ユダヤの丘陵地帯には、夏の強い日射しを避けるものが殆んど無かった。それで春が過ぎてから戸外での労働は、まさに疲労との戦いである。不運にも昼の間全く休めない連中の辛さといったら地獄の沙汰である。
年老いたおかみさんは病いに倒れ、死んでしまった。それでその分だけマリヤの仕事が増えてしまった。旅館全体の掃除はもちろんのこと主人やお客の世話までしなければならなかった。キレアスは年をとって気むずかしく、マリヤに対し口うるさく、朝から晩までのベつ小言を言い通しであった。
マリヤはもう夢を見るどころではなかった。彼女が一寸でも手を休ませようものなら、大声をだして彼女を責め立てるのであった。こんな状態が一年近くも続いたので、17才という娘盛りのマリヤの頬はこけ、骨と皮となり、涙も乾いてしまうほどであった。
ガリー船を漕ぐ奴隷のようにこき使われていたのである。一番悲しかったことは、夢がすっかり奪われてしまったことで、彼女の疲労はその極に達していた。神様の臨在感もうすれ、静かなひとときでさえ神様と話すこともできなかった。
マリヤは全く独りになることが出来ず、苦しみから逃れる術もなかった。彼女は遂に馬小屋の入口に躓いて藁の上に倒れてしまった。それでも主人に殴られるのではないかと思い、足をひきずるようにして仕事を始めるのであった。そんな状態で来る日も来る日も1日中牛馬のようにこき使われていたのである。
秋が近づいた頃、マリヤの体力は限界に達していた。妙な恐怖感が彼女の魂を襲った。夕闇がせまった頃、周辺の谷間には悪霊が行ったり来たりしているような気配を感じた。悪霊が彼女の耳元で囁いた。その悪霊はキレアスの下僕で、マリヤが馬小屋に居る間中見はるためにやって来たと言った。
マリヤは一睡もできず、ひと晩中悩まされ続けた。彼女は大声をあげて叫びたかった。悪霊が彼女のまわりをうろつき、棍棒で殴りつけるからである。彼女には、こんな恐ろしいときでも祈る力さえ与えられなかった。マリヤはひとことも口がきけなかった。神様は自分のことをすっかり忘れてしまったと思いこんでいたからである。
あくる日の夕方、ガリラヤ地方へ向かう旅人の一団がやってきて旅館にとまることになった。その中に“ミリアム”という女がいた。彼女は昔マリヤの家の隣りに住んでいて、マリヤが丘で祈っていた頃マリヤのことをひどく嘲笑した張本人であった。
マリヤがこの一団のため手早くもてなしている最中に、あやまって水差しを落としてしまった。主人はマリヤを呪い出し、ありとあらゆる悪魔の名前を挙げながら彼女を罵った。ミリアムは目ざとく引きつっているマリヤと知ると大声で言い出した。
「これはこれは、マリヤじゃないか!漁師の娘で、ナザレでは評判の悪い娘だったね。うちの娘がさ、この悪魔の娘とおしゃべりしても被害はなかったけどさ、本当に呪われているよ、この娘は!この家からおん出してしまいなよ。そうすりゃ、あんたも楽になるだろうよ」ミリアムはしきりに自分の娘をヨセフと結婚させたがっていた。
それなのにヨセフは、マリヤ以外の娘には目もくれないことをよく知っていたので、わざと大げさにマリヤの放浪ぐせを悪くののしったのである。マリヤはすっかり縮みあがり、まるで鋭い槍で胸を刺されたように呻き悲しんだ。ミリアムの亭主は旅館の主人に充分な金を払った。
この主人にミリアムの噂を信じさせるためであった。キレアスはミリアムを喜ばせようと思い、いきなり棍棒をふりあげ、マリヤを家の外へつきとばし、体中をめったうちにした。マリヤは気絶して石の上に卒倒してしまった。キレアスはそのようなマリヤに目もくれず家の中に入り、ガリラヤから来た連中の話に耳をかたむけていた。
夜になってマリアは目を覚まし、体中に烈しい痛みをおぼえた。這うようにして馬小屋に戻った。翌朝目を覚ましたときには高い熱を出していた。1週間が過ぎてようやくマリヤは藁の上に立ち上れるようになり、熱もさがった。しかし彼女には恐怖がおそった。
もう自分にはキレアスに仕える力がない、そんな自分は家から放りだされ、野原で野垂れ死にするのではないかと思った。それ程キレアスという男は非情な人間であった。
その日の夕方、キレアスはパンと水を持ってきて言った。「明日までに起きられなければ、おれはお前を野原にひきずり出してやる、そこで死んじまったらいいさ!もうおれは、ガリラヤで悪魔よばわりされていた奴の面倒を見てやるもんか」キレアスが出て行くと、マリヤは立ち上り、遂に舌のもつれが解けて神に祈り始めた。
