【3/10】コナン・ドイルの心霊学 キリストは空前絶後の大霊能者

このように、バイブルの中の心霊現象とスピリチュアリズムの現象はとても似通っているのであるが、ひとつだけバイブルの現象で本当に奇跡としか言いようのないものがある。例の死者を生き返らせた話である(ヨハネ11章)。もしも間違いなく“死んだ”人間を生き返らせたのだとしたら、これに類する現象は近代スピリチュアリズムには見当たらない。
しかしキリストにはそれすらやってのける霊力があったのであろう。死んで4日もたったラザロを生き返らせたという。が、その箇所をよく読んでみると、心霊学の知識のある人には納得のいくことがひとつある。
墓へ下りていく時のキリストが“うめいていた”とある。これは聖書学者も合理的な解釈ができずにいるところのようであるが、心霊実験会に出席したことのある方なら、何か大きい現象が起きる時は霊媒がうめき声を上げることがあることをご存知であろう。
それにしても、このラザロの生き返りの話は奇跡中の奇跡というべきである。人間的能力を完全に超越しており、自然法則の延長としての心霊的法則を利用して行なったことだった。キリストが神だったのではない。理論的にはわれわれにも可能なことなのである。ただ、キリストはケタ違いの能力を持っていたということである。
これとは反対に、バイブルには例が少なくて近代スピリチュアリズムにおいて頻繁に見られる現象に、直接談話がある。これは霊聴能力とは異なる。スピリットの声は主観的なもので、その人にしか聞こえないが、直接談話はその場に居合わせた人なら誰にでも聞こえる。これは古い記録にはあまり見られない。
カメラを用いる心霊写真現象も、もちろん近代においてのみ見られる新しい現象である。私自身が厳粛な気持で真実性を証言できる写真が何枚かある。紛うかたなき死者の容貌をしているのみならず、それと同じ写真がこの世に存在しないことが判明しているのである。確認する意志のない人間には、いかなる証拠も証拠とはなりえないものだ。
12人の弟子の選定基準は?
ところで、キリストは12人の弟子を選ぶ時に何を基準にしたのであろうか。キリストを慕う者は数え切れないほどいたはずである。その中からわずか12人を選んだ、その選定基準は何だったのであろうか。私の憶測にすぎないかも知れないが、一応考察してみるのも無駄ではあるまい。
まず、知性と教養を基準としたのではないことは、その12人の中でも傑出していたペテロとヨハネでさえ“無学で無知”と表現されているところから明瞭である。徳性の高さでなかったことも、ユダという裏切り者がいたことから確かである。
しかも12人のすべてが、キリストの非業の死の現場に姿を見せていない。師を見捨てているのだ。崇拝の念の強さでもなかったであろう。キリストへの崇拝のなら、他の無数の信奉者もその強さにおいては負けていなかったはずである。が、ここでひとり選び、あそこでふたり選ぶというふうに弟子を指名していったところをみると、何か基準があったに相違ない。
それは、霊的能力であったとみてまず間違いないであろう。地上人類としては最高といえる霊的能力を発揮したキリストは、たとえ程度においては劣っても、同じ霊的能力をそなえた者を身のまわりに置いておきたかったはずだと思う。それにはふたつの理由が考えられる。
ひとつは、近代の実験会でもそうであるが、ひとつのサークルができると、霊媒自身の能力にさらにパワーが付加されるという事実がある。サークルのメンバーのオーラの調和が、プラスアルフアのパワーを生むのである。
キリストがそうした霊的雰囲気に左右されていたことを物語る事実として、キリストを快く思っていない生まれ故郷に帰った時は、何ひとつ驚異的な現象を見せることができなかったことが、福音書に述べられている。
もうひとつの理由は、自分の、在世中か死後かのいずれであるかは別として、キリストは多分、弟子たちに自分に代って同じ仕事をやってほしかったのではないかと思う。それには当然、相当な霊的能力が不可欠だった。

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