夜が訪れた。太陽という金色の稜(織物に使う道具)が、弛んだ縦糸を使って多色の衣服地を織ろうとしているかのように、ガリラヤの山々や湖の様子が無気味な色に見えていた。
ヘリとイエスは、岩だらけの道に立ってカルメル山の方角を眺めていた。少年イエスの心には、様々な疑問が浮かんでいた。海をへだてた向こう側にある外国はどんな処なのだろうかと。ヘリにきいてみた。ヘリは答えた。
「私には悲しい思い出があるのだよ。一体どんな人の中に真実があるのか、一生けんめい探し求めていたのだよ。こいつは本当に大変なことでね、ダイヤやオパールを探すよりもむずかしいのだよ。法律学者やパリサイ人にも逢ってみたが、全然だめだった。
私が若いころ決心して、色んな人間に逢って勉強したいと思ってね。石工として働きながら、あちこちの町々に行ってみたのさ。テベリヤ、それからピリポ・カイザリヤなどではね、異教の神々を祀る神殿の土台造りをやってみた。また、船員になって、アンテオケ、アテネ、アレキサンドリヤ、エペソといった大きな町にも行ってみたのさ。
ある期間中にその町々に住んでみて、色々な人と逢ってみたのだが、誰1人として幸せや平安を教えてくれたものはいなかった。ところがね、ある日のこと、東方からやってきた1人の男に私にその人の国に来てみないかとさそわれてね。もしかしたらお前の探しているものがみつかるかも知れないと言うのだよ。それで私は軍人になって、ある金持ちの商人に雇ってもらったんだよ。
この商人は、たいした方で、沢山の隊商を動かし、没薬、乳香、その他沢山の高価な商品をアラビヤ砂漠の向こうから運ばせていたのだ。それで宝物を泥棒から守る護衛に任命されたという訳さ。私はある時、インドの大きな町にやってきたとき、これが東方の世界だなと思ったのさ。
けれども私には、そこに喜びも平安も感じられなかったのだ。私は青春時代のすべてを賭けて探しだそうとしたのだが、段々とやる気を失ってね、いやになってしまったんだよ。大きな町には神様が住んでおられるとは思えなかったのだ。
王宮の周辺には、きらめくような寺院が並んでいた。王や支配者の華麗な建物とは裏腹に、狭くて汚ない小路をはさんで、飢えた人々や、障害者が住んでいるのだよ。曲りくねった道端には、目のない乞食が、あちこちにいて、両足をふるわせながら嘆き声をあげているんだよ。
主人の手で肢体をもぎとられた奴隷たちが路上に座っており、汚れきった小さな部屋の中には、病人がうずくまっているんだよ。どんな悪いことをしても、この町ではとるに足らぬ小さなこととして処理されてしまうのだ。
町がどんなに美しくても、私は苦悩している人々、貧しい人々、奴隷の流す涙などに目をつむることができなかったのだよ。しかもこの様な人々が浜の真砂のように沢山いるんだよ。イエスよ、人々が集まる町という所は、強盗と悪人の巣のようなものなんだ。喜びの代りに絶望が待ちうけているんだよ。
私は遂に荒野に出て、流浪を続ける一部族とばったり出逢ったのだ。この部族の人々はとても強く、烈しい性格で、時折お互いに斬り合ったり、旅人を襲ったりするんだ。彼らはまるで砂漠や岩山の陰に潜むハイエナみたいなやつなのだが、町の人々には見られないすばらしいものを持っているんだ。
自分がどんなに喉が渇いていても、水を求める人には水筒の水をそっくり飲ませてしまうような人類愛は、まさに王侯貴族に勝る気高さを感じさせるんだ。私自身がアラビヤの不毛な地を旅して死にかけていたとき救ってくれたのも、この砂漠の流浪部族だ。
そのおかげで、今まで失いかけていた神への信頼が呼び戻され、この連中と一層親しくなってしまったんだよ。烈しいこの人々には私が町の人々に発見できなかった知識と知恵があるんだよ。それで私はもう石工や船員や兵隊などをやめて、この連中と一緒に暮らすことにしたんだよ。流浪の旅というやつは、とても辛いものだが、ようやく今までの苦労がむくいられたという訳なんだ」