余りにも心細かったので、叫ぶように神をよばわった。どうか天使をつかわして窮地からお救い下さいと祈った。マリヤは荒野でジャッカルや狼の餌じきになったら大変だと思ったからである。
キレアスの脅迫に怖れおののいて叫び声をあげていると、耳元で「マリヤよ、マリヤよ」という声がきこえてきた。その声が非常におだやかであったので、天使のささやきであると思った。彼女の祈りがきかれたのだと思った。ところが痛みは烈しさを増し、死の境を彷徨っていた。
もう駄目だと思った。自分は見捨てられ、救い主の母になれないと思ったからである。また耳元でささやく声がした。目を覚まして彼女が見たものは天使ではなく、若い大工のヨセフの顔であった。そのとたん、彼女の心から死の恐怖、暗黒の荒野、独りぼっちの心細さが消えていった。
ヨセフは死の恐怖に追いこんだ地獄のようなこの家にマリヤをおいておくことには、もう我慢ができなかった。彼はキレアスとかけあってマリヤは自分の許婚であるから今すぐナザレに連れて帰ると宣言した。
2人の男は散々ののしりあった挙句、キレアスはミリアムの話した醜聞や、若い大工を怒らせるような下品な言葉を使い、彼女を苛酷に扱ったわけを弁明した。
実際マリヤの体には棍棒で叩かれた生傷が沢山あり、彼女の両足は苛酷な仕事で老人の足のようになり、食物もろくすっぽ与えられなかったのである。これを知ったヨセフは初めこの旅館の主人を徹底的にぶちのめしてやろうと思ったのだが、老人の頭の白髪を見て我慢をした。
「全くこいつは悪魔のとりこになってしまった。こいつを独りにしておけば悪魔の餌食になるだろう、これ以上の天罰はないからね」と吐き出すようにヨセフは言った。はたしてこのことが、その年の冬がやってきたときに実現した。旅館の主人は悪魔の餌食になり、無残な最期をとげたのである。
(註1)櫂のある古代・中世期の帆船で、奴隷や囚人に櫂をこがせた。最も苛酷な労役であった。
■2022年7月6日UP■「イエスからの贈り物」これは帰幽後のお話で物質界人生は最悪という意味なのです(祈)†これはまるでイエス様からの、アキトくん、ここまでよくやった、おつかれさま、という終了宣言のように聞こえます。そんな事でいいんですか、あなたたちのやる気はそんなもんですか、しょせんあなたたちは霊界上層界の人間であり、最低界である物質界がどうなろうと知った事ではないという事ですか。物質界と霊界上層界はつながっていて、物質界の無知が霊界に反映されるようになってしまって「このままでは大変な事になる、何としても大胆な手段を講じて物質界に霊的知識を普及しなければ」という事になってスピリチュアリズムを勃興させたのではないのですか…続きを読む→ ■2022年6月29日UP■「どっちが勝つ?」このような近視眼の判断をしないよう神の因果律を正しく理解しましょう(祈)†神を侮るべからず。己の蒔きしものは己が刈り取るべし(ガラテア6・7)神の摂理は絶対にごまかされません。傍若無人の人生を送った人間が死に際の改心でいっぺんに立派な霊になれるとお思いですか。魂の奥深くまで染込んだ汚れが、それくらいの事で一度に洗い落とせると思われますか。無欲と滅私の奉仕的生活を送ってきた人間と、わがままで心の修養を一切おろそかにしてきた人間とを同列に並べて論じられるとお考えですか。“すみませんでした”の一言で全てが赦されるとしたら果たして神は公正であると言えるでしょうか…続きを読む→ ■2022年6月22日UP■「牛ちゃんイイわぁぁぁ♪」牛ちゃんと思いっきり遭遇♪よかったわぁぁぁ♪(祈)†撮影中ずっと話しかけていたので結構疲れましたが、長い撮影を終えて「ゴールタイムが遅れるからもう帰るわよ♪牛ちゃんまた来るわよ♪」と言ってデジ一眼をザックにしまっていると、牛ちゃんが僕の動きに合わせて大移動を開始。僕が帰る方向にずっとついてくるのでした。そして柵の一番端まで来てそこでたくさんの牛ちゃんが群れながら僕を見送ってくれたのでした。僕は少し感動しつつ牛ちゃんに声をかけながら手を振ってお別れし、ゴールの駐車場に急いだのでした。僕は物質界では徹底的にヒドイ目に遭わされながら生活しています。霊団に完全に人生を破壊され心の中は怒りでイッパイの状態で使命遂行していますが、今回のアタックでは牛ちゃんたちのおかげで少し心が安らいだのでした。牛ちゃんは霊界の人間(霊団)と違って優しかったです…続きを読む→