らせるのはムリでも自動書記なら降らせられるのでは」と思って、以前11ヶ月にもわたって自動書記を実現させるためのトランステストを続けた、という事がありました。しかし11ヶ月続けても1文字も降らなかったので僕はキレてトランスをやめたのですが、もしかして霊団が僕の反逆を受けてバーバネル氏による霊言をあきらめ、モーゼス氏にお呼びがかかって僕を自動書記霊媒として使用する事を本格的に考え始めた、という意味でこのインスピレーションを降らせてきたのでしょうか。霊団の真意は分かりませんが、とにかくサークルメンバー問題が絶対に解決不能ですから僕という霊媒が霊言霊媒として機能する事は不可能だと思うんですよ。なので自動書記霊媒として僕を使うつもりというのが霊団の意思であれば僕は全然賛成ですね。ま、霊団がアレやるコレやる言って本当にやった事がこの13年間ひとつもありませんので、僕は完全に冷めて見ています…続きを読む→
■2025年10月29日UP■「洗脳罪」ずっと書けずにいた事について少しだけ触れてみようと思います(祈)†この言葉をそもそも思いついたのは「宇宙一のバカ」大量強姦殺人魔、明仁、文仁、徳仁、悠仁はじめ歴代の天皇経験者が、幾千年の長きにわたり徹底的に国民を洗脳し続けてきた、その洗脳を何とか撃ち破れないか、という思いからでした。僕は物的な事が苦手ですので、この洗脳罪というモノがどういう法律か、自分で言っておきながらうまく説明できませんが、国民に意図的に事実でない情報を流し、間違った方向に誘導して自身の利益を確保しようとする者を罰する(最高刑は終身刑)とでも言えばイイのでしょうか。まぁ僕の足りない言葉で説明しなくても皆さまはだいたいお分かり頂けると思うのですが、要するにこの地球圏物質界は、世界中どこを見ても、どの時代を見てもひたすら洗脳、洗脳、洗脳であふれかえっています。その洗脳の弊害を何とか無くせないモノか、と思って僕の足りない頭でこういう言葉を考えたりした訳です…続きを読む→
■2025年10月22日UP■「チリチリン♪」強風の稜線上で鮮明な鈴の音が…物理的心霊現象か?(祈)†もう共同で仕事する事は不可能、破綻していますよね。何より僕の心にもう霊団に対するリスペクトの気持ちが全くありませんので、謙虚を失った人間が霊の道具として機能する事はあり得ませんので(上位である霊団の指示に従えない人間は霊の道具として仕事する資格がない)僕がもう資格なしという事で使命遂行終了という事になるのではないかと思ったりするのです。で、敗者の負け惜しみになりますが、僕はもうコレ以上イジメを受け続けるくらいならそれでイイと思ってまして、霊団にはとにかく僕の前から消えてなくなって欲しい、そして僕は僕レベルでできる限りの霊的知識普及の作業をやるつもりでいるのです。本当なら「画家に戻る」というべきところを、画家に戻らずに霊的知識普及の作業を続けるって言ってるんだから、反逆しているワリには相当譲歩していると思うぞ。あんたたち(霊団)も自分たちの導きの失敗を認めるなら、潔く身を引いてもイイんじゃないのか…続きを読む→