イエスはすっかりおどろいて尋ねた。「彼らはどんなすばらしいものを持っているんですか?」ヘリは答えた。「私が町でこせこせと暮らしていた時には、エホバ(神)の道は隠され、私の心は病んでいた。あの砂漠の中で流浪の部族と暮らしている時には、エホバの道は明るく私を導き、心のうちに喜びがあふれるのだ」
イエスはこの話を聞いてヘリに懇願した。「ねえ、僕もそこへ連れていって下さい」「今はだめだ、イエス。とにかくお前が今すぐやるべきことは、御両親と和解することだよ。お前の体は柔らかだから、到底やけつくような日射しのもとで、飢えの連続という厳しい生活は無理だ。3年がまんしろよ。
そうしたらきっとお前を連れてってやるよ!きっとお前は砂漠の古老から、エルサレムの律法学者や文献などでは得られない知恵を受けるだろうよ。神殿にたむろしている学者が口にすることは、まるでアジアの苦い葡萄酒のようで、我々の理解力を鈍らせるばかりか、世界の靄(もや)の中で手探りさせるばかりだよ」
イエスは力強く言った。「わかった。ヘリの約束を信じて待っています」「そうとも。必ず約束を果してやるよ。私はこの流浪人から始めて信仰の道を学ぶことができたんだからね。彼らは烈しく残酷なところがあるが、町の連中のように偽善はやらないぜ!彼らが口にする言葉は、まるで山に横たわる不動の岩山のように、真実そのものなんだよ」
2人は暫くの間沈黙しながら、金色に輝いているカルメル山が次第に夕闇に包まれていく光景を眺めていた。山の輝きが雲に蔽われていくさまは、実に神秘そのものであった。
2人は森まで降りると、夕食の仕度にかかった。火を熾し、魚を焼いた。水は小川からくんできた。月が頭上高くあがる頃、2人は残り火の上にポットを載せて薬草を入れ、煮だした。ヘリはイエスに病気の癒し方を伝授した。ひとつは、何種類かの草を混ぜ合せ、薬草の効力を高める方法と、もうひとつは、意識の働きによって治療者の体の中に治癒力を湧出させる方法であった。
夏の間、ヘリの董陶を受け、遂にイエスは自分の体の中に治癒力が湧き出るようになるのを感じた。そしてその力を病人に与える方法や、その力が尽きた時に補給する方法も会得することができたのである。
ヘリは、この少年が常ならぬ若者であることを感じ取っていた。彼の魂は強靱で、肉体は治癒力の倉庫にふさわしく清らかであった。彼は、医者として求められる、生命力の増強に適したあらゆる条件を備えていた。ヘリは細心の注意力をこめてイエスに言った。
「お前は、大人になったら、さぞかし大きな働きをするようになるだろうよ。でもな、断わっておくが、お前の力は、お前に心を開き、お前を信じようとしない限り癒すことができないよ。だから病人を見て、どうしたらこの人に信仰を持たせることができるかどうかをよく見極めた上でやることだね」
朝早く、日の出の頃をみはからって、ヘリはイエスを座らせ、治癒力を豊かに備えている目に見えない体(霊体、幽体)に刺戟を与え、その力をひき出す業を施した。この業を通して語られた知恵の言葉によって、イエスは、此の世のものではない天の知恵に充ち満ちた平和と甘美を味わったのである。
イエスは、週に3回ほど、陽が沈んでから、ナザレの丘のふもとまで降りてきて、マリヤ・クローパスと幼いヤコブと逢い、食べ物と様々な情報を受けていた。ある日のこと、幼いヤコブからとても悲しい報せを聞かされた。多くの人々が高熱にうなされているという報せであった。
ヨセフが可愛がっていたレアまでも高熱にやられ、危篤状態になっていた。イエスはころげるようにヘリの処へやってきて、ヘリに薬草を持ってナザレに行ってくれないかと哀願した。ヘリはうつむきながら答えた。
「私がナザレに行けば、みんな私めがけて石を投げつけるだろうよ。私がナザレを出るときには、私のことを砂漠の犬と罵ったくらいだからな。どうして私を軽べつした人々の手で私の平和をこわそうとするんだ。私は2度と町や村には行かないと心に誓ったんだよ。では、こうしようじゃないか。私がこの小川で休んでいる間、レアのことを観察してはどうだろう」
「此処から5キロ以上もある所で寝ている子供を、しかも4つの壁に囲まれている部屋の中をどうやってみることができるんですか?」「しっ!だまって。レアがこの小川の水面に映るかもしれないぞ!」ヘリはそう言いながら小さな岩で囲まれた池の水面を見おろしていた。
ひな鳥が母親の翼の陰でゆったりとしているような1日が流れた。やがて夜になってから、ヘリが頭をもたげながら言った。「こんな馬鹿げた連中には、レアの病気なんか治せっこないさ。みんなレアの周囲をびっしりとりまいているだけなんだ。
レアの熱はどうも最高に達しているようだが、僅かばかり体力が残っているから、もう3日間ぐらいはもつだろうな。今週の終り頃、安息日(土曜日)が来るまでは、死の天使の手にはかけられないだろうよ」とのことを聞いていたイエスは、もっと強くヘリに行ってほしいとたのんだが、頭をたてにはふらなかった。
「そうだ、お前の体に治癒力をみたしナザレに行かせよう!水がいっぱい入っている水差しのように、お前の体の中に治癒力が充満していれば、きっとお前が妹の生命を救えるかもしれない、少くとも死の道をたどっている苦しみを和らげてやれるはずだ」
イエスは、否応なしに彼の言うとおりに従った。それからヘリは、一昼夜の間、少女の体を蝕んで死に追いつめようとしている悪霊に打ち勝てるだけの強い力をイエスに授けるのに全力をかたむけた。ヘリは1時間程やすみを入れ、空飛ぶ燕のように心を解放した。弟子もよく師の言うことに従った。
もう一度あの小川の池を覗きこんだ。「ああ!レアがひどい熱にうなされているのが見えるぞ!お前の母さんがレアの部屋には居ない。馬鹿な連中が大勢レアのベッドの周囲でベチャクチャお喋りしてやがる、一体病人をなんだと思っているんだ。野性の驢馬のように大声で喋っていやがるんだ。お前の父さんは、どうしたらよいかわからずに、家中をうろうろしているだけだ」
イエスは言った。「ねえ、僕もう行ってもよいでしょう?」「いや、まだ早い」「レアが死んでしまったらどうするんですか。ただ、じっとここで彼女が死ぬのを待っているんですか」「お前が彼女を救うときがまだこないのだ。お前の体は疲れている。それじゃなんにもならないんだ。治癒力がまだ充分じゃないんだよ」
「愛するレアが死んでしまう!」イエスは両手をねじり、頭を垂れ、初めて味わう深い悲しみにわなわなと手足をふるわせていた。ヘリは鋭い口調でイエスに言った。「私の言う通りにしなさい!そうすればレアは助かるだろう。私にさからえばレアの生命は保証できない!」
イエスはもう何も言わず、賢者の後に従って山から降り、湖の岸辺までやってきた。ヘリは何時間も黙っていることがあった。この夜ばかりは彼の無言はこたえた。2人は無言のまま歩き、小山の処に来て乾いた葉を敷いた。ヘリはただひとこと「ねなさい!」と言った。イエスはそこで横になった。湖畔の柳の樹々が星の光をさえぎっていた。深い眠りが彼の瞼を閉じさせた。
イエスが目をさましたときは、あたかもリンゴの花の満開のときのように、熟睡のあとの爽やかさを味わった。そのとき、ヘリが遂に口を開き、イエスに命令した。
「ただちにナザレに行きなさい。右にも左にも曲がらずに、真っすぐお父さんの家に急ぎなさい。お前が悪霊をたたき出すんだ!お前が偉大な霊の力から流れ出る美しい旋律の容器となって働くのだ。ひとつだけ忠告をしておこう。恐れないことだ。
恐れることは霊力の援軍を裏切る行為なのだ。怒ってはいけない。また悲しみに負けてはならない。感情に負けて理性を失わないように気をつけるんだ。感情でぐらついた体や心は、偉大な霊の力に仕えることができないからだ」
イエスは頭をたてにふり、彼の親切な忠告に充分気をつけますと返事をした。イエスはまたたく間に姿を消した。イエスに知恵を伝授したこの流浪の人は溜息をついて、独り言を言った。
<彼は自分では気付いてはいないが、もうすでに1人前の教師になっている。何年も苦労し、食を断って修業した私にも、まだ与えられていない大きな霊力がすでに備わっているようだ。彼ほど心の美しい汚れのない人間は他に見たことがない。娑婆で汚されなきゃいいのだが>
■2023年6月21日UP■「悔し涙を拭う必要はありません」これは帰幽後に悲しみが喜びに変わるという意味です(祈)†次第にあの土地の光輝と雰囲気が馴染まなくなり、やむなく光輝の薄い地域へと下がって行った。そこで必死に努力してどうにか善性が邪性に勝(まさ)るまでになった。その奮闘は熾烈にしてしかも延々と続き、同時に耐え難く辛き屈辱の体験でもあった。しかし彼は勇気ある魂の持ち主で、ついに己れに克(か)った。その時点において2人の付き添いに召されて再び初めの明るい界層へと戻った。そこで私は前に迎えた時と同じ木蔭で彼に面会した。その時は遥かに思慮深さを増し、穏やかで、安易に人を軽蔑することもなくなっていた。私が静かに見つめると彼も私の方へ目をやり、すぐに最初の出会いの時のことを思い出して羞恥心と悔悟の念に思わず頭を下げた。私をあざ笑ったことをえらく後悔していたようであった。やがてゆっくりと私の方へ歩み寄り、すぐ前まで来て跪き、両手で目をおおった。鳴咽(おえつ)で肩を震わせているのが判った。私はその頭に手を置いて祝福し、慰めの言葉を述べてその場を去ったのであった。こうしたことはよくあることである。†…続きを読む→ ■2023年1月18日UP■「クスリ」霊団が意図的に僕を苦しい状況に閉じ込めているという意味です(祈)†海で隔てられていても大霊の前では兄弟であり姉妹なのです。私たちの教えは単純です。しかし真実です。自然の摂理に基づいているからです。摂理を無視した方法で地上世界を築こうとすると混乱と無秩序が生じます。必ず破綻をきたします。忍耐強い努力と犠牲を払わない事には、これからも数々の戦争が起きる事でしょう。タネを蒔いてしまった以上はその産物を刈り取らねばなりません。因果律はごまかせないのです。流血の争いというタネを蒔いておいて平和という収穫は刈り取れません。他国を物理的に支配せんとする欲望の張り合いをしながら、その必然の苦い結果を逃れる訳にはまいりません。愛のタネを蒔けば愛が実ります。平和のタネを蒔けば平和が実ります。互助のタネを地上のいたるところに蒔いておけば、やがて互助の花が咲き乱れます。単純な真理なのです。あまりに単純すぎるために、かえって地上の“お偉方”を当惑させるのです…続きを読む→ ■2022年12月14日UP■「霊界にはたどり着く」当たり前だろ、霊団がもう使命遂行やる気ゼロという意味です(祈)†僕は間違いなく「宇宙一のバカ」大量強姦殺人魔、明仁、文仁、徳仁、悠仁に殺される→霊団はその危機を回避させようとして明仁、文仁、徳仁、悠仁および奴隷の女の子の情報を僕に降らせないようになっている(イヤ少しは降らせてきていますが)→僕の使命遂行の力点を明仁、文仁、徳仁、悠仁の滅亡および奴隷の女の子の救出から交霊会開催へと転換させようとしている→しかしサークルメンバー問題が解決しないので僕の霊媒発動はない→邪悪は滅ぼそうとしない、奴隷の女の子は助けようとしない、交霊会はできない、全く目標に到達せずただ苦難ばかりを延々とやらされる状況に突入しているために、僕の霊団への怒りが制御不能に達する→交霊会ができない不足分を「絶版書籍の復刊」の作業で補いつつ、霊団に破壊された生活を何とか少しでも改善させようと僕は「反逆」を開始するが、一向に反逆は完成しない…続きを読む→